広告であることを隠して一般の口コミを装い、インターネットや交流サイト(SNS)で商品などを宣伝する「ステルスマーケティング(ステマ)」が、2023年10月から法律で規制されることになった。
事業者(広告主)が対象だ。違反すれば行政処分(再発防止を求める措置命令)の対象とし、悪質な場合は刑事罰が科される可能性もある。これまで規制する手立てがなかった日本だが、「ステマ天国」から脱却なるか。
事業者が第三者に対価を支払い、商品やサービスを宣伝してもらうステマ 数年前から問題視
ステルスマーケティングは、事業者がSNS上で影響力を持つ「インフルエンサー」や著名人といった第三者に金銭などの対価を支払い、個人の感想であるかのように装い商品やサービスを宣伝してもらう行為を指す。敵のレーダーに察知されないステルス戦闘機から名付けられた。
2012年に飲食店のランキングサイト「食べログ」で、業者が好意的な投稿をする見返りに店側から報酬を得ていたことが発覚。22年には動画投稿アプリTikTok(ティックトック)の日本の運営会社が、インフルエンサーに報酬を支払い、特定の動画を一般投稿のように紹介させていたとして謝罪に追い込まれたこともある。
消費者は広告だと認識すれば、良いことしか言わない、あるいは多少の誇張が含まれていると考えるなど、ある程度の警戒心を持って商品選択をするが、ステマはこうした判断をゆがめる恐れがあるとして問題視されてきた。消費者庁の有識者検討会が2022年12月、規制の必要性を提言した。
消費者庁「運用基準」を公表…「広告」の明確化、第三者の表示内容への関与の有無などから判断
検討会の報告を踏まえ、消費者庁は2023年3月28日、「おとり広告」など、景品表示法に基づいて、個別に告示として指定する不当表示の類型にステマを追加した。10月1日から実施する。具体的には、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」と、ステマを定義した。
あわせて、何が規制されるのかをまとめた「運用基準」を公表し、大きく二つの判断基準を示した。
一つは「広告」であることが明確かどうかだ。
「広告」「プロモーション」などの文言が明確に示されていればよいが、記載がなかったり、文字が小さいなど不十分な記載方法だったりすれば、ステマとみなす。
もう一つは、事業者が第三者の表示内容に関与しているかどうかだ。
両者の間の具体的なやりとり、対価の内容、過去・今後において対価を提供する関係性があるかなどの客観的な材料をもとに、個別に判断する。
事業者による無償提供がある場合、どこまで「自主的な意思」で書けるか疑問符
ただ、グレーゾーンは残る。
景表法は、規制の対象を「自己の商品やサービスについて事業者が行う表示」に限っている。このため、事業者が無償で商品を提供し、ネット上で自由に書いてもらうなら、規制対象にならない。事業者が感想文などに関与していない以上、違反にはならないということだが、商品を無償で提供されて、本当に「自由に」書けるのか、疑問符がつくところだ。
もちろん、消費者庁は、自主的な意思に基づく投稿といえるか、さまざまな観点から、客観的に判断すると運用基準の中でも強調している。
事業者と第三者の間に明示的な依頼・指示がなくても、金銭や物品、イベント招待などの対価を受けられる関係にある場合は、自主的な意思と認められず、規制対象になる可能性がある。
具体的に、過去に取引があった場合や、将来の取引など経済的利益を示唆するなどの場合は、自由意思とはみなされないだろう。無償提供が試食品なら問題ないとしても、たとえば高額な家電製品などは対価とみなされるかもしれない。
EUでの規制対象は、他者の商品について投稿をした第三者も 日本では該当せず、今後の課題に
専門家などからも、抜け道を指摘する声が上がる。
ある消費者運動関係者は「最低限、無償提供を受けた場合は、その旨を投稿に明記するよう義務付けるべきだ」と語る。
また、欧州連合(EU)は「誤認惹起(じゃっき)的な行為」を広く禁止しており、ステマの場合、他者の商品について投稿をした第三者も規制対象だ。日本は投稿した第三者は規制対象外で、これも、今後の課題だろう。
河野太郎消費者相は3月28日、「インフルエンサーは対象外となるなど、海外と比べて規制が緩いとの指摘もある」と認めつつ、「まずは運用してみて解決できない問題がある場合は見直したい」と述べ、実施状況を見て規制強化も検討する姿勢を示した。(ジャーナリスト 白井俊郎)