フリマアプリなどで不要品を売却する行為が、法律違反になることはあるのか。弁護士の理崎智英氏は、「使わなくなったものを出品する程度なら合法だ。だが、事業として反復継続して行う場合は、古物商の営業許可を取る必要がある」という——。
法律上の「古物」には新品も含まれる
最近はメルカリなどのフリマアプリで、自分がいらなくなった物を手軽に売ることが可能になっています。
また、街にある金券ショップやリサイクルショップなどで、人からもらった金券や不要になった物を売った経験のある方も多いのではないかと思います。
その行為自体は違法ではありません。しかしながら、商売として行う場合には、必ず警察署から「古物営業」の許可を得る必要があります(古物営業法3条)。
なお、「古物」には、中古品だけでなく新品の商品も含まれます(古物営業法2条1項)。そのため、自分で買ったまま一度も使用していない新品であっても、「古物」に該当しますので、商売として第三者に販売するためには、古物営業の許可を得る必要があります。
また、仕入れとして購入したものだけでなく、自分で使うために購入して不要になった物も「古物」に含まれます。
古物の販売が商売にあたるかどうかは、どこで判断されるのでしょうか。例えば、店舗を設けて古物を第三者に販売する場合は商売にあたります。
また、店舗を設けず、ネットショップなどで古物を販売する場合も、それを事業として、すなわち、反復継続して行う場合には、古物営業の許可を得る必要があります。1回だけの取引であれば事業にはあたりませんが、それが複数回にわたる場合には、事業にあたると考えられます。
メルカリなどのフリマアプリで自分が買って使わなくなったものを販売している場合、たとえ2回以上出品していたとしても、反復継続性がなく基本的には「事業」とは言えないので、古物商の許可は不要です。
ただし第三者から継続的に商品を仕入れて、仕入れた金額よりも高い金額で販売している場合には、反復継続性があり「事業」に該当すると考えられますので、古物商の許可を得る必要があると考えられます。
「転売ヤー」は法律違反の可能性
このところインターネットなどで購入価格よりも高い金額で転売し、お金を儲けている人や組織が目立ちます。こうした人たちは「転売ヤー」などと呼ばれていますが、その中には大量のアルバイトを使って商品を買いあさっているケースもあるようです。そうした場合はどうなのでしょうか。
転売目的で小売店等から自分で購入した商品を第三者に転売する行為は、古物を仕入れたわけではなく、古物営業には該当しないため、古物営業の許可を得る必要はありません。このため個人で活動しているのであれば、「転売ヤー」であっても違法性はないと考えられます。
ただし、アルバイトなどに新品の商品を買わせ、それを買い取って転売している場合、それはアルバイトから古物を買っていることになり、さらに転売目的という点で反復継続性があり「事業」に該当すると考えられますので、古物営業の許可を得る必要があります。組織的な「転売ヤー」は違法性が高いと考えられます。
なお、破産手続開始の決定を受けて復権していない人、刑の執行を受けて5年を経過していない人、暴力団員、住居不定の人などは、古物営業の許可を得ることはできません(古物営業法4条)。
そして、古物営業の許可を得ずに、中古品販売の事業を営んだ場合には、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられる可能性があります(古物営業法31条1号)。
過去には、中古の英語教材(CD、教本)をインターネット上のオークションやフリーマーケットで仕入れて、第三者に転売したとして、古物営業法違反の容疑で逮捕された事例があります。
古物営業法は、取引される中古品の中に窃盗等の被害品が混在しているおそれがあるため、盗品等の売買の防止や被害品の早期発見により窃盗やその他の犯罪を防止し、被害を迅速に回復することを目的としています(古物営業法1条)。
チケット転売を規制する法律もある
仮に、無許可で誰でも古物営業を行うことができるとすると、窃盗等の被害品が中古品として売られてしまった場合に窃盗品の発見及び犯人検挙が困難となります。古物営業の許可を受けた事業者は警察の名簿に登録されますので、仮に、窃盗等の被害品が中古品として売られてしまった場合であっても、警察が古物営業の許可を受けている事業者に問い合わせることによって、窃盗品の早期発見および犯人検挙が容易になるということです。
さらに、コンサートのチケットやオリンピックのチケットなどを購入金額以上の金額で第三者に売って、差額分の利益を得る行為は、「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律」(いわゆる「チケット不正転売禁止法」)によって禁止されています(不正転売禁止法3条)。
この法律が制定された理由としては、主に外国人を中心に、人気のあるイベントのチケットをバイトを雇って大量に購入させ、それらのチケットをインターネットのオークションサイトなどで高く売りさばいて、転売利益を得るといった事例が頻発していたためです。その結果、本当にそのイベントに行きたいと思っていた人が行けなくなり、また、高いお金を支払える人しかイベントに行くことができなくなるといった弊害が生じていました。
東京オリンピック開催に合わせて施行された
そこで、東京オリンピックの開催に併せて、オリンピックチケット等の不正な転売を防止することを目的として、令和元年6月14日、チケット不正転売禁止法が施行されました。
この法律でいう「不正転売」とは、興行主の事前の同意を得ないで、反復継続の意思をもって、販売価格を超える価格で特定興行入場券を販売する行為のことを言います(チケット不正転売禁止法2条4項)。
「特定興行入場券」とは、不特定又は多数の者に販売され、かつ、次の1から3の全ての要件に該当するスポーツイベントやコンサートのチケットのことを指します(チケット不正転売禁止法2条3項)。① チケットを販売する際、興行主が、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨を明示し、かつ、その旨が当該興行入場券の券面(電子チケットの場合には映像面)に表示されていること
② 興行が行われる特定の日時及び場所並びに入場資格者又は座席が指定されたものであること
③ 座席が指定されたチケットの場合、購入者の氏名及び連絡先(座席が指定されていないチケットの場合には、入場資格者の氏名、電話番号、電子メールアドレス)を確認する措置が講じられ、かつ、その旨がチケットに記載さていること
チケットの転売は規制が厳しい
自らが購入した金額より1円でも高い金額でチケットを転売してしまうと不正転売に該当します。一方、購入金額と同じかそれ以下の金額でチケットを転売する行為は、不正転売には該当しません。
不正にチケットを転売した場合の罰則は、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはそれらの併科です(チケット不正転売禁止法9条1項)。また、不正にチケットを譲り受けた場合にも同様の罰を受けることになります。
過去には、プロ野球のオールスター戦のチケットをインターネットの転売サイトで3回にわたり、4枚を合計5万6500円(定価は1枚3400円)で転売したとして不正転売禁止法違反で逮捕された事例、宝塚歌劇団の退団公演チケット3枚を計2万4900円で購入し、転売サイトを通じてファンの女性に計8万9000円で転売したとして、チケット不正転売禁止法違反で逮捕された事例、アイドルグループのコンサートチケット4席分をインターネットサイトで合計42万3000円(定価計3万2000円)で転売したとして、チケット不正転売禁止法違反で書類送検された事例などがあります。
通常の物品とは異なり、チケットの販売には厳しい規制があるため注意が必要です。
———- 理崎 智英(りざき・ともひで) 弁護士 1982年生まれ。一橋大学法学部卒業。2010年、弁護士登録。福島市内の法律事務所を経て、現在は東京都港区の高島総合法律事務所に所属。離婚・男女問題に特に力を入れている。 ———-