今なぜ 「タクシーバブル」が起きているのか?「インバウンド復活」だけではない「稼げる意外な理由」

タクシードライバーに「この仕事は稼げるんですか?」と聞いて、「いや~、そうでもないですね」という答えが返ってきたら、それは真っ赤なウソだ。今のタクシードライバーは稼げるのだ。ひょっとしたら、これ以上タクシードライバーが増えたら自分の稼ぎが減ると思ってウソをついているのかもしれない……。物流ライターで現役タクシードライバーでもある二階堂運人氏が「タクシーバブル」について語る。

ドライバーの収入はどのくらい上がった?

主要な駅のタクシー乗り場に並ぶ長蛇の列。それはタクシーの列ではなく、タクシー待ちの乗客の列である。コロナ禍の最中はもちろんのこと、コロナ禍以前とも逆の現象が起こっている。

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今は道路上でタクシーを待っていても、通るのは乗客を乗せたタクシーばかり。タクシーを捕まえるにも一苦労だ。

ただ、タクシードライバーからしてみれば入れ食い状態。まさにタクシーバブルの到来である。果たしてタクシードライバーの収入は、どのくらい上がっているのか?

・2018年……558.4万円/348.3万円
・2019年……560.9万円/360.3万円
・2020年……545.9万円/300.8万円
・2021年……546.4万円/280.5万円
・2022年……554.9万円/363.6万円(※全国ハイヤータクシー連合会調べ)

左が全産業の平均年収で、右がタクシーの平均年収。このようなデータをみれば、全産業の平均を下回り「やっぱり稼げてないではないか」と思うかもしれないが、これはあくまでも平均である。

この業界は、稼いでいる人と稼いでいない人の差が激しい。都市部と地方部であれば、タクシー利用者の絶対数も違うし、客単価も違う。

会社を比較してみれば、会社指定タクシー専用乗り場、全車Japan taxi車両(新型タクシー)導入、そして今一番営業収入を左右するタクシー配車アプリへの加盟など、営業アイテムが多いかそうでないかで差が出る。

このように、環境に収入が左右されるところが大きい。タクシードライバー自身のやる気はもちろんのことだが、勤務地、会社選びをしっかりすれば結果は出る。事故と違反に気をつけてさえいれば稼げる、といっても過言ではない。

「仁義なきタクシー争奪戦」が起きている

なぜ今、タクシーバブルになっているのか。

そもそも、平均年齢が高いタクシー業界、高齢者ドライバーが支えていた部分もあるが、その高齢者ドライバーがコロナ禍でタクシー業界を離れた。そして今、その人たちは戻って来ていない。

タクシードライバーの数は、新型コロナウイルス感染拡大前から約2割減少している。そのようなタクシードライバー不足の中、昨年11月に東京都23区、武蔵野市及び三鷹市地域を皮切りに、各地域でタクシー運賃改定、つまり値上げが行われた。

さらに、コロナ収束による景気回復、需要が増えているタクシー配車アプリによる迎車料金増などが客単価を上げている。

もちろん、インバウンドの急激な復活の影響も大きい。

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日本政府観光局(JNTO)が発表した統計によると、7月の訪日外国人客数は232万600人、2019年同月比77.6%となり、200万人を突破した前月から約12%増と大幅な増加となった。

円安も背景にあると思うが、主要な観光地や繁華街は外国人観光客であふれており、毎日必ずと言っていいほど外国人観光客を乗せる。

運試しに、羽田空港や成田空港へ行く外国人のロング(長距離客)を狙いにホテルへ向かおうとするが、そのホテルに辿り着けるタクシーは少ない。そのホテルに辿り着く前に手が上がったり、タクシー配車アプリに捕まってしまうからだ。

客からタクシーを催促されたホテルのスタッフが公道に出て、必死にタクシーを探す光景もよく目にする。国内の人だけではなく、海外から来た人たちも数少ないタクシーを探し求めており、街ではタクシー争奪戦が繰り広げられているのだ。

乗客がいるならいざ知らず、乗客がいないにもかかわらず手を上げる人を無視して走るタクシーもいる。しかし、それは乗車拒否をしているわけではない。

よく目を凝らして見ると、そのタクシーには「迎車」の文字板。そう、今はタクシーアプリ配車の急激な需要に応え、迎車専用タクシーが走っているのだ。

こうしたタクシーは、流しの客を乗せることはない。タクシー配車アプリからの依頼だけを受けるタクシーだ。タクシードライバーにとっては自分で乗客を探す必要がなく、効率的に客を乗せることができる。大物(高単価客)を狙って、ビルやタワーマンションの陰に隠れ潜んでいるタクシーもいる。

そんなタクシーが増え、街を流さないタクシーがいることも、タクシー減少を感じさせる一つの要因かもしれない。

もはやタクシーに乗るためには、タクシー配車アプリの登録が必須となっている状況である。

「タクシーバブル」はいつまで続くのか

このタクシーバブルは永遠に続くのか。それは法律によって水を差されるかもしれない。

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今、巷で騒がれている「2024年問題」。この問題は、何も物流業界だけの話ではない。ドライバーに関する法律の改正であり、タクシー業界にとっても大きな問題なのだ。

タクシードライバーにとっては、労働時間が短くなれば、当然、給与もダウンする。労働時間短縮により営業車はさらに減少し、タクシー不足に拍車がかかるだろう。

「タクシーが全然捕まらない」上に、「タクシードライバーでは食うことができない!」とタクシー業界を去る人も多数出てきて、事態がさらに深刻になる可能性もある。

このようなタクシー不足の中、ライドシェア解禁論が再び議論されている。ライドシェアサービスは、海外では多くの国や地域で普及が進む一方、日本では「白タク」行為として禁止されている。

しかし、コロナ禍以前から白タク行為は横行している。今後、よりいっそう外国人観光客の増加が予想される中、タクシー不足が外国人観光客の不満を呼んで白タクのような違法なライドシェアの増加へつながりかねない。

このままタクシー業界が高まる需要に対応できないままだと、世論からライドシェア解禁の声も大きくなり、議論も本格化されるであろう。

白タク行為を見逃すのか、ライドシェアを受け入れるのか。ライドシェア解禁となれば、タクシーバブルの崩壊だけではない。タクシー業界の存続も危いだろう。

「法律改正」が乗客の安全を脅かす

タクシー業界は、タクシードライバー不足を解消しようと若い人に目を向け門戸を開いた。

タクシードライバーになるには「普通自動車第二種免許」、いわゆる「二種免」の資格は絶対条件である。

その「二種免」を取るには、普通自動車第一種免許の資格を持つ上に、普通自動車第一種免許取得から3年、21歳以上という条件がある。それが法改正により1年以上、19歳以上に変更された。

若い人がどれだけタクシードライバーにチャレンジしたいと思うかわからないが、安全のために経験年数を設定していた受験条件を緩和していいものだろうか。

物流業界でもトラックドライバーの人手不足が指摘される中、運送時間短縮のために高速道路での大型トラックの法定速度を80キロメートルから引き上げることが検討されている。ドライバーにとって一番大事な「安全」を蔑ろにする法改正が行われている。

急激に伸びたタクシー配車アプリの利用率。道端でスマホを操作している人を見ると「配車アプリでタクシーを呼んいでる」と勘違いするほど多い。実際その人に呼ばれたこともある。

映画やテレビドラマなどで建物から出て、すぐタクシーが捕まるシーンをよく観るが、これからは脚本家も構成を考えないとリアリティが出ない。

もし、タクシー配車アプリで配車してタクシーに乗るシーンがあれば、その脚本家は時代をしっかりと掴んでおり、感情移入できるドラマに仕上がっているだろう。

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