日本食レストランが速いスピードで世界中に出店拡大しています。寿司、天ぷらといった従来の日本食とは異なるジャンルのラーメンなどが人気を呼んでいる他、日本を旅行したことをきっかけに日本食に興味を抱く人が多いことが背景です。アジア地域の消費者が豊かになっていることも寄与しています。
この日本食レストラン出店拡大の恩恵を持続的に受けるとみられるのがキッコーマン(2801)です。国内外で醤油ブランドとして地位を築いている同社は、レストランなどへの醤油販売を軸に利益を拡大させていくでしょう。
外食では、吉野家HD(9861)、力の源HD(3561)、ペッパーフードサービス(3053)などが海外で積極的に店舗を展開しています。ただ、外食は相対的に参入障壁が低い上に、人件費などのコスト負担も重いため、持続的な成長ができるのか見極める必要があります。
世界に広がる日本食レストラン
日本食レストランが世界中に広がっています。その店舗数は2013年の約5万5,000店から、2017年には約11万8,000店に増加しました。年平均21.1%のスピードです。
地域別の店舗数ベースの成長率で見ると、北米が年平均10.5%の成長率、欧州が同22.0%の成長率、アジアが同26.6%の成長率で拡大しています。
日本食レストラン店舗数の推移
日本食レストランは北米でポピュラー
地域別で見ると、日本食レストランはアジアに店舗が多いですが、浸透度合いは北米の方が進んでいるとみられます。
北米で日本食レストランが浸透している背景は2点あると考えています。
(1)移民文化が栄える中、アジア系が勢いを増している
(2)所得水準が高く、外食で外国料理を楽しめる余裕がある
(1)移民文化が栄える中、アジア系が勢いを増している
日本食レストランが多く展開する米国の沿岸部では、アジアを含む各国から移民を受け入れてきた歴史があるため、多国籍文化が形成されています。
その中でも近年はアジア系米国人が台頭しています。
アジア系米国人の世帯は、米国の収入水準でトップです。U.S. Census Bureauの「Income and Poverty in the United States: 2016」によると、2016年の世帯あたり年間収入中央値は59,039ドル(1ドル=111円換算で655万円)となりましたが、アジア系は81,431ドル(904万円)となりました。白人(非ヒスパニック系)は65,041ドル(722万円)、ヒスパニック系は47,675ドル(529万円)、アフリカ系は39,490ドル(438万円)でした。
アジア系米国人の人口も増加しています。米国に占めるアジア系人口の比率は、2000年に3.6%でしたが、2020年には5.9%、2060年には9.3%に拡大すると予測されています。なお、Pew Research Centerによると、アジア系人口のうち24%が中国系、20%がインド系、19%がフィリピン系です(2015年時点)。
アジア系米国人のうち59%程度は米国外で生まれています。出身国の食文化はまだ残っていると考えられ、同じアジア圏である日本食に親しみを持つ人は多いとみられます。
米国でアジア系の人口が増加中
(2)所得水準が高く、外食で外国料理を楽しめる余裕がある
日本食レストランが普及している米国の沿岸部は、米国の中でも特に所得が高いエリアです。このエリアに住む人々にとって外食は娯楽の一つであり、新しいレストランや外国料理を開拓することがエンターテインメントの一種となっています。日本食レストランはユニークなメニューを提供する店として、非アジア系の米国人からも支持されているとみられます。
日本食レストラン拡大には3つの理由がある
北米のみならず、世界的に日本食レストランが広がりを見せている背景は、以下3点と考えられます。
(1)アジア地域の所得水準が高まった
(2)日本食のバリエーションが増加した
(3)日本を訪れた観光客が日本通化している
(1)アジア地域の所得水準が高まった
所得水準の上昇を背景に、アジア地域の人々は外国料理をひんぱんに楽しむようになりました。彼らにとって日本食は自国の食文化と似ている部分もあるため親しみを持ちやすく、外食候補として日本食は気軽に選ばれていると考えられます。
(2)日本食のバリエーションが増加した
近年は、ラーメン屋やうどん屋などさまざまなジャンルの専門店が世界に出店しています。メニューに特徴があり、おしゃれな店舗であることも多く、メニュー価格が寿司店ほど高くありません。このようなレストランが人々を惹きつけ、日本食を楽しめる機会を増やしています。
米国で出されているラーメン
(3)日本を訪れた観光客が日本通化している
海外の観光客は訪日をきっかけに日本食に対する興味を深める傾向があります。観光庁が日本訪問者へ「次回したいこと」をヒアリングしたところ(複数回答)、「ショッピング」や「自然・景勝地観光」を抜いて、「日本食を食べること」が1位になりました。
また、米テレビ局CNNのウェブサイトには、「日本は食のワンダーランド」というニュアンスで、以下のような日本食メニューが、東京のお勧めレストランと共に紹介されていました。紹介されているメニューは幅広く、日本料理に対する興味、関心が高まっていることを伺わせます。
CNNは幅広い日本食メニューを紹介「私達が愛する25の日本食-天ぷらから味噌まで」
タコライス(タコスの具材をご飯に乗せた沖縄県発祥の料理)
今後も世界の日本食レストランの数は堅調に拡大していくでしょう。アジア系の人々をはじめ日本食に対する関心が高まっており、出店する側も、さまざまな日本食のジャンルを提供して需要を促進しているためです。
この流れに乗るべく、日系の外食企業でも積極的に海外展開をしているところがあります。例えば以下3社です。
海外展開に積極的な外食企業3社
吉野家HD(9861)は、海外で833店舗を展開しています。海外の売上高構成比は10.1%です(2019年2月期1Q時点)。主な展開店舗は「吉野家」ですが、アジアでは、うどん専門店の「はなまるうどん」も44店舗展開しています(直近7月時点)。
ラーメンの「一風堂」を展開する力の源HD(3561)は、海外で86店舗を展開。海外の売上高構成比は31%に達しています(2019年3月期1Q時点)。
「ペッパーランチ」「いきなり!ステーキ」などを展開するペッパーフードサービス(3053)は、海外で310店舗を展開しています(2018年12月期2Q時点)。米ニューヨークへの出店や、米国NASDAQ市場へのADR申請を公表するなど、株式市場に話題を提供しています。
ただ、外食の場合は特有のリスクもあります。主軸の国内店舗を含め、消費者に継続して来てもらえる店作りが持続できなければ、人件費や賃料の負担が営業利益を圧迫します。外食は比較的参入障壁が低く競争が激化しやすいので、その競争に打ち勝つモデルを築いているか見極める必要があります。以下に3社の直近の連結業績を掲載しますが、吉野家HDと力の源HDは利益面で苦戦している状況です。
吉野家HDの業績
力の源HDの業績
ペッパーフードサービスの業績
長期的成長が期待できるキッコーマン
こうした中、長期的な業績拡大が期待できる企業がキッコーマン(2801)です。2019年3月期当期純利益は6期連続で最高益となる見通しです。醤油ブランドとしての基盤が確立している同社は、海外の日本食需要拡大の波に乗っています。同社の海外事業では、醤油などの製造、販売と、東洋系食材の卸売りを展開していますが、2019年3月期の業績は海外事業がしっかりと拡大する計画です。その結果、海外の売上高構成比は58.8%、海外のセグメント利益の営業利益に占める比率は71.0%となる見通しです。
キッコーマンは海外事業が業績に大きく寄与
キッコーマンの醤油は現在、世界100カ国以上で販売されており、海外の生産拠点は7カ所に及びます。米国製の醤油の初出荷は1973年でしたが、その後、欧州、アジアと展開地域を拡大させてきました。
アジア系の食料品の卸については、米国で高いシェアを有しています。米国では、同社の子会社であるJFC、西本WismettacHD(9260)、そして宝HD(2531)子会社のミューチャルトレーディングが、アジア系食材をレストランに提供する3強として位置づけられています。食品卸については調達食材の原料高などのリスクが伴いますが、主力の醤油とセットでレストラン側に提案できるメリットもあるでしょう。
日本食レストランの需要が長期的に拡大するとみられる中、海外で高い知名度と販売ノウハウを築いてきたキッコーマンは、将来的にもその恩恵を受けると考えられます。
キッコーマンの連結業績推移
(松村 梨加)