政府は13日、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対策を打ち出したが、専門家からは「うまく機能するのか」と実効性を疑問視する声が上がる。発熱患者がそれぞれ重症化リスクを判断し、受診行動を変えられるのか、オンライン診療だけできちんと診断できるのか。課題は山積している。 【図表】ひと目でわかる…政府が想定する、発熱患者の療養の流れ
外来殺到の恐れ
対策は重症化リスクに応じ、受診方法を分けたのが特徴だ。65歳以上や基礎疾患のある人、妊婦、小学生以下の子どもは従来通り発熱外来などを受診し、それ以外のリスクの低い人は原則として自宅で療養する。
しかし、医師からは「患者は高リスクなのかを判断できない」、「受診は止められない」などとして、患者が外来に殺到する可能性を指摘する。国は分かりやすい形で情報を発信することが不可欠だ。
自己検査
低リスクの人はまずコロナの抗原検査キットを使い、自分で感染の有無を調べる。政府はキットの事前購入を呼びかけ始めたが、準備が進むかどうかは不透明だ。
国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長は「感染拡大時に購入していない人が多数いることが予想される」とし、検査施設の拡充を提案する。
キットでコロナ陽性と判定された人は、自治体の「健康フォローアップセンター」に登録する。日本プライマリ・ケア連合学会の大橋博樹副理事長は「感染者が急増し、センターに電話がつながらない事態が起きれば、軽症者が救急車を呼びかねない」とし、同センターの体制強化を訴える。
キットの精度には限界があり、感染していても陰性の結果が出る「偽陰性」も懸念される。
治療遅れも
コロナで陰性の判定が出た場合、インフルエンザ流行時に、急激な発熱などの症状があれば感染の可能性が高いとみなし、希望する人はオンライン診療などを受ける。しかし、対応する医療機関のリストを厚生労働省が公開しているが、患者の中にはよく分からず、発熱外来に行くケースが相次ぐ可能性もある。
「オンラインでは、インフルエンザかどうかをきちんと診断するのは難しい」との声も上がる。九段下駅前ココクリニック(東京都)の石井聡院長によると、全身の状態や、のどの腫れ具合などが確認しづらいという。
抗インフルエンザ薬は診療後、薬局から自宅に配送されるが、結果的に感染していない人が服用する可能性がある。また、感染者でも発症後48時間以降に服用しても、十分な効果は期待できない。日本感染症学会の石田直・インフルエンザ委員長は「自己検査やオンライン診療などで時間がかかり、治療が遅れる可能性が高い」と指摘する。コロナもインフルエンザも自宅療養中に重症化する恐れがある。舘田一博・東邦大教授(感染症学)は「症状が悪化した場合、着実に対面診療につなげる仕組みづくりが欠かせない」と話している。