マンションの新しい理事長が、管理組合に隠れてやっていた「ヤバすぎる悪行」 有能かと思いきや…

中古のマンションを購入し、妻と小さなこどもの3人で引っ越してきた安藤健介さん(35歳・仮名、以下同)。長年にわたって管理組合・理事会で活躍してきた「カリスマ理事長」のおかげで、マンション内は管理が行き届いており快適に生活できていたことは、【前編】『中古マンション購入後、「管理組合の理事」に選ばれてしまった35歳男性の大誤算』でも触れた通りです。

しかしその理事長が病気で退任し、新しく黒田啓一さん(66歳)が就任することに。やる気に満ちあふれていた黒田さんですが、マンション内で大問題を起こしてしまうのでした…。

有能な理事長かと思いきや…

黒田さんは、お仕事をリタイアされたばかりで精力的な66歳の男性です。このマンションを購入してからまだ日は浅いものの、「仕事がひと段落したこのタイミングで、情熱を傾けられることができてうれしい!」と、理事長に立候補してくれた奇特な方でした。

初めての業務で慣れないことばかりの中、管理会社のサポートを受けながら、徐々に理事会・管理組合は落ち着きを取り戻してきます。

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しばらくすると、黒田さんも理事長として非常に有能であることがわかってきました。急に設備が壊れた時や理事会として何かを購入しようとする際には、働いていたころの豊富な人脈を活かして「僕の知り合いにそういう仕事をしている人がいるから、相談してみますよ」とスムーズに対処してくれます。

事実、黒田さんが理事長になってからというもの、工事などについては、前任のカリスマ理事長のときよりも積極的に実施できるようになりました。住人たちの胸の中で「これは、新たなカリスマ理事長の登場なのでは…?」という期待が高まっていったのです。

しかし、黒田さんが理事長になって1年も経つと、ふと気づけば工事が必要な際には、彼の知り合いである「指定業者」に発注するのが「暗黙のルール」となってしまいました。ほかの業者にお願いしようとしても、「僕が頼めば無理も聞いてくれるから」などと黒田理事長が理由をつけて、知り合いの業者に依頼してしまいます。

ただ、考えてみれば、理事長の知り合いが相手だと相見積も取りづらくなってしまいますし、過去の工事と比較すると費用も少し高いような気も…。

「理事会メンバーの一部は、黒田理事長が知り合いの業者に発注する代わりに、何かしらの見返りを受け取っていると薄々気づいていたようでした。理事長が代わってから急に工事が増えて積極的だと思っていたのですが、どうやら自分がマージンを受け取りたかったからみたいです」

と、安藤さんは当時の理事会内の様子を振り返りました。

そう、一見やり手と思われた黒田さんですが、実は職権を濫用して自分の知り合いの業者に工事を発注するよう誘導し、こっそりマージンを受領しようともくろむタイプの「腹黒理事長」だったのです。

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「理事会で工事の必要性に異議を唱えたメンバーもいたものの、黒田さんに押し切られてしまいました。マージンの件も決定的と言える証拠はないのでそれ以上は追及できず、ましてや解任も難しいため、なあなあになっています。今振り返れば、積極的に理事長に立候補したのはこれが狙いだったのかもしれません」

それからも黒田さんの知り合いの「指定業者」に発注するという暗黙のルールは続いており、年に何件もの工事が行われているそうです。「マンション内の設備がキレイになってありがたい」と話す住人はいるものの、安藤さんをはじめ事情を知る人たちは、モヤモヤしながら生活しています。

理事長暴走の先に待ち受けているもの

黒田理事長は、管理組合の仕事として、工事の発注や物品の購入に対してとても意欲的です。一方、前任のカリスマ理事長は、工事の際には自ら業者を探して相見積を取ったり、急を要さない工事を延期したり、管理組合のプール金が無駄にならないよう気を回してくれていたことが考えられます。

しかし、あまりにも理事長一人が率先して動いてしまうと、ほかの理事や区分所有者たちは、いわゆる「おんぶにだっこ」の依存状態に陥ってしまいます。「とりあえず理事会に参加してさえいれば、すべて理事長が率先して進めてくれる」。その意識を逆手に取られたのが、このトラブルの要因の一つだと思われます。

今回の事例では、わかりやすく暴走タイプの理事長が登場していますが、別に本人に悪意がなくとも、類似のトラブルは十分に起こり得ます。たとえば理事長が事なかれ主義で、悪意ある第三者の管理会社や工事会社の言いなりになってしまった場合。「ここの理事会は言われるがままだ」と目を付けられてしまえば、不要な工事を勧められる可能性も高くなります。

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ちなみに、こうした理事長の行いに気付くのが遅れてしまった場合、あるいは気付いても見て見ぬふりを続けた場合には、どうなるのでしょうか?

ひとつの結果として、管理組合の会計が枯渇してしまう事態が予想されます。そうなると管理費・修繕積立金の値上げはもちろん、区分所有者全員が数十万円以上にも上る一時負担金の支払いを余儀なくされることも考えられるでしょう。一人の理事長に頼りきってマンション管理に無関心なままでいると、金銭的な負担となって跳ね返ってくる可能性もあるのです。

もし、自分が理事長になっていたら…

管理組合が扱うマンション全体の問題を「自分ごと」として受け止めるのは重要ですが、かといって自ら理事に立候補したり、ましてや理事長に就任したりするのは負担も大きいでしょう。ここから先は、「もし黒田さんではなく安藤さんが理事長に就任することになったら…」というケースを考えてみましょう。

【前編】『中古マンション購入後、「管理組合の理事」に選ばれてしまった35歳男性の大誤算』でも述べた通り、そもそも安藤さんは、管理をカリスマ理事長に任せられることにメリットを感じてこのマンションを買いました。ということは、安藤さんと同じく「管理は理事長に任せておけばいい」と考えている区分所有者が多数を占めていたとしても、不思議ではありません。

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カリスマ理事長が任期を満了するからには、新しい理事長を選任する必要があります。理事長選任では、任期満了の場合、まず次の総会で新しい理事・監事などの新役員を選任します。そうして就任した理事の中から、理事長を互選するという規約になっていることが一般的です。ところが「任せきり」という状況に慣れ切っているため、

「私は仕事で忙しいから理事なんてできない」

「高齢で通院ばかりなのに、私に理事をやれなんていうのか」

などと理由をかかげ、就任を拒否する区分所有者が続出するのは目に見えています。

先ほど説明したように「輪番だから」という理由で理事への就任をしぶしぶ承諾した安藤さんでしたが、消極的な理由で引き受けたにもかかわらず、「若くて熱心なようだから」と言われて、なんと理事長の座に就くこととなってしまったと考えてみましょう。

まず、こんな状態では理事会の成立すら危ぶまれます。審議したい事項について意見をぶつけ合うどころか、「今度の理事会は開催できるのだろうか…」と気を揉まなければいけない始末。安藤さんの心労は溜まる一方で、このマンションはまさに管理不全の闇へと片足を突っ込みかけてしまいました。

設備の故障などこれといった問題がなければ、たとえ理事会が機能していなくとも、管理組合はなんとか前に進んでいくことはできます。ただ何か問題が起こった時には、理事会が動き、時には総会に諮り、一つ一つ解決していかなければなりません。

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ここでつらいのが、理事長はどうしても矢面に立たされる確率が高いというところです。実際には、理事長が独断で決めて動ける事項はマンションの管理規約に明記されており、それ以外は基本的に理事会にて決議する必要があります。しかしスピーディーに解決しようとして一人で決断すると、「理事長が決めたことだから、理事長一人の責任だ」というロジックで責められるのもまた事実です。

このようにやむなく理事・理事長に就任した安藤さんですが、右も左もわからない中でなんとかその役目を果たそうとして、心身に負担がのしかかるばかり。ひとたび問題が発生すれば、管理会社の助けを得ながらなんとか乗り越えようとしますが、理事長として自分の行いが正しいのかどうか、悩み続ける日々となってしまいました。理事長としての道のりは、前途多難なものとなりそうです…。

住人の一人として「できること」

以上のようなシナリオを解決するには、役員就任拒否をできるだけ少なくするのが有効ではないでしょうか。そのため、就任拒否に対してペナルティを課す、あるいは役員への報酬を設定するのもひとつの手ではあります。

ただ、金額設定もなかなかナイーブなところで、不当に高い金額を設定してしまったために、法的なトラブルに進展してしまうケースもあります。また、「お金を払えば役員にならなくても済む」「お金が欲しくて役員をやっている」「報酬をもらっているんだからもっと働け」といったクレームにつながってしまう恐れもあるので、「特効薬」であるとは言えません。

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そもそも、報酬を支払うにはマンションの規約や細則を改正しなければなりませんし、管理組合が先述のような状況では、途中段階で頓挫してしまうことも十分に考えられます。

結論として、役員を確保したとしても、本人がしっかり役目を果たしてくれなければ、以上のような管理不全の根本的な解決にはなり得ません。

大切なのは、新たに区分所有者となる人をはじめ、管理組合に属する全員でルールやお金の面も含めて「自分たちの共同生活を守る」という意識を持つことです。

そして、「誰が役員になっても無理なく続けられる管理組合&理事会の運営」が理想となります。

そこには、突出したカリスマも、特定の個人だけが持つ特別な能力も必要ありません。区分所有者の一人ひとりが当事者意識を持ち、自分たちの共同生活と、そのステージとなるマンションの資産価値を守っていこう、向上させていこうと思い取り組みを重ねていくだけです。

しかし、それぞれの私生活がある中で、マンションの共有事項に高い意識を持って取り組み続けるというのは、とても難しいことでもあります。

そこで頼りになる存在が、マンション管理会社であり、マンション管理士などの専門家なのです。そもそもマンションの管理というものは、管理組合が自分たちだけですべてやることが基本となっています。「自分の資産は自分で守る」という自主管理のロジックです。ただ実際問題、自分たちだけですべてをこなすのはかなり難しいでしょう。

だから、マンション管理会社に管理を委託するわけです。自分たちで決めた範囲の内容を、自分たちで決めた金額で委託します。こう考えると、マンション管理において、特別難しい知識などはさしあたって必要ありません。

まずは

(1)管理組合を運営しているのは区分所有者である自分たち自身であり、理事長に任せきりで成り立つものではない

(2)自分たちが払っている管理費や修繕積立金の使い道や使い方のルールは、誰がどんな根拠で決定しているのか

という2点に、一人ひとりが少しずつ気を配る

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