ヤオコーも参入!「ディスカウント型食品スーパー」消耗戦

続々とディスカウント型の食品スーパーが誕生している。8月、埼玉県飯能市に、スーパー業界の優良企業であるヤオコーがディスカウント型の新店をオープンした。なぜヤオコーがディスカウント型を出店したのか。コロナ禍で激変するディスカウント型食品スーパーの最前線に迫った。(流通ジャーナリスト 森山真二)

給料が上がらないのに「値上げ」が相次ぐ 食品スーパーでディスカウント業態が注目

 給料が上がらない。だが、しれっと周りの食品や日用品の価格は上がっている。持ち出す金が増えているのが現状だ。

 さまざまな値上げの背景には、コロナ禍での原油価格の上昇、世界的な物流停滞など諸説ある。ただ、実際のところはよく分からない。「景気の浮揚感はあるがそれも長続きはしない」ともいわれる。

 流通業界関係者は目ざとい。価格選好が強まるとみて“価格戦略”を強めている。中でも、ディスカウント業態には注目だ。

 ついに、ヤオコーもディスカウント型(DS)を出店した。ヤオコーといえば首都圏地盤で、営業利益率4.4%(2021年3月期)のスーパー業界の“優等生”だ。早速現地に赴き、DS業態の最前線に迫った――。

ヤオコーがディスカウント業態に参入 品ぞろえ充実の一方、会計は「現金のみ」

 近年、ヤオコーはDS業態を強化する動きを見せる。17年には、神奈川拠点でディスカウント型の食品スーパーであるエイヴイ(店舗名はエイビイ)を買収したのを皮切りに、21月2月には、自社でDS業態の「フーコット」を設立している。

 埼玉県飯能市に8月オープンしたフーコットの1号店を訪れてみた。入り口付近には青果、その奥に精肉、さらに進むと鮮魚が並んでいる。白菜98円(税抜き、調査日は10月20日)に衝撃。「牛カルビふぞろい焼肉用」596グラム1007円(同)、「黒毛和牛モモ厚切り焼肉用」100グラム549円(同)とかなり安い。

 スーパーの価格は白物4点(食パン、牛乳、生卵、豆腐)から探れ――。このセオリー通り、牛乳売り場に回ってみる。牛乳は149円から10円刻みで売られ、お買い得だ。もちろん「農協牛乳」198円、「釧路・根室牛乳」199円など、売れ筋商品もそろっている。DS業態では、大概種類が絞り込まれているから、これほどの種類がそろっているフーコットは珍しいだろう。

「こんなに安くして儲かるのか」と考えていたが、22年3月には東京都昭島市に2号店の開業を予定しているという。ヤオコーにとって、“黄金地帯”だった国道16号線沿いから、フーコットの出店地域は、もう少し地価の安いエリアに移動していくのだろうか…。

 などと考えつつ店回りを続けていたが、「会計はどうなっているのか」と思いレジに回ってみた。現金のみ対応で、クレジットカードは一切使えない。レジ業務の効率化を狙ったものであろう。

「そもそも、フーコット1号店は、なぜ、こんなに安く売れるのか」――。それは、「スーパーアルプス」の居抜き物件だからだ。加えて、レジではカード払いを受け付けないし、経費率もかなり抑えている違いない。売上高に占める経費率は、通常のスーパーならば22%は下らないが、フーコットは13~14%以下であろうと推測できる。見せかけだけのローコストではなく、徹底してコストをかけていないのだ。

 ヤオコーは先述のように、エイヴイを完全子会社化している。関東圏でディスカウント型のSMを張り巡らせようとしているのか。あるいは、地域内でのシェアを上げようとしているのか――。

オーケーが関西スーパーに買収提案 ディスカウント業態の消耗戦が始まる

 食品DSといえば、オーケー(神奈川県横浜市)の存在を忘れてはならない。足元で、オーケーは関西に拠点を置く「関西スーパーマーケット」に買収提案をしている。

 なぜ関東のオーケーが関西スーパーなのか。地域も離れているし、両者は業態が違いすぎる。どちらかというと、関西スーパーは正統派のスーパーマーケットで、オーケーはディスカウント型のスーパーマーケットだ。仮に、オーケーが買収に成功したとしても、スケールメリットが発揮できるかどうかは疑問だ。

 イオンのDS業態のスーパー「パレッテ」の動きも注目だ。気が付けば、1年の間に3店をオープンしている。イオンのDS業態なら「ザ・ビッグ」や「ビッグ・エー」もある。「新しい酒は新しい革袋で」ということで、パレッテはイオンらしさをなくす実験なのだろうか。

 食品スーパーでディスカウント業態の開発が相次ぐ今日。確かに言えるのは、流通各社が「財布のひもが固くなる」とにらんでいることだ。

 コロナ禍明けはどこか浮いた高揚感があるかもしれないが、長続きしないだろう。そんな状態を見越して、DS業態も百花繚乱となっている。

 はたして、どこが消え、どこが生き残るのか。“低価格戦争”で消耗し、何とか耐えきった企業だけが残るのだろう。ならば強靭な体質を築いたスーパーの勝ちか…。

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