「ふなばしアンデルセン公園」という公園を知っているだろうか? もちろん、名称からして千葉県船橋市にある公園なのだが、僕は首都圏に住んでいるが知らなかった。ところが、この公園、ただの公園ではない。2015年には旅行情報の口コミを共有する「トリップアドバイザー」日本のアミューズメントパーク部門で3位に選ばれたという人気の場所だ(ちなみに同年の1位、2位は東京ディズニーシーと東京ディズニーランドだった)。現在でも「日本のテーマパーク」でランキングを見るとTOP10に入っている(執筆時は6位だった)。といっても、その上にランクインしているテーマパークは、TDRのほかに、「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」「ナガシマスパーランド」「富士急ハイランド」など、民間の有名なテーマパークが続く。
「ふなばしアンデルセン公園」は市の都市公園としてはぶっちぎりの1位だ。民間のテーマパークではないにも関わらず、トリップアドバイザーには訪日外国人観光客からの絶賛の声もあるようだ。世界的に人気のテーマパークが都市公園と聞けば、興味がわかないだろうか。なぜ外国人にも人気なのか。公園に実際に行ってみた。
話を聞いたのは運営課、花緑係長の藤田さんだ。
―――なぜ、訪日外国人も含め多くの来訪者に人気なのでしょうか?
実は外国人向けの施策というのは特に注力して行っているわけではないんです。園内にマップなどの無料のパンフレットがあって、それは日本語、英語、中国語、韓国語の4カ国語が設置されています。公園の中心に迷子の子どもたちが集まるサービスセンターがありますが、そこには英語が話せるスタッフがいます。
―――マップやサービスセンターは心強いですが、そこまで独自な取り組みではないですよね。日本人を含めお客様の満足度はいかがでしょうか?
来訪者にアンケート調査を行ったことがあります。去年の2016年と、10年前の2006年に行った同様の調査があるのですが、それによると、2006年には公園に「満足」と回答した方が4割、「普通」と答えた方が4割です。一方、2016年には「とても満足」と回答した方が5割、「満足」と答えた方が4割、「普通」と答えた方が1割でした。この10年の間に「全国都市緑化フェア」などがあり、園内のお花などの設備がよくなったこともあります。実はそれまで年間40~50万人ぐらいの入園客だったのが、ここから60万人に増えています。なお、入園客数で過去最高は2015年で、この年は90万人のお客様に来ていただいています。
記者が考える「ふなばしアンデルセン公園」人気の秘密
船橋市の人口は63万人。それより多い90万人がこの公園にはやってくる。さらに、そのうち9割の利用客が満足していることになる。全国都市緑化フェアは確かに素敵なプロジェクトだが、利用客が増えているのはそれだけが原因だろうか。それだけではこの賑わいは獲得できるまい。施設内を歩いて、人気の秘密と考えられる要因をまとめてみた。
ハード面
- 園内のゾーニング
- 立地
- 混雑具合がちょうどいい
ソフト面
- 公園とテーマパークの間のような場所
- 常連客や訪日観光客を飽きさせないコンテンツ
- フード類が安価
- 自由度
- 女性の園長をはじめとした職員のさりげない気配り
いかにもお花が好きそうな藤田さんに案内されながら、僕なりに考えてみた人気の秘密は上記の8点だ。これはあくまで僕の取材時の印象に過ぎないが、順番に見てみよう。
人気の秘密1「園内のゾーニング」
まずは2枚の写真を見てほしい。
これは、元気な子連れが多い「ワンパク王国ゾーン」と、カップルや大人が多い「花の城ゾーン」の写真である。この公園は36.7ヘクタールという広さを活かして、ゾーニングがしっかり意識されているのだ。ちなみに36.7ヘクタールというのは、井の頭公園(約41ヘクタール)、代々木公園(約54ヘクタール)と比べても遜色ない広さだということは覚えておいてほしい。カップルで訪れて落ち着いた雰囲気が味わいたければ(ついでにロマンチックな気分になりたければ)「花の城ゾーン」や、アンデルセンの生地デンマークをモチーフとした「メルヘンの丘ゾーン」。元気な子供を連れて遊び回りたければ「ワンパク王国ゾーン」に連れて行けばいい。このほかに、ザリガニやメダカなど自然の動植物が多数生息している「自然体験ゾーン」や、各種ワークショップなど参加型のイベント・ワークショップを行う「子ども美術館ゾーン」があり、お子さんの興味に応じて幅広い選択肢が用意されている。大人だけで憩える水辺のカフェやボート(1回300円)などもおすすめだ。
人気の秘密2「立地」
この公園は、東京都心部から車もしくは電車とバスの乗り継ぎでも、おおむね1時間圏内にある。欲を言えば駅前にあれば最高だったかもしれないが、それならこんな広い敷地を確保できないだろう。また、この公園は成田空港からも車で1時間である。日本から帰国する最終日でも、空港に行く前に3時間もあればじゅうぶんに楽しめる。
人気の秘密3「混雑具合がちょうどいい」
取材日の入場者数はおおむね3,000人といったところ。土曜日としては少ないらしい。日曜の多い日でも7,000人ぐらいの利用客だという。けれども、敷地が広いこともあって、そこまで混雑していないように感じる。家族で車で来て、このようにテントを張ることだって可能だ。かと言って、あまりに人が少なくてさみしいという状況でもない。子ども同士なら新しい友だちができるかもしれない。
人気の秘密4「公園とテーマパークの間のような場所」
藤田さんによると、この公園には職員や臨時職員、アルバイトなども含めると、常時100人ほどが働いているそうだ。一般的な公園よりも職員数は多い。一方で、入園料は900円(高校生600円、小中学生200円、4歳以上の幼児100円)と、テーマパークと比較すると圧倒的に安い。この「公園とテーマパークの間」のようなところがウケているのではないだろうか。東京近郊のテーマパークは確かに楽しいが、少し高い。けれども、アンデルセン公園にはワークショップやアトリエなども存在し、大がかりなアスレチックや大すべり台もある。テーマパークよりは気軽に、通常の公園以上の設備を楽しむことができる。
人気の秘密5「常連客や訪日外国人を飽きさせないコンテンツ」
スタッフによる様々な試みも人気の秘訣だと思った。特に「子ども美術館ゾーン」が顕著なのだが、版画・染・織り・陶芸・木のアトリエで月替わりで様々なワークショップが開催されるほか、アンデルセンスタジオでは、アンデルセン童話「親指姫」の劇に子どもたちが挑戦するワークショップも行われている。最も大きなワークショップ室では現在、ハロウィーン用のおばけキャンドルを作るワークショップが開催されている。近隣のご家族は参加してみてはいかがだろうか。いつものハロウィーンが少し特別なものになるかもしれない。
また、このアトリエやワークショップに常駐するスタッフによると、ここには外国人(観光客や、日本在住の外国人)もよく来るという。版画や染、織りなど手を動かして見せるようなワークショップでは、言語はカタコトでも手でやって見せることができる。これは外国人を狙ってこのようなワークショップを組んでいるわけではないだろうが、結果としてコミュニケーションのきっかけとなる。僕も外国に旅行に行くが、知らない土地で知らない誰かとカタコトのコミュニケーションが生まれるときほど、その場所に来て良かったと思うことはない。今日も公園のスタッフが日本のイメージ向上に一役買っているかもしれない。
人気の秘密6「フード類が安価」
屋外に来たらバーベキューでも食べたくなるのが人情だが、レストラン「メルヘン」では見ての通りのおいしそうなBBQセットが1,500円(牛肉と野菜の盛り合わせ)。テーマパークだとすると、わりと妥当な、いい感じの価格だと思わないだろうか。人気のテーマパークなら、2,000円以上するだろう。
人気の秘密7「自由度」
この公園の水辺は、1年中水遊びができる(あなたが寒さに耐えることさえできれば)。市の公園のなかには、水遊び禁止のところも多いだろう。球技も禁止、何も禁止。そんな公園を見ると、しかたがないのかもしれないが、さみしい気持ちになる。
この公園では大きさの制限はあるが、テントも張れる(一部公園やテーマパークでもテントは禁止されている)。なるべく規制せずに運営できているのは、ゾーニングや現場の職員の力によるものだろう。来場客の行動を過度に制限することなく自由に遊べることが満足度につながっているのではないか。
人気の秘密8「女性の園長をはじめとした職員のさりげない気配り」
残念ながら取材時には会えなかったが、当園の園長は子どもがいる女性だという。だからなのか、この施設は、家族連れの客であふれている。女性園長ならではの視点が家族を持つ親の満足度の向上につながっているのではないか。
また、インスタグラムに投稿されることも多いハートのトピアリーの手前には、スマートフォンやカメラを固定しておけるスタンドが置かれていた。
このような小さな気配りも公園には必要だ。こうして見ると、公園の魅力には立地といった、持って生まれたラッキーもあるが、職員の普段の努力で満足度を高めているところも多いように思う。さらに、ワークショップの例のように、カタコトの英語のコミュニケーションでも、コンテンツに力があれば言葉がわからなくても喜んでくれる。
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ゾーニングや立地は今日明日では実現は難しいかもしれないが、ワークショップの企画をにぎやかにする。なるべく来場客の自由を制限しないなどの工夫は、やる気があればすぐにでも他の公園でも真似できるように思う。公園やテーマパークの関係者もぜひ参考にしてもらいたい素敵な公園だった。