コロナショック「インバウンド6割減」の衝撃度

「数字としては非常に厳しい。状況はさらに厳しくなる」――。観光庁の田端浩長官は3月19日、霞が関の国土交通省で開かれた定例会見で「厳しい」という単語を繰り返した。

この日に発表された2020年2月の訪日外国人観光客数は、新型肺炎の影響で108万5100人(前年同月比58.3%減)と、東日本大震災直後だった2011年4月の同62.5%に次ぐ大幅な減少を記録した。

打撃となったのは、2019年の年間客数約3188万人のうち5割近くを占めた中国と韓国からの訪日客の減少だ。1月27日以降、政府が団体海外旅行を禁止した中国からの2月の訪日客は8万7200人と、2019年2月の72万3617人から9割近い減少となった。

■韓国の訪日客は約8割減

2019年夏から歴史認識や安全保障をめぐる問題で緊張が高まり、前年比で60%以上減少する月が続いていた韓国からの訪日客も、14万3900人(同79.9%減)といっそうの減速を見せている。ほかにも台湾や香港、アメリカなど日本への訪日客が多い国で軒並み2桁の減少率となった。

安倍晋三政権の下でビザの発給要件緩和や免税対象品の拡大により、2012年に836万人にすぎなかった訪日観光客数を足元で3000万人台に拡大し、2020年には4000万人の達成も視野に入れていた。

だが、もはや4000万人の目標達成は絶望的で、新型肺炎の収束見込みも立たないことから、激減がいつまで続くかもわからない。観光庁も「具体的に(訪日観光客の修正目標を)述べるのはなかなか困難な状況にある」(田端長官)というほかない。

観光需要の急減を受け、早くもエイチ・アイ・エスや帝国ホテルなど、旅行・宿泊業を中心に業績予想の下方修正が相次ぐ。さらに、クルーズ会社や着物レンタル会社など、倒産に追い込まれる零細観光業者も出てきた。

3月24日に日本百貨店協会が発表した2020年2月の訪日外国人客向けの売上高(全国91店を対象とする免税売上高)は、新型肺炎の影響に春節期間のズレ(2019年は2月だったが2020年は1月)も重なり、前年同月比65.4%減の約110億円と大幅減に終わった。

田端長官は事態の収束までは「国内での感染(拡大の)防止が最大の支援策」としたうえで、日本人の観光需要回復に力を入れる考えを示した。

2019年の訪日外国人による旅行消費額が4.8兆円なのに対し、日本人の国内旅行消費額は21.9兆円と4.6倍の規模を誇る。世界各国で出国の自粛措置が取られ、日本も水際対策を強化している。それだけに、観光庁としては、移動に制限のかからない日本人の国内旅行が比較的早く回復するとみている。

■過去の知見をどれだけ生かせるか

3月19日の定例会見で田端長官は今後の対応について、「(2003年の)SARSや(2009年の)新型インフルエンザ流行のときも影響を受けたが、それらを乗り越えてきた。感染症の流行があったときに、どういう仕掛けをし、どんな施策で(観光需要が)回復したかという知見はある。それを基に準備を進めていく」と語った。

課題は日本人の観光需要を喚起するためのマーケティングの切り替えだ。従来、人口減少で日本人旅行客の市場規模が頭打ちになっているため、観光庁は外国人による訪日旅行の需要喚起に注力してきた。日本各地の観光地でも、外国人観光客の拡大を前提に、外国人のニーズに沿ったコンセプトの客室仕様を採用したホテルなどが増えつつある。

外国人観光客の取り込みに注力してきた観光行政が、こうした業態も含めて日本人の観光を増やす効果的なキャンペーンやプロモーションを打てるのか。強烈な逆風が吹き付ける中、観光行政の手腕が問われる。

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