世界最強磁石の開発者は東北大OB 佐川真人さんに「エリザベス女王工学賞」

―――――――― 東北大院・杉本諭教授に聞く

オンライン取材に応じる杉本教授(東北大提供)

 東北大OBの佐川真人(まさと)さん(78)=大同特殊鋼顧問=が今月、工学分野のノーベル賞と呼ばれる英国の「エリザベス女王工学賞」に選ばれました。佐川さんが1982年に開発した世界最強の「ネオジム磁石」が「人類に世界的な便益をもたらす、画期的な技術革新」と評価されました。東北大大学院工学研究科の杉本諭(さとし)教授(磁性材料)に意義などについて教えてもらいました。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

ありとあらゆる物に

 ―ネオジム磁石はどのようなものに使われているか。

 「発明から3年たたずにパソコンのハードディスク(HD)に採用され、量産化された。(地球温暖化防止のための国際協定である)京都議定書が採択された1997年ごろから、身の回りのありとあらゆる物に使われるようになった。冷蔵庫やエアコンのコンプレッサー、スマートフォンのスピーカーなどの小型化・省エネ化に役立ち、ネオジム磁石がないと今の生活は成り立たない」

 ―これから期待される活用分野は。

 「脱炭素社会の実現に向けても欠くことができない。風力発電の発電機、ハイブリッド自動車(HV)電気自動車(EV)のモーターと発電機に使われている。ネオジム磁石がなかったら、HV・EVはトラックぐらいまで大きくなってしまう」

 「国内の電力消費量の約60%はモーターが占める。その1%でも電力消費を抑えられたら、原子力発電所1基分の省エネができる。このため、効率の良い高性能の磁石を使ったモーターが近年採用されるようになった」

「エリザベス女王工学賞」を受賞した佐川真人氏(同賞提供)

2元素から3元素へ

 ―学術的には、どう画期的だったのか。

 「一世代前の高性能磁石はサマリウムとコバルトの2元素で構成されていた。ネオジム、鉄、ボロンという3元素を使って作られた点が科学的に価値がある」

 「希少資源のコバルトを使わず、重量成分の約70%が鉄でできている点も素晴らしい。粉末を焼き固めて作れる点も優れている。開発から3年で量産・実用化に至るほど、価値がある形で発明されたと言える」

 ―佐川さんとの関わりは。

 「ネオジム磁石発明の頃から学会でお話させていただいた。2007年から5年間は国家プロジェクトで共同研究した。ネオジム磁石には高温でも磁力が落ちないように重希土類のジスプロシウムを加える。中国からの輸入に依存しているジスプロシウムの使用量を40%削減する技術を一緒に開発した。今回の受賞も真っ先に知らせてくれた」

東北大大学院工学研究科に在籍した佐川さんが研究拠点とした金属材料研究所=2022年2月14日、仙台市青葉区片平2丁目

実学重視の理念体現

 ―佐川さんの人柄は。

 「若い頃にご苦労されたためか、若い人をエンカレッジ(励まし)、サポートしてくれる。熟考するタイプで、長時間のフライト中も映画は全く見ず、実験ノートを開いてずっと思考しているそうだ。研究について『誰がやるんだ、自分がやるんだ』という気概がある方だ」

 ―東北大は磁石研究で世界をリードしてきた。

 「佐川さんは本多光太郎博士(金属材料研究所の初代所長、当時の世界最強の磁石『KS鋼』を発明)を尊敬し、研究を進めてきた。今回の受賞に際し、また2012年に日本国際賞を受賞された時にも『本多先生と同じような立場に近づけた』と喜んでいた。佐川さんは実学尊重という東北大の理念を体現しているといえる」

[エリザベス女王工学賞]2012年に創設され、13年から2年に一度、表彰されてきた。これまでインターネット、衛星利用測位システム(GPS)、発光ダイオード(LED)などの研究者が選ばれた。第6回の今回から毎年の表彰となり、賞金は50万ポンド(約7800万円)となった。

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