人材派遣大手のパソナ(東京)が、新型コロナウイルスワクチンの接種予約を受け付けるコールセンター業務を巡り、大阪府と兵庫県の3市に約10億8000万円を過大請求していた問題で、同府枚方市民向けのセンターでは、再委託先が電話対応できた割合が、1%に満たない時間帯があったことがわかった。厚生労働省はパソナの過大請求を受け、再委託先を含めて管理を徹底するよう全国の自治体に注意を呼びかけた。(福永健人、猪原章) 【グラフ】ひと目でわかる…不自然な「着信件数」と「応答率」の推移
改ざん気付かず
再委託先は、コールセンター業者「エテル」(大阪市中央区)。枚方市は2022年11月1日昼頃、電話の着信件数に対し、予約が完了した件数が少ないことをパソナに指摘。パソナが同日午後、センター業務を担うエテルの大阪市内の施設を訪れ、オペレーターの水増し報告などが発覚した。
パソナが同日のセンターの応答率(電話着信の件数に占める対応できた件数)を調べたところ、着信が集中した午前9時台は計1万1305件に対し、対応できたのは124件で1・1%。10分刻みで見ると、スタート時の午前9時からの10分間は0・96%で、9時10分からの10分間はこの日最少の0・77%だった。午後2時台まで9%以下で推移した。
終了間際の午後5時台に初めて70%を超えたが、着信件数が計362件にとどまった結果、応答率が上昇したという。パソナの調査では、この日100人配置すべきオペレーターが33人しかいなかったことが既にわかっている。
日本コールセンター協会(東京)によると、センターの望ましい応答率は「70~80%」。その後、エテルは当初から対応件数などを虚偽報告していたことがわかり、パソナは「改ざんに気付くのは難しい」と釈明したが、協会側は「再委託先に出向き、データ照合などを複数回やる必要があったのでは」と指摘する。
立ち入り怠る
パソナは3市が支払う委託料の中から管理費を受け取って、エテルに業務を再委託していた。このため、エテルを管理監督する立場にあり、契約当初から22年3月までセンターの立ち入りを数回実施したが、不正を見破れなかった。さらに同年4月以降は現地を訪れていなかった。
エテルは当初、「コールセンターは福岡市に置く」とパソナに説明していたが、札幌や仙台でも業務を行っていた。福岡でオペレーターを確保できなかったためとみられるが、パソナはこうした実態を把握していなかった。
自治体も反省
政府がワクチン接種の具体的なスケジュールを示したのは21年1月。緊急性が高く、各自治体はその頃からコールセンター事業者を奪い合う事態となった。
パソナによると、エテルとは過去に取引経験がなかった。土日祝日も対応できる点を評価して契約したとするが、エテルが業務をきちんとこなせるのかといった不安もあったという。
エテルは現時点で取材に応じていない。パソナの広報担当者は「もっと早く不正に気付くべきだったという指摘は厳粛に受け止めたい」と謝罪。枚方市新型コロナワクチン接種対策室の担当者も「パソナがきちんと管理していると思っていた。市の管理監督も不十分だった」と反省の言葉を口にした。
今回の事業は国の予算で全額賄われており、厚労省健康局の担当者は「公金のずさんな管理は絶対に許されない」としている。同省は10日付で全国の自治体に対し、「ワクチン接種業務で再委託が行われている場合、受託業者が管理監督を適切に行っているか確認を」と対応を求める文書を出した。
不正起きない環境を
自治体の民間委託に詳しい辻琢也・一橋大教授(行政学)の話「今回のコロナワクチン接種事業のように、国の財源で行う事業では、自治体はどうしても当事者意識が薄れ、業務管理が甘くなる。特に受託業者による再委託を認める場合、立ち入り頻度を決めたり、パソコンの使用時間を確認したりするルールを自治体と業者間で事前に定め、不正が起きにくい環境を整備しておくべきだ」