ハイブリッド車のバッテリー革新? JFEスチールの980Mpa「超高張力鋼板」が初採用、自動車にどんなメリットがあるのか

HV用バッテリーに超高張力鋼板が初採用

 国内大手鉄鋼メーカーのJFEスチールが製造した超高張力鋼板が、初めてハイブリッド車(HV)用のバッテリーの構成部材に採用された。

【画像】えっ…! これがHV用バッテリーに採用された「超高張力鋼板」です(計2枚)

 今回HV用の駆動用バッテリーに使われた超高張力鋼板は980MPa級の高張力鋼板で、これをバッテリーのセルを保持するためのフレームに使用している。

 HVや電気自動車(EV)などの駆動用バッテリーは何枚ものバッテリーセルを束ねることで高いエネルギー密度を確保しているが、バッテリーセルは使用時の発熱によって膨張し、性能低下を起こす。

 これを防ぐためには鋼製フレームである「モジュール抗束体フレーム」によってバッテリーセルをしっかり拘束する必要があり、膨張の圧力に耐えるためには強度の高い鋼材が必要となる部分だ。JCBプラチナ

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 高張力鋼板は従来から車のボディなどに使用されてきた材料で、従来の鋼材と比べてより薄い板厚で強度を確保することが可能だ。

 これによりバッテリー全体の軽量化や内部のバッテリーセルの搭載数を最大化できるなどの効果が見込める一方で、強度の高い鋼板は曲げ加工性が低下するというデメリットがあり比較的小型のものに使用しにくい。

 今回JFEスチールの技術開発によって折り曲げ加工性も改善され、フレームの折り曲げ部分を最小化して直角に曲げることが可能となったことで駆動用バッテリー全体のコンパクト化につなげることができた。

 駆動用バッテリーなど比較的小型の部材にも使用できたことで、今後高張力鋼板の採用箇所は増えていくだろう。

車体向けはより強度の高い材料に

 高張力鋼板は現在の車を製造するためには欠かせない鋼材で、車のボディやフレーム、主要構造材など重要な部分に使用されている。

 自動車用の高張力鋼板は主に車体の構成部材となっており、その強度の高さを生かして年々厳しくなる衝突安全性能を確保したボディを形作っている。高い引っ張り強度によってプレス加工性にはある程度制限があるが、車体のボディやフレームなど比較的大型で加工性の良い部位に使用される。

 また高張力鋼板を使用すれば従来の鋼板より薄い板厚で同じ強度を確保でき、車体の軽量化につなげることもできる。その車体で使われていた高張力鋼板のうち、より強度の高い超高張力鋼板は引っ張り強度がどんどん向上している。JCBプラチナ

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 高張力鋼板はその引っ張り強度によって760MPa級、960MPa級などさまざまな種類があり、車体用の材料として採用され始めた頃は760MPa級の高張力鋼板でも大きな話題となったが、現在は1000MPaを超える超高張力鋼板が軽量化などを目的として採用される。

 また鋼板はその加工方法によっても強度が変わるものであり、一度鋼板を熱してから加工する熱間プレスのほうが加工性が良好で、特に加工性に課題のある高張力鋼板では幅広く活用される。

 だが鋼板を熱さずに加工する冷間プレス加工のほうが材料の強度自体は高いまま保持されるため、より薄板で強度のある材料が欲しい場合には冷間プレス製品が求められる。熱間プレス高張力鋼板では1500MPa級のものまで軽自動車などにも採用されるが、より性能や軽量化を求めて冷間プレス製品の採用が増えてきている。

 1例としてはマツダが1310MPa級の冷間プレス高張力鋼板をボディの一部に使用することで、3kgもの重量削減に成功している。

 衝突安全性能の確保と軽量化を同時に達成するために超高張力鋼板の需要は今後も増加するとみられ、今後もより引っ張り強度の高い材料も検討されるだろう。

ホンダは逆転戦略で作りやすさを狙う

 車体用の高張力鋼板はより強度が高く軽量化の狙える引っ張り強度の高い材料の使用が増加傾向にあるが、一方で国内自動車大手のホンダは近年戦略を真逆に転換している。

 ホンダは2024年3月にセダンの旗艦車である新型「アコード」を発売したが、このアコードのボディには980MPa級および780MPa級の高張力鋼板が使用されており、1000MPaを超える超高張力鋼板は使用されていない。

 ボディの衝突安全性能や剛性は当然ながら十分に確保されているが、他メーカーが超高張力鋼板の採用をより進めるのとは対象的な戦略を取っている。ホンダはあえて引っ張り強度がそこまで高くない材料の採用を増やすことで、強度や軽量化以外のメリットを引き出そうとしている。JCBプラチナ

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 ホンダの戦略にはいくつかの目的があり、まず超高張力鋼板の加工性の悪さによる影響を少なくすることだ。今回発売されたアコードはタイで製造されて日本に輸入されるモデルとなるが、ボディの製造を現地で行う際に大型の設備と技術力が必要な超高張力鋼板を加工できるメーカーはどうしても限られてしまう。

 技術的には現地でも1200MPa級の超高張力鋼板を加工できるが、現実的な線で980MPaまでの高張力鋼板に抑えることで製造性を高め、衝突安全性など強度に関する部分は適切な設計で補っている。

 また超高張力鋼板の加工には引っ張り強度が高まるとともに大型のプレス機などの設備が必要でコスト高の原因にもなるため、高張力鋼板のグレードを抑えることでコスト低減にもつながるようだ。

 ホンダは今後の新型車にもこの方式を採用していくそうで、他社と大きく違う戦略の行く先は興味深い。

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