ドコモよりauとソフトバンクの体感品質が上がっている事実

先日、一部メディアが「NTTドコモが通信設備の調達を国内ベンダーから海外ベンダーに切り替える」と報じた。ここ2年ほど、ネットワーク品質が低下しており、ユーザー体感として目立った改善が見られないからというのが理由のようだ。

 そんななか、ユーザー体感の指標として、すっかり業界内に認知されたOpensignal社が最新の調査報告レポートを発表。KDDIが18部門中、13部門でナンバーワンを獲得した。ここ数年は、ソフトバンクがナンバーワンというポジションを築いていただけに、KDDIが逆転した格好だ。

 KDDIは海外ベンダーを中心にネットワークを構築している。「やはり、海外ベンダーのほうが優秀なのか」と思ってしまいがちだが、必ずしもそうではないようだ。

 KDDI コア技術統括本部の前田大輔技術企画本部長は「4G周波数帯を5Gに転用しつつ、Sub6では高密度に基地局を打っていった。また、ビッグデータを集め、地道に品質の改善活動を高速に回してきたのが大きい」と語る。

KDDI コア技術統括本部 前田大輔技術企画本部長

4G周波数を5Gに転用してきたKDDI

 KDDIでは、すでに全国展開されている4Gの周波数帯を5Gに転用していくという計画を立てた。それにより、通信速度は必ずしも高速ではないが、広く面展開できるメリットがあった。

 実は5G向けに割り当てられた「Sub6」と呼ばれる周波数帯は、5Gがスタートした2020年当時、衛星と地上局の通信でも使われており、干渉が起きてしまって、満足に使えないという状況があった。

 Sub6に対応した5G基地局を建設するものの、衛星との通信と干渉しないよう、出力を下げる、電波が飛ぶ向きを下向きにするなど実力を発揮できない状態が長く続いていたのだ。

 KDDIではSub6の基地局を地道に建設し続け、業界最多となる3.9万局を数えるまでになった。

 今年になって、衛星の地上局が別の場所に移転したことで、干渉が緩和。Sub6の出力を一気に上げ、エリアを2.8倍までに拡大することに成功した。

 「4G周波数帯の転用」「衛星の干渉緩和」という点においては、KDDIもソフトバンクも状況はあまり変わらない。ただ、KDDIはSub6の周波数帯を2ブロック、合計200MHz幅持っている。この周波数の幅が広いということはそれだけ大量のデータを一気に流せるというわけだ。

 一方のソフトバンクは1ブロック、100MHz幅しか持っていない。

 今後、新たにソフトバンクに対して周波数帯を割り当てられる可能性もあるが、KDDIの前田氏は、「仮にソフトバンクが4.9GHz帯を獲ったとしても、4.9GHzは既存の事業者が多く使っている。そのため、(別のところに移動してもらうための)移行期間、費用がかかると認識している。すぐに2波を使うのはなかなか難しいのではないか。また、(すでにソフトバンク所有する)3.7GHzと割り当てられる4.9GHzは、から離れている。KDDIは3.7GHzと4.0GHzは近いので、小型装置ひとつで展開できる。ここはしばらく優位性が出るのではないか」と語る。

「4G周波数を転用するのは簡単ではない」

 キャリアとしては、総務省からどの周波数帯をどれくらい獲得するのかが、競争力のあるネットワークを作るのに重要だ。単に基地局を全国に建設するだけでなく、ユーザーからの不満の声を集めて、日々、品質の改善をしていかなくてはならない。

 ただ、そうしたネットワーク改善をしていくうえで「海外ベンダーの存在」というのも少なからず影響を与えているのは間違いなさそうだ。

 例えばKDDIの「3.7GHzと4.0GHzを束ね、Massive MIMOという、混雑状況でも複数の端末に安定した通信を提供する技術を小型装置1つで実現する」というのも、韓国・サムスン電子の機器が採用されている。

 また「4G周波数を転用するのは簡単ではない。4G周波数の転用については、4Gと同じ海外ベンダーの技術で進めてきた。海外ベンダーが持つ、最新の技術や機能によって、4Gと5Gをうまくバランスさせてきたことで、4Gから5Gからのアップグレードが上手くいった」(前田氏)というのだ。

 さらにKDDIにはUQコミュニケーションズ、ソフトバンクにはWCPという、2.5GHz帯でTD-LTEを展開する会社がある。TD-LTEとはデータ通信に特化した技術で、主にアメリカの一部キャリアや、中国のキャリアやベンダーが積極的に展開してきたものだ。

 TD-LTEにデータの流れを集中させつつ、4Gのネットワークに余裕を持たせ、5Gに転用。5Gの面展開を進め、Sub6基地局の大量稼動で、一気にネットワーク品質が上がったというストーリーのようだ。

 前田氏は「NTTドコモは4G周波数の転用はあまり進んでいないようだ。国内ベンダーだからといって、(4G周波数転用が)実現できないのかはわからない」としている。

「なんちゃって5G」からスタートしたKDDIとソフトバンクの方が、体感品質は上がっている

 かつて、NTTドコモの幹部は4G周波数の転用に対して「なんちゃって5Gは、ユーザーの優良誤認に与えかねない」と厳しく牽制。「画面に5Gと表示されても、通信速度が出なければ意味がない」と言わんばかりであった。

 しかし、結果として、なんちゃって5GからスタートしたKDDIとソフトバンクの方が、いまではユーザーの体感品質が上がっているのは紛れもない事実なのだ。

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

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