インフレ経済突入で100円ショップを襲う大異変、各社「生き残り戦略」の見通し

インフレ×円安のダブルパンチで 100均がピンチ!

 庶民の味方、100円ショップ(以下、100均)に大異変が起きそうです。原因はコロナ禍とともに進行しているインフレです。原油高でガソリン価格が上がっているのは皆さんお気付きだと思いますが、原油が上がれば当然プラスチックの価格も上がります。ウィズコロナで世界の工場の稼働が鈍化している関係で、物不足も広がっています。

 そして困ったことに、そこに円安が加わりました。1年前は1ドル=104円近辺だった円ドル相場が、直近では1ドル=115円近辺と1割も円が安くなっています。輸入品が中心の100円ショップの仕入れ価格は、為替だけで1割高くなってしまった形です。さらに言えば、消費税も既に10%へ値上がり(!)と、すべての経済指標がデフレからインフレへと変わり始めています。

 100均の未来はいったいどうなってしまうのでしょうか? 事実関係を整理するとともに、「ダイソー」「キャンドゥ」「ローソンストア100」が選択した三つの戦略について紹介しながら、考えてみたいと思います。

円安と原油高は継続する 各社の取るべき戦略は?

 さて、100均市場が拡大した過去20年の間に、実は今よりも原油が高くなった時期がありました。2013年から2014年頃がそのタイミングで、当時はダイソーの商品棚からゴミ箱やプラスチックケース、クリアファイルなどが品薄で消えたこともありました。

 この頃から100均の中に200円、300円、500円(表記は税前、以下同じ)といった違う価格の商品も本格導入され始めました。

 当時は、「全部100円だと思ったのに違うのか?」とクレームが入るケースもあったようですが、現在では高額商品が100均の棚に一緒に並んでいるという状況は、広く消費者に知れ渡っているようです。

 とはいえ、当時の100均危機は企業努力で回避できるレベルの危機でした。仕入れ価格が上昇した商品に関しては、プラスチックを薄くしたり、サイズを小さくしたり、メンディングテープのような商品では長さを短くしたりといった、いわゆるステルス値上げで調整ができたものです。

 今回のインフレ事情がそれと違うとしたら、現時点で仕入れ値が高くなってきているだけではなく、この先、もっと仕入れ値が上がる可能性がかなり高いという点です。

 今回、円ドルレートが円安に振れたのはアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の金利政策と日銀の金利政策の違いが原因です。しかし、結論から言えばこの政策の違いはこの先、力学的にさらに円安の方向に働きます。そして脱炭素の流れを考えると、これから先、石油に関するコストも長期的には上がることに間違いありません。つまり、プラスチックの価格も長期的には上昇傾向になるはずです。

 100均商品の仕入れ値が今後、継続的に上昇していくと仮定した場合、100均各社はどのような戦略を取るべきなのでしょうか? 具体例を見ていきたいと思います。

【戦略1】イオンの子会社になる キャンドゥの戦略

 イオンがこの1月5日、100均業界第3位のキャンドゥの過半数の株式を取得して、子会社化しました。キャンドゥの店舗数は現在約1200店ですが、イオンは5年でキャンドゥの店舗数を2000店に増やす計画です。資本参加をした以上当然とは思いますが、増える店舗の過半数はイオングループの店の中に開店することになりそうです。

 キャンドゥではこれと並行して、高額商品ラインの拡充に取り組んでいます。200円から500円の商品を増やしていくだけでなく、今年4月までに商品の最高価格を1500円まで引き上げる方針です。

 イオンとの提携には、三つの効果が得られそうです。

 一つは、日本で最大店舗数を誇るイオンの中に出店していくことで、規模の拡大が確実になること。

 二つ目に、開発した商品をイオングループの各業態へも提供できるようになること。商品によっては、イオングループのドラッグストア業態など数千店舗への展開が期待できそうです。

 そして三つ目に、イオン側のPB(プライベートブランド)商品の開発にキャンドゥのノウハウが生かされることです。

 このように、あらゆる方向で規模の増大が期待できる今回の資本提携で、「規模の効果」を最大の武器とすることが、キャンドゥの生き残り戦略と言えそうです。

【戦略2】セブンへ商品を供給する ダイソーの戦略

 一方で、100均業界トップのダイソーが、今、面白い戦略に取り組んでいます。お気付きの方も多いかもしれませんが、セブンーイレブンの店舗にダイソーのロゴの入った、ピンク色ののぼりが立てられているお店をちょくちょく見かけるようになっているのです。

 これは、セブンーイレブンの売り場の一部にダイソーの専用売り場を設置した実験です。この実験結果が好調だったようで、セブンーイレブンはこの夏、ダイソー商品を全店で取り扱うことにするといいます。

 ダイソーも、自社店舗では高額商品に力を入れるなどしてインフレ経済をなんとか乗り切ろうとしています。その一方で、コンビニ商品と比較してもダイソー商品の品質は高く、かつインフレを考慮してもまだ価格競争力が高い商品群を有しています。

 セブンーイレブンの強みはPBである「セブンプレミアム」の商品力にあります。食品のラインナップを見ると様々なナショナルブランドの有力メーカーに開発を依頼して、スーパーで売られているブランド食品よりもさらにおいしい商品を展開することで差異化をはかってきました。

 それと同じ考えで雑貨や日用品に関してはダイソーの開発商品を導入する。たとえセブンプレミアムのロゴがつかなくてもセブンと同等の品質の雑貨がダイソーの価格で店頭に並べば消費者は飛びつくはず。それが実験店舗で実証されたということなのでしょう。

 消費者から見ればリーズナブルな価格の日用雑貨をコンビニで買える。セブンから見ればこれまであまり売れなかったカテゴリーの商品が売れ筋になる。ダイソーから見れば売り場のごくごく一部とはいえ、全国2万1000店の販売網が手に入る。100均経営だけでなく、商品供給者としての新ビジネスに力を入れるダイソーの戦略も面白いと私は思います。

【戦略3】コンビニの別業態 ローソンストア100の戦略

 コンビニ3強の中で唯一100円ショップ業態を持っているのがローソンです。そのローソンが全国約700店舗弱を展開するのがローソンストア100。その前身は99円均一で日用品から食品までを展開するSHOP99でした。このSHOP99に資本参加をしてローソンの傘下に収め、店舗ブランドもローソンストア100として展開を始めたのです。

 ローソンストア100が存在するのは首都圏、名古屋、大阪など主に大都市圏なので、地方の方はあまりご存じないかもしれません。普通の100均と違って食品ジャンルが充実しているのが特徴で、私も個人的には一番よく使う100円均かもしれません。

 さて、このローソンストア100ですが、最近鮮明になってきた新しい戦略は、私の目から見れば「脱100均」に向かっているようです。

 他の100均競合が200円商品や300円商品を増やし始めた時期に、ローソンストア100はなぜか「きりの悪い価格設定の商品」の導入を推し進めました。

 キユーピーマヨネーズやカップヌードルなど、有名ブランドの商品を267円とか158円といった具合に、普通の価格設定で棚に置き始めたのです。

 このやり方も100均の200円商品と同じで、導入当初は消費者が混乱したものですが、ローソンストア100ではビールや牛乳1リットルパックのように、「そもそも100円じゃないよな」と思える商品も混在していたせいか、徐々に消費者が普通に受け入れるようになりました。

 その象徴が、カップ麺売り場です。カップ麺はローソンストア100の主力商品の一つです。100円のカップ麺もたくさんあることはあるのですが、「これおいしそうだな」と思うカップ麺は、たいがい178円だったり248円だったりという状況が起きています。

 今では100円じゃない商品の数がどんどん増えた結果、ローソンストア100は100円ショップではなく、価格帯の安いコンビニのような業態へと変貌しました。

 そしてその状況を見ると、「どうやらこのこと自体が、ローソンが考えていたローソンストア100の業態戦略なのではないか?」と気づかされるのです。

 実は長期にわたるデフレ経済の中で、日本社会では「所得の二極化」という現象が起きています。安定したサラリーマンはなんとか中流の下の生活を維持できている一方で、非正規労働者の単身世帯を中心に、中流には入ることができない所得層の生活者の数が増加しています。

 そのような層にとっては実は大手コンビニエンスストアは「手が届くぜいたく」であって、いつもなんでも買いに行けるような場所ではないのです。

 そこで、社会のニーズとして求められるコンビニよりもやや平均価格帯が低い新業態に、ちょうどローソンストア100がぴったりと合致したと言えそうです 。

 100円で売っている商品も多いけれど、全部が100円というわけではない。しかし、概して言えば、すべての食品がコンビニで買うよりもお得だし、高くてもスーパーと同じくらいの価格で買える。しかも24時間営業で、日用雑貨だって品ぞろえは少ないけれど100均と同じ価格なので家計の負担にならないというわけです。

 さて、このようにデフレ経済が生んだ庶民の味方だった100円ショップは、原油高、円安、物価高のインフレ経済の中でこれまでのポジションを変えざるをえない状況に来ています。

 三つの会社のどの戦略が生き残りにつながるのか? それとも第四、第五の道がありうるのか? 業界の未来を期待しながら見ていきたいと思います。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

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