6月1日に改正動物愛護管理法が施行され、販売前の犬や猫にマイクロチップを埋め込むことや、飼い主らが所有者情報を登録することが義務化される。すでに飼っている人にも努力義務が生じ、ペットが迷子になったり、捨てられたりするのを防ぐ効果が期待される。国は自治体による殺処分を減らしたい考えだが、飼い主には抵抗感もあり、どこまで浸透するか。(中瀬有紀、中西千尋)
殺処分2万3700匹
マイクロチップは長さ1センチ、直径2ミリ程度の円筒形の電子器具で、15桁の識別番号が記録されている。ペットが路上で保護されても、保健所や警察などに配備された専用機で読み取ると、国のデータベース(DB)を通じて飼い主の連絡先などがわかる仕組みだ。
国内では、阪神大震災(1995年)で多くのペットが行方不明になったのを機に議論が進み、2019年に改正法が成立した。
チップの装着が義務化されるのは繁殖や販売を行う業者で、業者名などをDBに登録することが求められる。ペットショップなどで犬猫を購入した飼い主は、自身の名前や住所、電話番号などに変更しなければならない。個人間で譲り受けた場合や、すでに飼育中の人は、装着や登録が努力義務となる。
環境省によると、20年度に迷子や飼育放棄などの理由で自治体に引き取られた犬猫は7万2400匹。飼い主が見つからず、殺処分されるなどしたのは2万3700匹に上る。
ペットショップ「Pet Plus」を全国展開する「AHB」(東京)は、約15年前からチップを装着した犬猫を販売し、日本動物愛護協会(東京)などで作る組織のDBに登録してきた。担当者は「名札や首輪のように外れることがほぼなく、情報量も多い。国のDBで一括管理されることで、より迅速に飼い主に戻せる」と期待する。
認知不十分
ただ、十分に認知されているわけではない。ペット保険を扱うアイペット損害保険(東京)が2月、犬猫の飼い主約1000人に実施したアンケートで、義務化を「知っている」と回答した人は57%にとどまった。
飼い主はDBに登録手続きを行い、転居すれば、その都度更新する必要もある。大阪市中央区のペットショップの男性店長は「煩わしいと考える人が出てくるかもしれない。強制はできないが、丁寧に説明したい」と語る。
装着に慎重な飼い主が多いというデータもある。日本トレンドリサーチ(東京)が昨年12月〜今年1月に行ったアンケートでは、チップ未装着の犬猫の飼い主340人のうち、「装着させたい」と答えた人は18%。「装着させたくない」は56%で、「かわいそう」「異物を体に埋め込むのは嫌」「お金がかかる」などの理由が目立った。
13歳の雄犬を飼う大阪市西区の女性(71)は「生き物だから、どんな影響があるかわからない。長年飼っていて、今更という気持ちもある」と漏らす。
装着は医療行為にあたるため、獣医師が注射器で首の後ろの皮下に挿入する。日本獣医師会などによると、登録料はオンライン申請で300円、書面は1000円で、新たに装着させる場合、手術代は数千円から1万円程度かかる。痛みはほかの注射と同程度で、副作用の報告もないという。
コロナで飼育増
新型コロナウイルスの流行で、在宅時間が長くなり癒やしなどを求めて、犬猫を飼育する人が増えている。ペットフード協会(東京)の推計(昨年)によると、ペットの犬猫は全国で1600万匹(犬710万匹、猫890万匹)。昨年1年間で新たに飼われ始めた犬猫はコロナ前の19年と比べ、約2割増の89万匹(犬40万匹、猫49万匹)だった。
繁殖業者や一般家庭から年1500匹以上の犬猫を保護し、譲渡先を探す活動をするNPO法人ラブファイブ(大阪)の吉井純也代表は「コロナが収束し、生活リズムが戻れば、飼育が難しくなって動物を手放す人が増えないか心配。チップの装着を通じ、最後まで責任を持って飼育する飼い主が増えれば」と話した。