■コロナ禍でマクドナルドは増収減益
長引く新型コロナウイルスの影響により、多くの企業で業績が悪化しています。特に、飲食店においては深刻な問題となっています。2月から客足が徐々に減少、4月7日には緊急事態宣言が発令。在宅勤務、学校の休校と外出を自粛する動きが強まり、8割の飲食店では売り上げが減少しているとするアンケート結果も出ています。例えば、ファミリーレストランのすかいらーくグループでは、4月の月次売上高は前期比マイナス57.2%、居酒屋チェーンの大庄では3月直営売上高の前期比はマイナス41.7%、4月に至っては開示を一時中止しており、その影響の大きさが伺えます。
そのような厳しい市場環境の中、ファストフード、とりわけマクドナルドは健闘を見せています。マクドナルド公表の月次動向では、既存店における4月の前年同月比売上高は+6.5%となっており、その内訳は、客数はマイナス18.9%、客単価+31.4%となっています。すなわち、客足の減少を客単価増加で補っている形です。競合のモスバーガーは、既存店売上高は前年対比+3.7%、客数マイナス18.3%、客単価+27.0%となっています。競合と比較してもマクドナルドの業績は好調と言えます。
■客単価の増加に成功した鍵とは…
マクドナルドの2020年3月第1四半期決算を見てみると、前年第1四半期の売上高688億円に対して、当期四半期は722億と約+34億円の増収。一方で、営業利益は、前年同期は83億円、当期は77億円で約マイナス6億円の減益です。
それではなぜ、マクドナルドは客単価の増加に成功したのか、また、どうして増収にもかかわらず減益となっているのか。その理由は、デリバリー需要の増加です。
マクドナルドなどのファストフードは、もともとテイクアウト需要が高い業種です。19年9月にマイボイスコムが実施した「ファストフードの利用に関するアンケート調査(第9回)」によると、ファストフードの利用シーンの上位に“テイクアウト”がランクインしています。
■学校休校の追い風、デリバリーが爆増
元々の需要に加え、コロナの影響でデリバリー需要はさらに高まっています。20年3月におけるGoogle Playのフード関連アプリのランキングを見ると、1位がマクドナルド、12位がマクドナルドモバイルと、デリバリーや事前注文によるテイクアウトができる同社アプリが上位にランクインしています。
その他、Uber Eatsは前年同月+191.7%と、そのユーザー数を急激に伸ばしています。マクドナルドでは、Uber Eatsを成長領域における重要な外部パートナーと位置づけ、提携店舗を前年同期から123店舗増やし現在641店舗となっています。
外出自粛の生活の中、保育園・幼稚園や学校も休校となり、家で家族と過ごす時間が長くなっていることもマクドナルドにとっては追い風です。同社では、1960年代から子供をターゲットにしたマーケティング戦略に力を入れています。当時、子供は購買力を持たず、顧客ターゲットになり得ないと考えられていた中、マクドナルドでは、子供が家族をどこに連れていくかの決定権を持っていることに気づきます。
■しかし、客単価は高くなるが、配送費がかかる…
そこで、ピエロのキャラクターで有名なロナルドを設定、テレビ広告に注力。1970年代には、おもちゃとのセット販売であるハッピーセットの販売を開始。現在でも470円と、通常の玩具と比較しても廉価で買いやすい価格設定です。加えて、プレイランドと称される子供の遊び場を備えた店舗も多数あり、子供のニーズを捕らえています。これらのマーケティング施策がコロナ禍でも生き、子供が家にいる状況下において、デリバリーする食事の候補に選ばれる結果につながっているのです。
デリバリー需要が伸びると、配送費がかかるため、販売単価を高めに設定せざるを得ない事情があります。
Uber Eatsでは、店側が注文総額の35%を支払うことになっています。また、自社配送だとしても、1件当り往復30分とすれば、アルバイト時給の半分の500円程度のコストがかかることになります。その結果、販売単価を上げなければ企業としては利益を残すことができません。
■営業利益率の悪化で減益
実際、ハッピーセットの店頭価格は470円に対して、自社配送またはUber Eatsでは510円の8.5%増、ビッグマックセットの店頭価格690円に対してデリバリーでは750円と8.6%増です。さらに、自社配送の場合は、お届け料として300円の請求が加わる他、税込1500円以上の注文から受付となっています。Uber Eatsも数百円の配送料が別途かかります。顧客心理としても、一度の注文でかかる配送費は一定であるならば、まとめて人数分を注文したくなります。
これらデリバリーに伴う値上げや注文額の増加が客単価を押し上げています。その値上げで吸収しきれない配送コスト負担が、営業利益率の悪化という形で反映され、今期は増収減益となっています。
以上のことから、他社と比較して、マクドナルドはデリバリーやテイクアウトで成功している企業と言えます。実際、マクドナルドでは店内飲食の他、テイクアウト、ドライブ・スルー、自社配送、Uber Eatsとさまざまな店外飲食のチャネルを用意しています。なぜ、マクドナルドは店外飲食に強いのか、その答えは歴史から伺い知ることができます。
■マクドナルドは歴史的にテイクアウトに強みがある
マクドナルドは、1937年、マクドナルド兄弟によって創業されますが、1店舗目はドライブインとして開始されます。その後、40年に、店舗を移設し、“カーホイップ”という店の周り360度に車を停めて、そこに従業員が注文を取りに来るドライブイン形式を採用します。マクドナルドは設立当初は座席のないお店としてスタートしたのです。
55年、現マクドナルド創業者のレイ・クロックがフランチャイズ化を提案したことから世界的な拡大をすることになりますが、簡単なイートインスペースが導入されたのは68年とだいぶ後のことです。
日本にマクドナルドが上陸したのは、71年ですが、東京・銀座に出店した日本1号店もテイクアウト専門店からスタートしています。その後、77年に日本初のドライブ・スルーを導入し、他社の事業モデルに影響を与えます。
■マクドナルドの不景気に強いビジネスモデル
競合に当たるモスバーガー、ロッテリアやフレッシュネスもテイクアウトやUber Eatsを活用していないわけではありませんが、マクドナルドのテイクアウトの歴史は長く、消費者心理として店外飲食はマクドナルドというイメージが刷り込まれていると考えられます。
実際、Uber Eatsの配達員が331件配送したうち、102件がハンバーガーであり、そのほとんどがマクドナルドの配達というデータも公表されており、他に追随を許さないデリバリー需要の高さです。
今回のコロナによる営業自粛の中においても、マクドナルドの業績が堅調な背景には、成長を加速するための取組みとしてデリバリーを近年でも位置付けていたこと、古くから子供をターゲットとしたマーケティング戦略の採用、そして企業の創業からテイクアウトを始めていたことがあります。“ローマは一日にしてならず”とはいいますが、マクドナルドの不景気に強いビジネスモデルはその好例ではないでしょうか。
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鳥山 慶(とりやま・けい)
鳥山総合公認会計士事務所(KT Total A&C)代表
1985年生まれ。公認会計士、行政書士。慶應義塾大学卒業。Big4(大手会計士事務所)で、法定監査、IPO支援、ターンアラウンド、事業承継等を経験。その後、外資系戦略コンサルティング会社でM&A戦略、費用削減戦略、新規事業立案等に従事。
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