コンサルタントである松本繁治氏の著書『壊れたニッポンを治す為の21の処方箋』より一部を抜粋・再編集し、日本社会でITシステムの導入が中々進まないワケについて見ていきます。
改善や改革ができず変化を拒む体質
私自身は仕事として、ITシステムの導入に合わせた業務の改善・改革提案を行う事が多いのだが、これが日本の社会では中々進まない。殆どの企業の経営者層は業務の改善・改革の必要性を訴えているが、実際は殆ど実現できていない。
多分経営者層は、改善・改革の重要性を分かっていないで、流行り言葉的に言っているだけの感もある。または分かってはいるが、荒波に飛び込む勇気が無いのであろう。
最近は日本の大企業にも外国の資本が入り、外国人の経営者層を迎え入れる事が多くなってきた。それらの企業では、CIO(日本的には情報システム部長)に外国人を雇う場合が多い。そしてそのCIOも自分の周りに外国人を据える傾向にある。外国人から見ると、日本人の改善・改革に対して取り組む姿勢を問題視している。
そして企業内でCIOグループと日本人社員との間で軋轢が生じているケースも見受けられる。一方日本人の性質を知っている外国人CIOの場合、日本人は改善・改革に対して積極的ではない事を把握しており、改善・改革に向けた進め方について大変頭を悩ませている。
かなり昔から、日本のホワイトカラーの業務の生産性の低さが叫ばれている。
現場ではムダやムリな業務・処理が大変多く、献身的な社員によって何とか複雑な業務や処理をこなしている。またお客様や他部門から無理難題をお願いされる事が多々ある。
頭を下げてお願いされたり、上司からの命令を拒む事ができないために、非通常の業務や処理が生まれ、それが積み重なってしまっている。社員は経営者層が改善・改革を望んでいる事を知ってはいるが、いざ自分の周りの仕事となると、改善・改革の事は脇に置いてしまう。
仮にある担当者が自分の仕事のやり方を変えるだけで改善・改革ができる場合に改善・改革に協力する姿勢を見せる事があるが、通常は関連する部門との調整が必要になる。その場合、その調整を行いたくなく、結果的に改善・改革が進まない。他部門の都合を言い訳にして、改善・改革に協力しない場合も多くある。
偶にその関連部門と会話して改善・改革案を直接話すと受け入れてくれる事も多いが、余程の熱意がないと、改善・改革が進まないのが日本の社会の現状である。
古い日本の企業に多い…「提案した者が実行しろ」
これらの悪い状況が重なった結果、今の日本のホワイトカラーの仕事の非効率になっている。そしてそれが今のITシステムにも反映されている。
この問題を是正しなければならないのだが、一向に改善・改革が進まない。日本企業の業務の中に、優秀で献身的な社員が居る事で成り立っている職種・業務が沢山有り、ある種、職人技の仕事になっている。経営者から見ると、それらの属人的な仕事を排除したいのだが、献身的で職人的な社員はそれを温存しようとする。
ITシステムがこの属人的な手法を改善する方法なのだが、それを真っ向から否定しているのが今の日本の現状である。
企業によっては社員が問題点を指摘し、改善案を提示したとすると、その上役は、「提案した者がそれを実行しろ」と云ってくる。提案した者の裁量下でできる事もあるが、概ね他部門を巻き込む事になり、提案が実行されないケースが多い。この様な話は古い日本の企業に多く、昨今の品質問題等の原因は多分これであろう。
社員は問題点を把握しているが、上長はその問題を解決するために汗を流す事を拒んでいる。比較的活力のある中堅企業ではこの様な社員からの改善提案に報奨金を与え、奨励している場合もある。この様な企業では、改善・改革は比較的容易に進める事ができているであろう。
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松本 繁治
ルイジアナ州立大学工学部卒、同大学大学院中退。
日米の製造メーカに勤務後、外資系IT企業や外資系コンサルティング企業にてコンサルタントとして10年以上の活動を行う。一時期、家業である製造メーカで経営を支援。
2009年以降は独立してコンサルティング活動を継続中。