トヨタの大英断、販売系列実質廃止は「ディーラー消滅」の前兆か

事実上の系列廃止どの店でも全モデル販売へ

2018年11月1日、全国トヨタ販売店代表者会議で発表された内容はトヨタ史上、最大級のインパクトがあった。

トヨタ本社とディーラー各社が「事実上の販売系列廃止」で合意したのだ。トヨタのプレスリリースでは「未来のモビリティ社会に向け、日本の販売ネットワークを変革」と表記された。

具体的には、2022~2025年を目途に現在のトヨタ店、トヨペット店、カローラ店、ネッツ店という4系統で原則、全販売店全車種併売化を実施する。ただし、一部地域を除いて屋号は残す。

トヨタの場合、本社が直接資本参加する直系ディーラーは、実は全国のうち1割程度と少ない。トヨタ本社から新車を卸す形で、各地域の地場資本の企業が販売事業を行ってきた。

今回の販売系列再編でトヨタはまず、直系ディーラーの再編から着手する。トヨタ本社が100%資本参加しているトヨタ東京販売ホールディングス傘下の東京トヨタ自動車、東京トヨペット、トヨタ東京カローラ、ネッツトヨタ東京の4社を2019年4月に統合し、新会社トヨタモビリティ東京として再出発する。こうした直系ディーラー内での組織再編をベンチマークとして、地場資本ディーラーそれぞれが社内事情や地域性などに鑑みて事業を変革していくことになる。

今回の「事実上の販売系列廃止」に伴い、現在約40ある日本国内市場向け車種も、2022~2025年頃を目途に約30車種にまで絞り込む。

その他、ディーラー再編に伴い、ディーラーにおける事業内容の変革にも着手する。例えば、保険、メンテナンス費用などを込みにしたサブスクリプション(毎月定額支払い制度)モデルサービス「KINTO」を、2019年初めを目途に開始する。

ついに始まったディーラー再編に伴う自動車流通革命。

いったいこれから、ディーラーはどうなってしまうのか?

トヨタ東京本社で役員との意見交換トヨタにとって未知の領域がまだまだ多い

1日の名古屋会見の翌日、都内のトヨタ東京本社で、東京のメディアに対して担当役員が出席する記者会見が開催された。出席したメディアは40人ほどで、会見というよりトヨタとメディアとの意見交換の場としてトヨタ広報部がセッティングした。

担当役員は、国内販売事業本部の副本部長で常務役員の長田准氏。

今回の意見交換での質問と回答の中からいくつか、消費者の関心が高いと思われる内容について紹介する。

・ディーラーは今後、数が減るのか?

「新車が5000店舗、レンタリースが1000店舗、都合6000店舗あるが、メーカーとして、意識的にディーラーの数を減らすことは考えていない。(地域によっては地場ディーラーの経営方針として)短期的には減る可能性はある」

・ ディーラーからの反発はなかったのか?

「(全体としては)2年間をかけて進めてきた話だ。(販売方針を)全国一律という考えから地域重視へ見直してきた。また、働き方変革としても(販売事業は)生産性が高くなく、デジタル(事業領域としての)推進を強化したい。ディーラー各社には今年初めから地域会議で説明してきた。販売チャネルで扱う商品が同じという商法は、市場が右肩上がりの場合だ。そうした中で(業界内での)利害関係より顧客第一という点で各社とヒアリングした結果、トヨタ側とディーラー側で(変革に対する考え方が)腑に落ちた」

・ 国内販売150万台の維持を強調するが、2025年時点で販売形態はどのように変化すると見込むか?

「(このままの国内市場の)成り行きだと120万台まで下がると考えている。これを150万台にするために30万台の差がある。(その差を埋めるために)個人の自動車保有平均年数である約9年に対応して、リース・残価設定ローンによる3~5年での乗り換えによって15万台。また、法人向けで10万台、そして新しいジャンルで5万台と見込む。そのなかでシェアリング(の市場に対する影響の度合い)については現状でわからない。市場動向を見ながら、もう少し時間が経ってから(対外的に)説明したい」

・ ディーラーが今後変革する姿として説明があった「総合生活サポーター」とは具体的にどのようなものか?

「例えば、(地場ディーラーが所有する)社員寮をインバウンド観光客のシェアリングホテルとする。シェアリングカーによって飲食店、またはレクサスのボート事業などでのクルージングと連携させる。(さまざまな視点で)地域の皆さまにその地域を(より深く)知ってもらうような、旅行業者としての観点も必要だろう。行政との連携も視野に入れることになると思う」

なぜ、2025年なのか?製販分離は本当に解消されるのか?

では、なぜトヨタはこのタイミングで流通網の再編を行うことを決めたのか。

筆者が考える理由はいくつかある。

まずは、いわゆる「2025年問題」を見据えた対応だ。

現在、トヨタの新車オーナーの年齢は高齢化が続いており、例えば小型セダンのカローラアクシオでは60代~70代に達している。こうした高齢オーナーの中で、クルマ好きで知られる「団塊の世代」は2025年には75歳を超えて免許返納を真剣に考える時代となる。

また、デジタルネイティブと呼ばれる、スマートフォンなどデジタル機器をライフスタイルの中心としている世代が、2025年には自動車を含めた消費市場の中で占める割合が高まる。そうした若い世代の消費行動は、すでに「所有から共有」が当たり前になろうとしている。欧米や中国で急速に普及してきたライドシェアリングなど、各種のシェアリングエコノミーが既存の自動車流通システムに大きな影響を及ぼす可能性が極めて高い。

今回、ディーラー再編の全国展開を2025年までに実施するとしたことは、こうした「2025年問題」への意識の現れだと思う。

もうひとつ、自動車流通を変革する際に大きな課題となるのが「製販分離」だ。

メーカーとディーラーは事実上、完全に分離した存在であり、その証拠としてディーラーが所有する顧客データの多くはディーラーの所有物であり、メーカーと情報共有している割合は決して高くない。トヨタ以外で、メーカーの直営比率がかなり高いメーカーでも、そうした傾向がとても強いと関係者は証言する。

そうした中、トヨタは今年6月発売のクラウンとカローラスポーツを皮切りに、DCM(データ・コミュニケーション・モジュール)と呼ぶ車載データを専用クラウドシステムに送信する機器の、各モデルへの搭載を進めることを決めた。

メーカーが車両の走行状態や、顧客の嗜好などのデータを直接入手して解析できる時代に、メーカーとディーラーとの関係が大きく変わるのは当然だ。

トヨタが進める「100年に一度の自動車大改革」の中で、今回のディーラー再編は、氷山の一角に過ぎないのではないだろうか。

トヨタ東京本社での記者会見に参加しながら、そう感じた。

(ジャーナリスト 桃田健史)

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