前篇《西武デパートとジャニーズ…同時期に混乱する日本企業の「宿痾」とは何か? 》に引き続き、作家で弁護士の牛島信氏がコーポレートガバナンスの観点から、目の前の事象の構造と歴史的背景を明かす。 【独自】再逮捕された「美人すぎる寝屋川市議」の写真集全カット
ビッグモーターと損保ジャパン
ビッグモーターは非上場会社である。損保ジャパンは金融庁の管轄下の企業である。私は損保ジャパンの解決については楽観的である。金融機関のガバナンスは金融庁が支えている。 現に、鈴木金融担当大臣が「19日に立ち入り検査をする」と宣言し、そのとおり行われた。したがって、かならずキチンと解決される。損保ジャパンには金融庁というガバナンスが効くシステムがある。私は経験的にそれが信頼に足ると知っている。 しかし、ビッグモーターはわからない。ガバナンス上はジャニーズと似た構図である。 非上場の株式会社はコーポレートガバナンスのないまま放置されている。その現状を変える必要がある。会社の規模は社会的力を意味する。力は社会による統制を要求する。国会の出番であろう。 楽観的になる理由もある。 金融庁である。損保ジャパンの調査はビッグモーターの実態も暴き出すだろう。会社としての存続にかかわるに違いない。
企業買収行動指針の文言変更
「敵対的買収」が日本から消える。 経産省の「企業買収における行動指針(案)――企業価値の向上と株主利益の確保に向けて」のなかに書かれている。「敵対的買収」という言葉は「同意なき買収」に変わるのである。 名は体を表す。「買収防衛策」も「買収への対応方針」になるという。 なにが起きているのか? 買収による企業の成長のためには、企業は合理的理由なく買収を拒んではならないのである。 具体的には買収提案を受けた会社は、取締役会へ付議するか少なくとも速やかに取締役会に報告することが求められるようになる。 経営陣が保身のために提案を放置しないよう、独立社外取締役のいる取締役会で情報を共有することになる。当然といえば当然であって、要するに海外資本による日本企業の買収も歓迎するということである。 内であれ外であれ、最終的には株式会社では株主が決めるのである。取締役会は経営陣の保身目的に加担してはならない。にもかかわらず、これまで買収防衛策は経営陣によって乱用されてきた面があった。そこで重要な役割を果たす独立社外取締役は誰が事実上決めてきたのか。社長ではなかったか。 反省すべき点は多い。日本らしい会社制度を造らねばならない。それがマルチステークホルダー主義の意義である。 株主とは、機関投資家である。誤解があるが、会社対物言う株主ではない。物言う株主は過半数の株を持つ力はない。機関投資家こそが決定権を持つ。 重要なことは、同意なき買収提案の取締役会への情報伝達である。経営陣から取締役会へ。独立した社外取締役・社外監査役が取締役会で果たすべき役割は大きい。会社は経営者次第、経営者は取締役次第、取締役会は独立社外取締役次第である。 上場されている株は誰が買ってもよい。経済安全保障など一定の制約はあるとしても、上場会社は誰が買収しても良いのである。その実質を経営陣の保身から防ぐための企業買収行動指針(案)である。年末までの公表を予定しているという。 日本経済が復活する一里塚になる。東芝の夜明けがすべての上場会社で可能になる。
経済社会は着実に動いている!
岸田総理のニューヨークでの演説にあった海外特区の話と、最近話題のアセットマネージメント会社が親会社などの系列を重んじて、その使命を十分に果たしていないという話とを結び付けたらどうなるか? 日本の会社の買収の急拡大である。もう敵対的買収とは言わせない。経産省のお墨付きがあるのだ。経営陣が猛反対していても、もう敵対的買収ではない。「同意のない買収」に過ぎない。決めるのは株主である。 提案は内外のアクティビストかもしれないが、彼等は少数株主に過ぎない。実質的な決定権は機関投資家たる株主の手中にある。 日本企業は、後継者の選択を怠ってきたのである。社長が独りで次の社長を決めるのは過去の話になるだろう。 現に、フジテックで起きた事態を見れば、この国でこれからの数年でなにが起こるかがわかる。 ———- 前篇《西武デパートとジャニーズ…同時期に混乱する日本企業の「宿痾」とは何か? 日本のトップ弁護士が明かす》もあわせてお読み下さい。 ———-