人口815人の村を「AR貞子」が救う? 奈良県・下北山村がだいぶ思い切ったコラボを決めたワケ

人口815人の奈良県下北山村(2022年12月31日時点)が今にわかに盛り上がっている。ホラー映画の代名詞ともいえる「貞子」が、スマホを通して村内の名所から出現するからだ。 【画像で見る】ダムから貞子が出現  下北山村は、観光促進のきっかけづくりにと、貞子とコラボしたAR(拡張現実)アプリを配信している。同村はなぜ貞子とのコラボを決めたのか、そしてどのような戦略があるのかについて、地域振興課の担当者に聞いた。  このアプリ「貞子の村巡り―下北山村でさだキャン―」は、凸版印刷との共同開発。ARスポットを巡ってもらいながら、新しい目線で下北山村の魅力を体感してもらうものだ。アプリ内には9カ所のAR体験スポットと5カ所の観光スポットが設定されており、貞子と一緒の同村の観光スポットを巡り、写真も撮れるというもの。  ARの技術には「VPS」(ビジュアルポジショニングシステム)を用いている。VPSとは、画像認識技術で現実世界との位置を合わせることで、端末の場所や向きを特定する技術のこと。人工衛星からデータを受け取る「GPS」は数メートルの誤差が生まれてしまうのに対し、VPSなら数センチメートルの誤差にまで抑えられる。そのためARのオブジェクトをより正確な位置に出現させられるほか、起動位置から遠い場所へのオブジェクト表示も容易になる。

なぜ下北山村と貞子はコラボしたのか?

 この企画が誕生した経緯は2つあるという。下北山村には、アーチ式ダムとして国内最大級の総貯水容量と湛水面積を誇る「池原ダム」がある。同ダムの高さは約110メートルだ。  このダムを観光資源として生かせないか考えていたというのが一つ。  もう一つは、このダムのふもとにある観光拠点「下北山スポーツ公園」内にあるキャンプ場の来場者に対して、下北山村の魅力を伝えられないかということだ。このキャンプ場は、日本最大級のキャンプ場予約サイト「なっぷ」にて、西日本・予約件数部門で1位を通算3回受賞するほどの人気を博している。  公園のキャンプ場には多くの人が訪れるにもかかわらず、下北山村の他のエリアを巡らずに帰る人がほとんどだった。「村には由緒ある神社、美しい景色が存在しています。これらのスポットを巡ってもらい、村の魅力ある観光資源をもっと知ってもらいたいという思いがありました」と担当者は説明する。  下北山村の魅力のPR方法を模索する中で、デジタル施策の活用が候補に挙がった。そんな折の22年10月下旬、「貞子DX」という新映画が公開された。この「DX」はデジタルトランスフォーメーションのことだ。まさにやろうとしていたデジタル施策との縁を感じ、村のPRに貞子を“起用”することに決めたという。

貞子のPR効果は絶大だった

 なかなか挑戦的な判断に思うが、「貞子効果」はてきめんだった。  SNS上ではコラボについて驚きの声があがった。TwitterやInstagramでは、実際にアプリを使って写真を撮った投稿も見つかる。  地元のテレビ番組、『ならフライデー9』(奈良テレビ)にも取り上げられ、「テレビを見て来た」という人もいたという。同番組のTwitterアカウントで宣伝された“貞子回”の投稿は、インプレッション数(投稿がユーザーに表示された回数)が約1.6万。人口843人の村だということを考えると驚きの数字だ。

デジタル施策の強み

 本企画の効果検証はどのように行うのか聞いた。本キャンペーンは3年間実施するが、この期間におけるアプリのインストール数を計測するほか、Instagramで「ハッシュタグキャンペーン」を行うとのこと。これは村を訪れて実際にアプリを楽しんだ人が、ハッシュタグ「#下北山村」「#さだキャン」を付けて投稿すると、抽選で村の特産品をプレゼントするというもの。このキャンペーンのハッシュタグの投稿数で、実際の利用者の数や反響について効果検証を行う。このほかにもキャンペーンを予定しているそうだ。  施策の効果が定量的に測定できるのも、デジタル施策の強みといえるだろう。  貞子をきっかけに下北山村を知ってもらったその先には、「関係人口」の創出、ひいては将来的な移住につなげたい思いがある。関係人口とは、移住でもなく観光でもない、地域と多様に関わる人々を指す言葉だ。「観光を促進する根底には、“村を知ってもらい、好きになってもらいたい”という思いがあります。そのために、今後も下北山村を訪れてもらえるような取り組みを継続的に行っていきたいと思います」と同村の担当者は話した。

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