鉄道業界には、第一セクター(国・地方公共団体)と第二セクター(民間企業)の共同出資により設立された第三セクター鉄道が数多く存在する。
茨城県や東京都が出資する首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)は筑波研究学園都市と首都圏を結ぶ通勤路線として大手私鉄顔負けの利用者数を誇り、東京都やJR東日本が出資する東京臨海高速鉄道(りんかい線)は新木場と大崎を結ぶお台場の足として利便性が高い。
■地方の三セク鉄道は大半が赤字
一方、地方では多くの三セク鉄道会社が赤字にあえぐ。旧国鉄の赤字路線を引き継いだ路線、新幹線開業に伴ってJRから分離した路線、私鉄から転換した路線などその成り立ちはさまざまだが、本来の鉄道事業者が切り離した路線を継承して運営を行う会社のだから、経営が厳しいのはある意味当然だ。
それでも運行が維持されているのは、地域の重要な交通手段であることを株主自治体が認めているからだ。多少の赤字には目をつぶり、補助金を出して赤字を補填することもある。
もっとも、その自治体とて、財政は火の車という例は非常に多い。財政状態の厳しい自治体が赤字の鉄道会社を手厚く支援し続けることができるとは限らない。では、三セク鉄道会社の株主自治体の財政状態はどうなっているのだろうか。
国土交通省が定める第三セクターの地域鉄道会社47社について、2019年3月末時点で出資比率1~2位かつ出資比率10%以上の株主自治体を調査対象として、『都市データパック2019年版』(小社刊)に掲載されている財政関連のデータを用いてランキングを行った。
なお、ランキングは県、市、町村に分けて行った。たとえば、市と町村では、歳出の多くを占める福祉事務の実施が義務付けられているか否かといった違いがあり、財務状態を単純に比較することができないからだ。そのため、町村財政のランキングも上記の理由から財政に違いがあり、あくまで参考値という位置づけである。
県については、経常収支比率、実質公債費比率、将来負担比率、財政力指数の4指標で分析した。
経常収支比率とは財政構造の弾力性を示す指標で、一般財源に対する経常費用の割合。この値が高いほど歳出構造が硬直的であることを示す。
■北海道がワースト上位に
比率の高い順に並べると、ワースト1位は愛知県。以下、2位北海道、3位三重県、4位長崎県、5位鹿児島県・岩手県、7位高知県、8位宮城県、9位福岡県、10位福島県・群馬県という順になった。
ワースト1位の愛知県は、47都道府県中でも大阪府に次ぐワースト2位。ただ、愛知県が筆頭株主の愛知環状鉄道は岡崎と高蔵寺を結ぶ路線を運営しているが、自動車関連など好調な愛知県経済を背景に利用者が堅調に伸びており黒字経営。その意味では同社の経営の先行きに心配はなさそうだ。
ワースト2位の北海道は、47都道府県中でもワースト3位。北海道新幹線の開業に伴いJR北海道から経営分離された路線を引き継ぐ道南いさりび鉄道の筆頭株主だ。
実質公債費比率は、標準財政規模に対する地方債の返済額の割合。この比率が18%以上になると、地方債の発行に総務大臣等の許可が必要となり、25%が早期健全化基準、35%が財政再生基準となっている。
比率の高い順に並べると、ワースト1位は北海道。以下、2位岩手県、3位兵庫県、4位新潟県、5位宮城県、6位京都府・三重県、8位山口県、9位愛知県、10位石川県という順になった。
ワースト1位の北海道の実質公債費比率は21.1%で、47都道府県中でもワースト1位。財政的には厳しい状態であり、鉄道への補助金を増やすのは簡単ではないだろう。
将来負担比率は、標準財政規模に対する、地方債など現在抱えている負債の割合。都道府県では400%が早期健全化基準となっている。
ワースト1位は兵庫県。以下、2位北海道、3位新潟県、4位京都府、5位福岡県、6位富山県、7位秋田県、8位静岡県、9位山形県、10岩手県という順になった。
1位の兵庫県の将来負担比率は335.0%で47都道府県中でもワースト1位。兵庫県は北条鉄道と智頭急行のそれぞれ第2位株主である。北条鉄道の経営は赤字基調だが、智頭急行は大阪と鳥取を結ぶ特急列車を軸に経営状態は良い。2位北海道の将来負担比率は322.2%だ。
■北海道は並行在来線を支えられるか
財政力指数は基準財政収入額を、基準財政需要額で除した値。一般的にはこの値が大きいほど財政的に余裕があるといえる。比率の小さい順に並べると、ワースト1位は高知県と鳥取県。以下、3位秋田県、4位徳島県、5位鹿児島県・長崎県、7位青森県、8位山形県・岩手県、10熊本県という順になった。
1位の高知県と鳥取県は0.27で、47都道府県中では島根県に次ぐワースト2位だ。高知県は土佐くろしお鉄道ととさでん交通の筆頭株主。鳥取県は智頭急行の筆頭株主だ。
都道府県の4指標を見ていると、うち3つで北海道が上位入りしているのが気になる。道はJR北海道の支援には決して積極的とはいえないが、こうした財政上の理由があるとすれば、納得がいく。
将来の北海道新幹線の札幌延伸時にはJR北海道からさらに並行在来線が切り離されることになりそうだが、こうした路線を継承する鉄道会社を、道はどこまで支えることができるか。
続いて、市と町村のランキングだ。都市データパック2019年版では市・町村について経常収支比率、実質公債費比率、将来負担比率、財政力指数を含む20の指標を活用した財政健全度の総合的な偏差値を作成しているため、ここでは平均値を50とする偏差値でランキングした。
まず市について、偏差値が低い順にランキングすると、ワースト1位は由利本荘市。以下、2位北秋田市、3位高知市、4位勝山市、5位高岡市、6位伊賀市、7位郡上市、8位人吉市、9位上越市、10位田川市の順になった。
1位の由利本荘市は偏差値44.26で792市中742位。秋田県と並ぶ由利高原鉄道の筆頭株主である。2位の北秋田市の偏差値は44.51。秋田内陸縦貫鉄道の第2位株主だ。ワースト1、2位が秋田県内の市となったが、秋田県の財政も磐石とはいえないのが気がかりだ。
ちなみに、偏差値が最も高いのは愛知環状鉄道の第2位株主である豊田市で、偏差値60.17。772市中10位という高順位につける。豊田市の財政力指数は1.52で792市中2位であり、地方交付税交付金の支給対象外とされる1を大きく上回る。トヨタ自動車の本社所在地であることを考えれば納得がいく。
■三セク鉄道は沿線自治体も厳しい
次に町村のランキングを見ていこう。三セク鉄道に10%以上出資して、かつ第2位までの株主という町村は7つしかない。偏差値が低い順に並べると、ワースト1位は位若桜町、以下、2位あさぎり町、3位八頭町、4位南阿蘇村、5位高森町、6位大多喜町、7位海陽町という順になった。
1位の若桜町は偏差値47.50で926町村中、690位。若桜鉄道の筆頭株主である。3位の八頭町は若桜鉄道の第2位株主だ。あさぎり町は人吉市に次ぐくま川鉄道の第2位株主。南阿蘇村と高森町は南阿蘇鉄道のそれぞれ1位、2位株主である。
こうしてみると、予想されていたこととはいえ、三セク鉄道会社の株主自治体の財政は決して安泰ではないことにあらためて気づかされる。三セク鉄道の経営の先行きを占う際には、自治体の財政状態も頭に入れておく必要がありそうだ。