「社名変更」など向かうべき方針を確認
「今後の会社運営に関するご報告」と題し、「代表取締役 東山紀之」の名前で発表された文書には、19日に取締役会を開き、主に4つのテーマについて議論を重ねたことなどが書かれていました。
皆さまのご意見、ご批判を真摯に受け止め、今後の弊社の在り方について検討を重ねて参りました。
本日、弊社取締役会を開催し、藤島が保有する株式の取り扱い、被害補償の具体的方策、社名変更、所属タレント及び社員の将来など、今後の会社運営に関わる大きな方向性についてあらゆる角度から議論を行い、向かうべき方針を確認いたしました。
今後、法務や税務その他の論点を精査する所存です。そして改めて、10月2日には、その進捗内容を具体的にご報告させていただきたく存じます。
被害者の方々、取引先、ファンの皆さまにおかれましては、ご不安、ご心配、ご迷惑をおかけしております。どうか今しばらくお待ち下さいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
この全文の中で重要なのは、「藤島が保有する株式の取り扱い、被害補償の具体的方策、社名変更、所属タレント及び社員の将来など、今後の会社運営に関わる大きな方向性についてあらゆる角度から議論を行い、向かうべき方針を確認いたしました」という部分。なかでも、各メディアが報じ、人々の関心を誘っているのが「社名変更」でした。
文書発表後、「ジャニーズ事務所 社名変更を示唆」「社名変更なら関ジャニらどうなる」「ジャニ 社名変更なら費用は数億円か」などの記事が立て続けにYahoo!ニュースのトピックスで大々的に報じられ、ネット上には「変えたほうがいい」「当たり前」「最低限のこと」などと、その流れを肯定するような声が目立っています。
しかし、創業以来61年間続いてきた社名を変え、「ジャニーズ」や「J」などのフレーズが消えたところで、同事務所への信頼が簡単に回復することはないでしょう。本質はすでにそこではないのです。
「遅い」「小出し」対応への不信感
そもそも「ジャニーズ」という社名の続行は、9月7日に行われた会見で最も批判されたところ。「その名前を聞いただけでフラッシュバックしてしまう」という被害者がいるうえに、国内外の個人・組織から懸念を示されているのですから、「最終的に『変えない』という選択肢を選ぶことはないはず」という見方が大勢を占めていました。
つまり、すでに「絶対に変えるだろう」「変えなければ崩壊する」などとみなす人が多く、「当然」と思われているということ。その背景には、度重なる対応の遅さと、ダメージを小出しにし続けることへの不信感がありました。
なぜ8月に国連人権理事会と再発防止特別チームから厳しい指摘を受けたにもかかわらず、9月7日の会見で社名変更を選べなかったのか。なぜ東山社長は「ジャニーズというのは創業者の名前ですが、何より大事なのはこれまでタレントさんが培ってきたエネルギーとかプライドだと思うので、その表現の1つとしてとらえてもいいんじゃないかと思っています」「やはり僕らはファンの方に支えられているものですから、それをどこまで変更したほうがいいのか」などと語ってしまったのか。
続く13日に発表された文書「故ジャニー喜多川による性加害問題に関する被害補償及び再発防止策について」でも、なぜ社名変更をスルーして、「今後1年間、広告出演並びに番組出演等で頂く出演料は全てタレント本人に支払い、芸能プロダクションとしての報酬は頂きません」とお金の問題に置き換えたのか。
さらに元をただせば、BBCが「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」を放送した3月から、なぜ約半年間もかかってしまったのか。その間の5月、なぜ藤島ジュリー景子前社長は性加害を「知りませんでした」と語るだけで、9月7日以降のようなスピード感で対応しなかったのか。
このように遅いうえにダメージを小出しにするような対応を重ねてきたことが、「被害者の救済より、できるだけ損害を少なくすることばかり考えている」という不信感につながってしまったのでしょう。自発的に動こうとせず、個人や企業の猛批判を受けてようやく動き出した社名変更は、その象徴と言っていいかもしれません。
東山社長への疑惑にはふれられず
そんな個人や組織からの不信感に気づいたのでしょうか。19日の文書で東山社長は、「社名変更」だけでなく、「藤島が保有する株式の取り扱い」「被害補償の具体的方策」「所属タレント及び社員の将来」も議論したことを明かしています。7日の会見以降、「社名は変更されるはず」とみられている一方、この3点は「本当に大丈夫なのか」と問題視され続けている重要事項だけに、これらにふれたことは適切でした。
文書には「改めて、10月2日には、その進捗内容を具体的にご報告させていただきたく存じます」と書かれていましたが、当日までの13日間という期間は長いのか、それとも短いのか。現在、当事者たちが急いで対応しているのは間違いないでしょうが、前述したようにすでに半年間もの時間が過ぎているため、やはり「遅い」という印象は否めません。
また、今回の文書で東山社長は「社名変更」「藤島が保有する株式の取り扱い」「被害補償の具体的方策」「所属タレント及び社員の将来」の4つを“今後の会社運営に関わる大きな方向性”に挙げていましたが、1つスルーされているものがありました。
それは東山社長自身のハラスメント疑惑への対処。7日の会見では、あいまいな釈明に終始し、その後も新たな疑惑が報じられるなど、世間の心証はさらに悪化した感があります。
しかし、仮にハラスメント疑惑が解消できても、東山社長への不信感が消えるわけではないのが苦しいところ。そもそも「再発防止特別チームから“解体的出直し”を求められながら、外部ではなく加害者や旧経営陣にかなり近い内部のタレントを社長に起用した」という事実は変えられません。東山社長は年月をかけ、労力を惜しまず、真摯な姿を見せ続けることでしか信頼を回復していくすべはないのでしょう。
「本気で変わる」ために効果的なもの
では、新たな社名になったあと、どんなことをしていけば信頼回復しやすいのでしょうか。
最もシンプルで即効性がありそうなのは、これまでとは真逆の方法を選ぶこと。
例えば、「歌やダンスなどで徹底した実力主義を掲げる」「他事務所のグループと積極的に共演して良好なライバル関係を築く」「新人発掘と育成方法を刷新してガラス張りにする」「マネジメント側が表に出て世間に発信する」など、これまで問題視されていたことと真逆のことをするだけで「大きく変わった」と印象付けられるでしょう。
一度その印象が最悪のレベルまで下がった分、上がりはじめたときの落差は大きく、「むしろ他事務所のタレントよりクリーンな印象を与えられる」という見方も可能。もちろん、かなりの労力と費用がかかるでしょうが、世間とメディアの注目を集められる分、「新たなファンを獲得するチャンスに恵まれやすい」ところもありそうです。
ジャニーズ事務所の事業が“アイドルありき”のビジネスモデルである以上、新経営陣が最も恐れているのは「大量の退所者が出ること」でしょう。ここに来て社名変更の話が持ち上がったのは、それを避けるために「新経営陣が『タレントを守ろうとしている』ことを本人たちに感じてもらいたい」という理由もあるのではないでしょうか。
ともあれ、タレントたちにとっては、「社名変更するであろう事務所に残るか」、それとも「他事務所に移籍するか」の選択は自由。特にグローバルな活動を考えているタレントは、海外から厳しい目が向けられる中、自ら適切な判断を下さなければいけないでしょう。
今や個人だけではなくグループ全員で他事務所に移籍しても文句は言われないような状況だけに、まずは10月2日に「所属タレント及び社員の将来」についてどんな発表があるのか。その内容によっては、誰にどんな事態が起きても不思議ではありません。
組織はそのままで社名だけ変えるのか。それとも新会社を設立してタレントを移籍させ、社長は外部から招き、株は創業家以外の人物が保有する形にするのか。さらに「グループごとに子会社を作る」という案も報じられています。当日までの間は、個人で考えるだけでなくグループ間でも意思確認をするなど、タレントたちにとっても重要な日々になるのでしょう。