ヨシキリザメ、ワシントン条約規制対象に 水揚げ日本一の気仙沼困惑

11月にパナマであったワシントン条約締約国会議で、ヨシキリザメを規制対象に加える提案が可決され、サメの水揚げ日本一を誇る宮城県気仙沼市の気仙沼港で不安が広がっている。ヨシキリザメは地元特産のフカヒレの原料となっており、漁業者や加工業者らは「過剰な漁獲はしておらず、資源は持続可能」と国際取引の継続を訴えている。

フカヒレ原料「需要減も」

 国の貿易統計などによると、2021年のフカヒレ製品の輸出額は6億300万円。ヨシキリザメの水揚げは気仙沼港が国内の8割以上を占め、地元の重要な産業となっている。

 今回の改正で、ヨシキリザメなどメジロザメ科54種が同条約「付属書2」に掲載される。効力が生じる1年後から、輸出にはトレーサビリティー(生産流通履歴)などを明示する政府の許可書が必要になる。

 公海で漁獲したサメの水揚げも「輸入」扱いになる。気仙沼港は公海での漁獲が7割超を占め、改正に従えば許可書なしには水揚げできなくなる。

 水産庁によると、政府は効力を免れるため、特定の種の規制を受け入れない「留保」を通告する方針。ただ、相手国が改正を受け入れていれば輸出には許可書が要る可能性がある。気仙沼の漁業者や水産加工会社も手続きを求められ、取引が滞りかねない。

 近海船8隻を所有する気仙沼かなえ漁業の鈴木一朗社長(72)は「すぐに操業への影響はなさそうだが、将来的な需要減が心配」と警戒する。フカヒレを扱う気仙沼の水産加工業者は「情報が少なく、今後の影響についてはまだ不透明」と口をそろえる。

 気仙沼では長年、漁業者が国に規制反対を陳情してきた。独自に漁獲制限も設定している。市内の「シャークミュージアム」で生態を発信するなど、サメは気仙沼のシンボルの一つともなっている。

 一方、英国が昨年フカヒレの輸出入を全面禁止にするなど、欧州を中心にサメの過剰漁獲を懸念する声が強まっている。近年は国際的にひれだけを取って胴体を捨てる「フィニング」への批判も起きている。

 サメ市場の縮小が懸念される状況に、菅原茂市長は「資源状態は悪くないと聞く。気仙沼はひれ以外も無駄なく活用していることを、業界と共にアピールし続ける必要がある」と話す。

 水産庁は16日、条約締約国会議の決定や今後の対応について、市内で関係者向け説明会を開く予定。

[ワシントン条約締約国会議] 2、3年に1度開催され、絶滅の恐れがある野生動植物の国際取引の規制対象種などを協議する。条約の付属書1に記載された種は原則、取引禁止。付属書2の種は取引は禁止されないが、輸出時に国が発行する許可書が必要となる。

「過剰漁獲状態ない」 国際管理機関

 ヨシキリザメは、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅の恐れを指摘する「メジロザメ」の類似種で、加工後の取引時に識別が難しいとの理由で規制対象に追加された。関係者は、条約改正でヨシキリザメ自体の資源が危ういと誤解される「風評」を危惧する。

 中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)など国際的な資源管理機関は、太平洋のヨシキリザメについて「過剰漁獲状態ではない」と分析。国の研究機関も同様の認識を示している。

 条約締約国会議では、環境保護を重視する欧州連合(EU)の国々が規制推進で足並みをそろえた。気仙沼市の漁業者は「科学的データに基づかない判断なのに、ワシントン条約という錦の御旗を掲げられるのはつらい」と嘆く。

 水産庁の担当者は「国際取引に支障が生じないよう、ヨシキリザメの資源量の状況について国内外で丁寧に説明していく」と話す。

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