Omusubi セボン!
パリのなかでもひときわシックな場所、パレ・ロワイヤルで、パリジャンやパリジェンヌたちがおむすびを頬張る。そんな光景が日常のものとなりつつある。
寿司、ラーメンなどの日本食は、すっかり美食大国フランスでも受け入れられているが、おむすびのハードルはなかなか高かった。日本ではお馴染みの「おむすび権米衛」の現地法人「Gonbei Europe」の代表・佐藤大輔氏が語る。
「日本食にそれほど慣れ親しんでいないフランス人にとって、日本のおむすびは米の量が多すぎるんです。実際、こちらで『Omusubi』として売られているものは、日本の『おにぎらず』のように具材が多めのものがほとんど。
しかし、弊社は本物の日本のおむすびを普及させたいと考えて、あえて現地化しない味で勝負しています」
パリでも一番シックなパレロワイヤルでほおばる
初めての客の中には、「しょう油がついていないから欲しい」と言い出す人もいる。寿司と勘違いしているのだ。
しかし、それもしかたない側面がある。フランスで流通している白米は、日本のものと違い、薄い味付けでそのまま食べられるほど美味しくはない。だが、Omusubi Gonbeiでは、あきたこまちの玄米を冷蔵コンテナでフランスに輸入し、現地で精米することで本物の味を追求している。
「日本向けにフランスのワインを運んだ冷蔵コンテナの帰りの便に、玄米を乗せて運んでいるのです。ここまで米の質にこだわれば、フランス人にもシンプルなおにぎりの味が理解してもらえる」(佐藤さん)
トマト&オリーブの玄米おむすびも
人気の具材ベストスリーは1位が鮭、2位がツナマヨ、3位がスパイシーチキン。
1個2.5ユーロ(約360円~)で日本の感覚からすればかなり高い。天むすなどは1個3ユーロを超える。
それでも物価の高いパリ中心部にしては、1食10ユーロ以下でお腹いっぱいになるリーズナブルなランチの選択肢として認識されている。
平日は近所のお洒落なブティックの店員やビジネスマン。週末はパリ郊外から遊びに来た人たちが、一日あたり500~600人も訪れるという。
「鮭はスコットランド産のものをローストして、ほぐしています。3位は日本では考えられない味付けですが、タバスコや北アフリカのアリサという唐辛子を使ったかなり辛いチキンです。これまでフランスでは、辛い味付けは受けないというのが定説だったのですが、最近は四川料理が流行っていることもあり、刺激的な味付けが好まれるようになってきました。
他に日本にはない味としては、玄米にドライトマトとオリーブを混ぜ込んだおむすびも人気ですね。梅干しや昆布などの伝統的な具材は、意識の高いヴィーガン層に人気があります」
ドライトマトとオリーブという日本では見かけない組み合わせ
ただし、フランスでおむすびを売るには様々なハードルもあった。一つは衛生基準の問題。フランスではテイクアウトの食品は冷蔵するか、逆に過熱した状態で販売しなければならない。
食で世界を制するためには……
「常温で売っていいものは、パンくらいのものです。おむすびをそのまま売るのは衛生基準のグレーゾーンでしたから、厳しい衛生検査を受けて、安全性のエビデンスも提出しています。現在は、日本食の普及のために、衛生基準の緩和を求めてロビイングをしているところです」
もう一つは、EUの輸入規制の問題だ。今年4月から、EU HACCPという認証制度が厳しくなり、動物性の食品は、認証をうけた施設のものでなければEUに輸入できない決まりになったのだ。
衛生基準が厳しいのがハードル
「たとえば卵を使用したマヨネーズの輸入が途絶えて、たいへん困りました。マヨネーズはもともとフランスの調味料ですが、最近では日本製のマヨネーズの人気が高く、ツナマヨのメニューを表示する際も、わざわざ『マヨネーズ・ジャポネーズ』と書いているくらいです。
日本食を世界で普及させていくためには、日本の農水省、経産省にも動いてもらい、このような認証や規制に対応してもらわないといけません」
再来年にはパリ・オリンピックの開催も迫っている。おむすびを頬張りながら、スポーツ観戦するパリジャン、パリジェンヌの姿が珍しくなくなる日も近い。