ハロウィーンが日本で大ブレイクのナゼ?

ハロウィーンといえば、“Trick or Treat(トリック・オア・トリート)”で知られる、欧州発祥のお祭りだ。収穫祭の日、お化けに ( ふん ) した子どもたちが「お菓子をくれないと、いたずらするぞ」と言いながら、近所の家々をまわってお菓子をねだる行事だった。ところが、日本のハロウィーンは仮装を楽しむ若者中心に、独自の進化を遂げている。日本ではいったい何が起こっているのか!?

ついにバレンタイン市場を追い抜く

 昨年のハロウィーンでは、顔に血糊(ちのり)を塗ったゾンビや魔女、アニメのキャラクターに扮した若者が繁華街に繰り出し、各地で行われた華やかな仮装パレードが練り歩く沿道は数万人の見物客であふれかえった。テーマパークから飲食業界、百貨店、地方の商店街まで、ハロウィーン商戦も大いに盛り上がった。

 その経済効果も年々増加し、日本記念日協会(長野県佐久市)の推計では、2010年には380億円だったハロウィーン市場は、14年に1100億円と約3倍に拡大。ついに、バレンタイン市場1080億円を追い抜いた。今年は1220億円が見込まれているという。

 ここ数年、ハロウィーンは日本のイベントとして、じんわりと定着してきた。それでも、クリスマスやバレンタインデーに比べると、まだなじみが薄い感があった。ところが昨年、国民的イベントと呼べるほど急速に盛り上がった。

 そもそも日本人は“イベント”や“流行”に弱い。サッカー日 本代表のワールドカップ出場が決まったとき、渋谷の交差点は興奮状態の若者で埋め尽くされ、DJポリスまで登場して、お祭り騒ぎだった。記憶に新しいの は、ラグビーフィーバーだろう。ラグビー日本代表が初戦で南アフリカに歴史的勝利を収め、それまでラグビーにまるで興味がなかった“にわかファン”が急増 した。

 クリスチャンでもないのにクリスマスを祝い、バレンタインには義理チョコを配りまくる。日本人は悪く言えば節操がなく、よく言えば柔軟な国民性を持っているのだ。

 ハロウィーンは古代ケルト人の収穫祭が起源だが、すでにアメリカでは人種や民族を問わず楽しめるイベントとして商業化されている。アメリカで流行(はや)ったものは、必ず日本でも流行り出す。アメリカ発信のハロウィーンイベントは、あっという間に日本人に取り込まれ、独自の進化を遂げ始めたのだ。

大規模な仮装パレードが定着

 「今年はどんな仮装をしようか」。10月になると、こんな会話がふつうに聞こえてくるほど、若者の間ではハロウィーンの仮装は定着している。日本でハロウィーンをここまで広めたのは、まさに“仮装”にあるといえる。

 コスプレは“オタク”たちが築き上げたオタク文化だ。一般人はコスプレに興味があっても、なかなか境界線を超えられなかった。ところがハロウィーンイベントのおかげで、コスプレはオタク文化から解放され、みんなで正々堂々と楽しめる娯楽になったのだ。

  • 六本木のパレード風景と「ROPPONGI HALLOWEEN」のポスター
    六本木のパレード風景と「ROPPONGI HALLOWEEN」のポスター

 日本での”事始め“を探っていくと、1983年、東京・原宿の雑貨 店「キデイランド」が始めた日本初といわれる仮装パレードに行き着く。97年からは、東京ディズニーランドが「ディズニー・ハロウィーン」を開催し、認知 度は一気に高まった。今年で19回目を迎える「カワサキ ハロウィン」(川崎市)も同年から。年々イベント数は拡大し、今年は都市部だけでなく、地方でも 多くの仮装パレードが開催される。

 日本記念日協会の加瀬清志代表理事の解説はこうだ。

 「日本のイベントで、こんなに急激に広まったケースは初めて。いま日本中の秋祭りが衰退し、御輿(みこし)の担ぎ手も減少している。家族でも参加しやすく、だれでも楽しめるハロウィーンが秋祭りの定番になりつつあるのでしょう」

 国内最大級のハロウィーンイベント「ROPPONGI HALLOWEEN(ロクハロ)」(六本木商店街振興組合)では今月25日、片側1車線を規制して、全長1.7キロメートルの仮装パレードを行う。

  • ロクハロではカボチャデザインのゴミ袋を配布、「六本木のゴミをカボチャに変身させる」というキャンペーンも実施すると話す、カリスマカンタローさん(右)と田中さん
    ロクハロではカボチャデザインのゴミ袋を配布、「六本木のゴミをカボチャに変身させる」というキャンペーンも実施すると話す、カリスマカンタローさん(右)と田中さん

 企画プランナー・田中寿さんは「ロクハロを始めたのは、六本木に もっと家族連れで来てほしかったから。六本木は大人だけの街というイメージを変えたかった」と話す。参加店舗でお菓子を配ったり、妖怪ウォッチのキャラク ター「ジバニャン」を探したりするなど、家族で楽しんでもらうための仕掛けを用意した。

 総合演出には、人気ダンサーのカリスマカンタローさんを迎え、パレードにダンスを取り入れた。「DJの流す音楽にのって、プロのダンサーと一緒に踊る。ちょっとしたスター気分を味わえます」とカンタローさん。

 ロクハロ実行委員会調べによると、昨年は約8万2000人を動員した。このうち子どもの参加は2万人ほど。「六本木にこんなに子どもが集まったのは初めて。ハロウィーンはファミリーを取り込むきっかけに最適でした。今年はもっと集まるでしょうね」と田中さんは期待する。

 突如としてわき上がったブームに、日頃から敏感なアンテナを張っている企業も動き出している。

SNSの浸透で写真映えするグッズが人気

生活雑貨を主体としたホームセンター「東急ハンズ」では、仮装に重点を 置いたキャンペーンを実施している。東京・新宿店では1階にハロウィーン売り場が特設され、仮装してメイクを施したマネキンが並んでいる。同店の客層は 40代女性が多いが、ハロウィーンの時期は20代の女性、子どもと一緒にコスプレする30代のママがぐっと増えるという。

 同社MD企画部・柴田雅貴さんによると、製菓コーナーの 焼き菓子を作る器具なども人気で、家庭でパーティーを楽しむ人も増えているという。ここでもママたちがハロウィーンを先導している。「昔からあるクリスマ スやバレンタインと違って、ハロウィーンは自由に楽しめる。今後も急成長していくと思います」

 クリスマスもバレンタインも、恋人や家族など“誰か”にプレゼントを渡すイベントだ。ハロウィーンには自分のために仮装グッズを選ぶ楽しさがある。どんな仮装にしようか考え準備するところから、お祭り気分を味わえる。

 東京の百貨店「プランタン銀座」では、ハロウィーンカラーのオ レンジを館内の装飾に取り入れ、雰囲気を盛り上げている。ハロウィーンのブースには、カボチャ柄のハンカチや靴下、アクセサリーが並ぶ。仮装を意識した商 品は展開していない。「本格的な仮装は恥ずかしい、でもハロウィーン気分は楽しみたい」という女性たちが、ファッションに小物を取り入れるのだという。

  • プランタン銀座ではハロウィーンテイストのグッズが人気
    プランタン銀座ではハロウィーンテイストのグッズが人気

 同社広報の康松美沙さんは、「年々、ハロウィーングッズを手に取るお 客様が多くなり、とくに2年前あたりから伸びてきました。早めに買うのは自分用、当日はプレゼントやパーティー用。女子会などで盛り上がる人も多いようで す。写真映えのする商品が売れるのも、特徴的です。かわいいグッズを撮影して、ツイッターやインスタグラムに投稿するんだと思います」と話す。

 どうやら、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及がハロウィーンブレイクに一役買っているようだ。

 SNSで「リア充」(日常生活の充実ぶり)をアピールしないと 落ち着かないという人も多い。そして、そんな「リア充」アピールを苦々しく思っている人たちもなぜか、「ハロウィーン」だけは許容する傾向にある。ハロ ウィーンの派手なグッズやかわいいお菓子は被写体にぴったり。普段はできない仮装姿も投稿できる。いいことずくめだ。

 では、ハロウィーンの重要な小道具であるお菓子業界は、どう動いているのか。「ROPPONGI HALLOWEEN」の協賛企業でもある菓子メーカー「ロッテ」に話を聞いてみた。

 広報・水野路可さんによると、ハロウィーンへの取り組みを始めたのは、07年からで、今年で9年目。ハロウィーン限定パッケージのお菓子などを展開している。

 「パッケージを切り抜くと仮装グッズになる特別デザインの『コアラのマーチ』が人気です。デザインをハロウィーン仕様にすることで、幅広いお客様が手に取るきっかけになればと思っています」

 パッケージだけでなく、チョコレート菓子にプリントされているコアラも仮装している。カボチャをかぶったレアなコアラを見つけたくて、お菓子を買う子もいるのだろう。お菓子業界もきっちりハロウィーン効果を狙っているようだ。

AKB48の人気上昇にリンク?

 ロクハロの企画プランナー・田中さんは、日本のハロウィーンは“何でもあり”のミックスカルチャーだとする。

 「仮装するだけで日常から解放され、大勢で踊ることで一体感が生まれる。お祭りの盆踊りと同じ感覚なんです。お祭り好きの日本人に親和性があった。御輿を担ぐ代わりに仮装をする。ハロウィーンは“仮装を楽しむお祭り”として受け入れられ、日本中に広まったのでしょう」

 一方、加瀬代表理事はハロウィーンの仮装について興味深い見解を話す。

 「実はハロウィーンの盛り上がりは、AKB48の人気上昇に リンクしている。じわじわ浸透してきて、ここ数年で一気に爆発した。日本人は大勢で同じ格好をすると落ち着くんです。みんな同じ衣装で歌って踊るものが好 き。今年、AKBが『ハロウィーン・ナイト』という新曲を出したことで、ますます確信しました」

 山下達郎の『クリスマス・イブ』、国生さゆりの『バレンタイン・キッス』のように、AKB48の『ハロウィーン・ナイト』も定番ソングになるかもしれない。

 ハロウィーンは、元々日本にあったコスプレ文化をうまく取り 入れ、子どもがお菓子をもらうために近所をまわる“ご近所コミュニケーション”から、大規模なパレードや仮装パーティーで盛り上がる“秋祭り”へと変貌を 遂げた。SNSで拡散され、全国区となり、すでに国民の認知度は100%近いという。今後も市場は拡大を続けるのだろうか。

 「仮装は絵になるから、マスコミが取り上げて話題になりやすい。話題になれば、企業がどんどん参入して規模が拡大する。イベントが大がかりになるほど、参加者が増えてさらに盛り上がる。今後もハロウィーン市場は伸び続けるでしょう」(加瀬代表理事)

 ハロウィーンの伸びしろはまだまだありそうだ。

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