イーロン・マスク氏買収後、引き続き混乱が続いているツイッターですが、米国では、ツイッターの移行先として「Bluesky」というサービスの注目度が急上昇しているようです。
特に、Blueskyが注目される背景には、ツイッターの「認証マーク」をイーロン・マスク氏が有料サービスに変更し、実質「課金マーク」化した後の混乱が大きく影響している模様。
本来は「認証マーク」が一気に著名人からも消えるはずが、あまりに著名人の課金への移行率が低いため、イーロン・マスク氏が100万人を超えるフォロワーだけ強制的に「認証マーク」を残すという判断を強硬。
その結果、課金をしていない著名人もまるで課金したように見える状態になっていることが、特に米国では大きな物議を醸しているのです。
参考:ツイッター認証バッジが一部復活、「フォロワー100万人」が基準説
その結果、こうしたツイッターにおけるイーロン・マスク氏の独裁ぶりに不安を感じた一部の著名人が、移行先に選択して注目されているのが分散型ツイッターとも呼ばれる「Bluesky」というわけです。
ただ、Blueskyが今すぐツイッターの後継サービスとして機能するか?と言われると、まだそれには時間がかかりそうと言うのが正直な印象です。
まずは、特に日本の方が、現時点でBlueskyについて知っておくべきことをご紹介しておきたいと思います。
ポイントは下記の3点です。
■まだ招待制で限られた人しか利用できない
■Blueskyの本質はプロトコルである
■ビジネスモデルがまだ存在していない
■まだ招待制で限られた人しか利用できない
現状のBlueskyが、短期的にツイッターの後継サービスとして機能する可能性が低い最大の理由は、Blueskyが現在招待制を通じて会員増加ペースをかなり厳しく抑え込んでいる点です。
筆者は、幸い招待コードを入手して1ヶ月前からBlueskyを利用することができていますが、招待コードはアクティブなユーザーに対してたまに配布される程度で、かなり入手が困難です。
米国で大きな話題になる上で、特にインパクトが大きかったのが、若年層に非常に人気がある政治家であるアレクサンドリア・オカシオコルテス議員のBlueskyアカウント開設でしょう。
「AOC」の略称で知られるオカシオコルテス議員は、アカウント開設後かなり積極的にBlueskyに投稿を行っており、既にフォロワー数も1万人を超えています。
なにしろオカシオコルテス議員は、ツイッターのフォロワー数も1300万を超える人気議員。それに影響されてか、様々な政治家もBlueskyにアカウントを開設し始めています。
また、それ以外にも、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のジェームズ・ガン監督や、コメディアンのドリル氏などがアカウントを開設して話題になっているのです。
ただ、その結果、招待コードはより入手が困難な状況になり、一部のオークションサイトでは数万円の値段で売りに出されていたりもするようです。
なにしろ現時点のBlueskyのユーザー数はまだ5万人程度ではないかと言われていますが、アプリのダウンロード数は既に36万を超えているというデータがあります。つまり30万人近い招待待ちのユーザーがいる可能性があるわけです。
これには、まだBlueskyが文字通り開発中のサービスであり、大勢のユーザーを受け入れる準備ができていない点が大きく影響しています。
■Blueskyの本質はプロトコルである
Blueskyという会社が、Blueskyという分散型ツイッターアプリを公開しているのでついつい筆者自身も、BlueskyのアプリこそがBlueskyの最大の成果物だと思い込んでいました。
ただ、実はBlueskyという会社が本当に開発しようとしているのは「ATプロトコル」と呼ばれるツイッター的なサービスを分散型で運用するためのプロトコル自体の開発です。
筆者が、日本で開催されたBluesky Meetupで代表のJayさんに質問した際にも、現在のBlueskyアプリは、ATプロトコル上で動くアプリのサンプルとして開発したものだと明言されていました。
参考:「Bluesky」はSNSと言い切れない理由、そして世界初のミートアップが東京で行われた事情
Blueskyと言う会社は、もともと2019年にツイッター社の中のプロジェクトとして誕生した経緯があります。
その後、ツイッター社の経営権の混乱を目の当たりにした現在のBluesky代表のJayさんやツイッター創業者のジャック・ドーシーさんが中心になり、ツイッターとは直接資本関係がないPublic Benefit LLC という公共利益を最重要視する組織形態に切り替えた経緯があるのです。
上記は2021年にJayさんがBlueskyの提案資料として作成したイメージ図ですが、ツイッターの鳥アイコンがカゴから飛び出して青空に向かうという象徴的な画像となっています。
つまり、Blueskyの真の目標は、eメールやブログや電話番号のように、オープンで分散型のソーシャルネットワークを可能にするプロトコルを確立することです。
はからずも現在のイーロン・マスク氏に買収されたツイッター社が体現しているように、中央集権型のソーシャルネットワークサービスは資本の論理や一部の経営者の論理に方針が左右されがちです。
Blueskyはその問題に対する解決策としてのプロジェクトになるわけです。
ただ、当然ながら中央集権型のサービスに比較すると、分散型のサービスというのは規模を大きくしようとすると、様々な分散型ならではの課題を抱え込むことになります。
現在ATプロトコルの開発において、このスケーラビリティの課題を解決できるかどうかが最大の懸念点であり、そこが突破できると確信できるまでは、運営側も簡単に招待コードの発行数を急増させることが物理的にも難しいという背景も透けて見えます。
■ビジネスモデルがまだ存在していない
さらに、ATプロトコルのスケーラビリティの課題が解決できた場合にも、Blueskyにとって大きな課題として残されているのがビジネスモデルです。
現在のBlueskyは、収益があげられる体制になっていないため、あくまでサンプルとしてのサービスを無償で公開している状態になっています。当然ユーザー数が増えればサーバーの負荷も増え、それだけコストがかさむことになります。
こうしたスタートアップは通常、ベンチャーキャピタルから上場や企業売却を目指す前提で資金調達を実施しますが、BlueskyはPublic Benefit LLCという企業形態を選択しており、おそらくオープンソースを前提とした成長を模索しているものと考えられます。
Facebookやツイッターのような既存のプラットフォーム大手は、ネット広告を収益源とすることでSNSの運営費をまかなってきましたが、Blueskyは分散型のプロトコルを標榜しており、単純な広告モデルではないビジネスモデルを模索する可能性も高いと考えられます。
例えば、eメールやブログや電話番号のように、オープンで分散型のプラットフォームを成立させるのであれば、eメールのようにインターネットプロバイダが回線費用に紐付くサービスとしてBlueskyのサーバーをユーザーに提供するようなモデルも想定されます。
ただ、このビジネスモデルが確立して、運営者が真に分散するまではBlueskyとしても招待コードを多発するアクセルが踏みにくいのが現状といえるわけです。
それでもBlueskyに日本での可能性を感じるわけ
上記の3つのポイントを踏まえると、現時点で一般の日本の方がツイッターの移転先としてBlueskyを選択するのはまだ時期尚早というのが現状です。
あくまでBlueskyは実験中のサービスとして、捉えておくのが無難でしょう。
ただ、一方でではBlueskyは日本人には関係ないサービスか?と言われるとそうではなく可能性を感じるのが、日本人エンジニアコミュニティの存在です。
実は世界でいち早くBlueskyのMeetupが開催されたのが、この日本でした。
参考:「Bluesky」世界初のミートアップが東京で開催!開発者のエコシステムが熱かったTwitter黎明期を思い出す夜に
この4月7日の時点で、すでに日本のエンジニアがさまざまなBluesky関連サービスの開発を行っており、当日紹介された取り組みは11件にものぼります。
実は、こうした日本のエンジニアによる周辺サービスの開発が影響して、世界的にも珍しいほどに日本が高い利用率になったサービスが、ツイッターです。
現在はイーロン・マスク氏の方針変更により、ツイッターのAPIはほぼ全て有料化された関係で、多くの個人開発者のサービスが終了や休止に追い込まれる結果となっていますが、ツイッターの日本での高い利用率は、日本のエンジニアによる周辺サービスの開発が影響していたことは間違いないと言えるわけです。
参考:twilogは「ツイート取得終了」へ Togetterは「可能な限り対応」 Twitter API有料化の波紋
こうした日本のエンジニアの開発力やアイデアが、Blueskyのプロジェクトに転換されていくとしたら、Blueskyがツイッター同様に日本で使いやすいサービスとして人気を博す可能性は十分あると感じるわけです。
SNSもインターネットやeメールのように分散型になるか
もちろん、Blueskyの挑戦が成功して、1社独占で提供されるツイッターやFacebookのようなサービスが、将来的にeメールのようにオープンなサービスとして成立するかどうかは全く分かりません。
ただ、現在世界中の企業が連携しているインターネットやeメールのようなサービスも、元々は「パソコン通信」と呼ばれる1社独占で提供されていたサービスでした。
それが、様々なプロトコルの確立によって世界中の企業が連携して運営することが可能になったわけです。
そう考えると、現在1社独占で提供されているツイッターやFacebookのようなSNSが、分散型で提供されることは不可能とは言い切れないはずです。
そうした未来が来るのかどうか、来るとしても何年かかるのか。
現時点では全く分かりませんが、Blueskyと日本のエンジニアコミュニティの挑戦を引き続き注視したいと思います。