セブンの主張覆すファミマ実験の「爆弾」、深夜閉店でもオーナーは増益

深夜閉店を実施しても、オーナーの利益が必ずしも減るわけではない――。コンビニエンスストア業界2位のファミリーマートが深夜閉店の実験結果を公表し、業界を揺さぶっている。加盟店の約半数が時短営業を検討しているというアンケート結果もファミマは公表。「深夜閉店はオーナーの利益が減る」「時短営業を希望する加盟店は少数派」としてきた、業界王者セブンーイレブン・ジャパンの主張が覆されたことで、セブンの混乱に拍車をかけそうだ。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

減収でも減益になるとは限らないと結論 ファミマの半分の加盟店は「時短を検討」

 コンビニを深夜閉店すると、店舗の売り上げは減少傾向になるが、加盟店オーナーの利益は前年を上回ったケースもあった――。

 これは、コンビニエンスストア業界2位のファミリーマートが8月23日、都内で開いた加盟店オーナー向け説明会で明らかにした時短営業実験の結果である。

 ファミマが希望する加盟店を募り、時短営業の実験をしたのは6~7月。毎日深夜に閉店する実験に参加したのは駅前、オフィス街、住宅地各1店、ロードサイド2店の計5店だった。

 まず、店舗の売り上げは総じて減少傾向だった。とりわけ、住宅地の店は、閉店時間を午後11時~翌午前7時と他の実験店より長くしたこともあり、売り上げが大幅に減った。さらに本部から深夜営業の奨励金も支払われなくなった。

 ところが、深夜の従業員が不要になったことで、加盟店が負担していた人件費が減った。オーナーの利益は、6月は前年を下回ったが、7月は増益となったのだ。

 他の実験店も同様に、売り上げが下がり、深夜営業の奨励金がなくなる一方で、人件費の削減効果もあるため、オーナーの収益という視点でみると駅前店は2カ月とも増益。オフィス街の店は6月のみ増益、ロードサイドでは2店のうち1店が7月だけ増益だった。

 実験結果を分析したコンサルティングファーム大手のKPMGは、この5店の実験について、売り上げは減少傾向だったものの「総収入(店舗の売り上げ)の増減と、営業利益(オーナー利益)の増減に一律の傾向はみられなかった」と結論付けた。

 この他に、10店舗で毎週日曜日のみ深夜閉店する実験も並行して実施したが、こちらは売り上げ、オーナー利益ともに一律の傾向はみられなかったとしている。

 ファミマはこの実験結果を、全国7会場で約800人のオーナーに説明した。8月23日の都内の説明会は報道機関に公開され、澤田貴司社長や加藤利夫副社長、KPMGの担当者らが出席し、「閉店時間中の冷蔵庫や照明の作動状況は」「深夜に働いていた従業員の雇用はどうしていたのか」といった、加盟店側からの20を超える具体的な質問に答えた。

 結果を受け、ファミマは10~12月にかけて深夜閉店の実験を再度実施する計画だ。募集するオーナーは700人と規模を拡大。毎日と週1日の2パターンで深夜閉店の効果を検証する。

 加えて、ファミマは6月に全国1万4848の加盟店向けに時短営業に関するアンケートを実施し、その結果を7月下旬に公表した(回答率は98.1%)。

 その結果、時短営業を「検討したい」との回答が7039店、うち5193店が「週1日」ではなく「毎日」の時短を検討すると回答した。

 時短を「検討しない」と答えた7106店のうち、その理由を「24時間営業に支障なし」と回答したのは1587店に過ぎず、「売り上げに対する影響がある」(3314店)、「店舗開閉作業に負荷がかかる」(1443店)といった理由があった。こうした課題が解消されれば、時短を検討するという潜在的な需要も考えられる。

 これらの結果を踏まえれば、ファミマの加盟店の少なくとも約半数が時短営業を検討していること。そして、サンプルはわずかながらも、深夜閉店によって売り上げが減少しても、オーナーの利益が減少するとは必ずしも言えないということは明らかだ。

 今回のファミマが公にした実験結果は、「深夜閉店をすればオーナーの利益は減る」としてきた業界最大手のセブン-イレブン・ジャパン(SEJ)の主張を揺るがす“爆弾”になる。

「オーナーの収益確保」を理由に時短を否定 問われるセブンの“言い訳”の根拠

 SEJの主張の根拠は、3月に都内の直営店で始めた深夜閉店の実験だ。ところがこの時は、深夜の閉店中にも関わらず、3人の従業員が作業を継続。「閉店中にどれだけ人件費をかけるのか」と、加盟店オーナーの顰蹙を買った。今回のファミマの実験では、閉店中の1店舗のオーナーや社員を除くアルバイト従業員の配置人数は、多い店でも平均で0.9人。0人の店も多かった。

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)の井阪隆一社長やSEJの永松文彦社長らは記者会見などの場で、「オーナーの収益を守らないといけない」と繰り返し、深夜閉店のメリットを躍起になって否定してきた。だが、店舗ごとの事情はあるとはいえ、ファミマの実験結果はこうした主張を覆した格好だ。

 また永松社長は、ダイヤモンド編集部を始めとするメディアのインタビューの場で、「時短営業を求める加盟店は少数派だ」と再三にわたって強調。「実験をしている店、希望している店は全体の1%のレベル」と語ったこともあった。

セブンの時短希望オーナーは“少数派”なのか 前社長の存在が“時短潰し”を後押し!?

 だが、本編集部が以前にも指摘した通り、時短営業を希望する加盟店は、SEJの主張よりも水面下でははるかに多いとみられる。なぜなら、「経営指導員」(OFC)と呼ばれる加盟店の窓口になる本部社員や、その上司である各地区の責任者らが、加盟店の時短営業の希望を軒並み阻止してきたからだ。深夜の閉店中にも従業員を残すことを要求したり、特定の商品の納入を止めることをちらつかせたりして、時短実験への参加を断念させる”時短潰し”が横行しているのだ。

 セブン-イレブンのある現役オーナーは、「地区の責任者が、嫌がらせのように2時間も3時間も店舗に居座って説得してきた」と怒りと共に振り返る。このオーナーは、約3カ月にわたる交渉の末に深夜の無人閉店実験にこぎつけたることができたが、「時短営業をしたいが、本部の圧力が怖くてできないと、他のオーナーから相談を受ける」と打ち明ける。

 あるSEJの関係者は「前SEJ社長の古屋一樹氏を、代表権がないとはいえ会長に残したことで、社内に誤ったメッセージを放ってしまった」と嘆く。「人手不足はわれわれの加盟店にとって問題だという認識はない」などと昨年末に言い放ち、守旧派で知られた古屋氏は、24時間営業問題をめぐる加盟店の”反乱”を抑えられず、4月に引責辞任した。しかしその後も会長職にとどまったことで、一部の社員を”時短潰し”に走らせる理由になったとの見立てである。

 全国2万店超のSEJの加盟店のうち、時短を希望し実験に参加している加盟店は、永松社長の語った「1%のレベル」である百数十店にとどまる。7000店超が時短を「検討する」としたファミマのアンケート結果とあまりに大きくずれている。

 ちなみにSEJも、深夜閉店などの意向を加盟店に尋ねるアンケートを7月中旬に実施している。あるセブンのオーナーは、「自由記述欄があり、質問内容も充実した、しっかりしたものだった」と振り返る。ところが、このアンケート結果は未だに公開されていない。

ローソンは深夜営業の自動化実験をスタート 混乱続く王者セブンは方向性が見えない

 そんな中、今年2月に自主的な深夜閉店を始めた大阪府東大阪市のセブンオーナーの松本実敏さんは、今度は日曜日を定休日とする考えを本部に表明した。松本さんは自身のツイッターで、日曜日の休業に踏み切った場合は加盟店契約を解除すると記された、本部からのものだとする文書の画像を掲載。「従業員不足は、(松本さんの)従業員さんに対する指導・教育が時代の変化にあっていない」「(松本さんが従業員に対し)研修中の給与未払い、レジの違算の補填など明らかな労働基準法違反行為を行った」と本部側は文書で指摘してきたという。

 松本さんは本編集部の取材に対し、これらは労働基準監督署と相談の上で実施したことで、改善を求められたケースはそれに応じて来たと回答した。

 8月27日にはSEJ幹部が松本さんの元を訪れて協議。幹部が加盟店の待遇改善に取り組む意向を示唆したことで、次の日曜日である9月1日の休業は“保留“した。松本さんは「加盟店全体への具体的な改善策やその公表期限は示されなかった。あくまでも保留だ」と話した。一般的に人手不足の深刻化と人件費の高騰を考えれば、24時間営業だけでなく年中無休の可否も十分に今後の課題となり得る。

 また業界3位のローソンも横浜市内の加盟店の店舗で、深夜の間は、入店から会計までを客が“セルフ”で行う実験を8月23日から始めた。バックルームでは従業員1人がカメラで店内を監視し接客などは行わないが、今後無人化の可否も検討する。

 コンビニ加盟店をめぐる苦境や問題の構造は各社で共通しているが、ファミマ、ローソンは少なくとも、なるべく客観的に状況を把握し、解決策を探ろうとする明確な姿勢は見て取れる。だが、王者セブンから漏れ伝わるのは、方向性を失った混乱の様子ばかりだ。

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