残業、休日出勤……なぜ仕事がなかなか終わらないのか? そんな悩みを抱えるビジネスパーソンに、より効率的な仕事の進め方を教えるのは、『仕事が早く終わる人、いつまでも終わらない人の習慣』の著者で、人材育成コンサルタントの吉田幸弘氏だ。仕事が早く終わる人は、ものごとを「オーウェル思考」で考えるという吉田氏。一体どんな考え方なのか、解説してもらった。
「カメ思考」から脱しよう
たとえば100ページあるカタログの作成の一部を任され、数人で分担することにしたとします。
Photo by iStock
Aさんはそのうちの20ページを担当することになりました。
「自分が担当した部分は完璧に仕上げなければ」と考えて、細かなところにこだわり、デザインなども凝ってゆっくりていねいに作成していきました。
しかし、時間がかかりすぎて期限に遅れそうになり、残業をする羽目に。他のメンバーにも迷惑をかけてしまいました。
Aさんは自分のパートだけを見て進めていたから遅くなったのです。
私はこのようなAさんの思考を「カメ思考」と名付けています。
カメ思考は、やるべき作業をコツコツと積み上げていきます。
今日はこれができた。さて、次はこれに取りかかるか……、その繰り返しです。
確実に仕事はできあがっていきますし、前には進んではいるのですが、これでは「木を見て森を見ず」になるので、仕事がいつ終わるかわからない状態になります。
また、目の前のことだけに一生懸命になってしまうため、急がなくてはいけない状況であったとしても、必要以上にこだわりを見せてしまったりと、「部分最適」の考えに陥ってしまう可能性があります。
寓話「ウサギとカメ」の競走では最終的にカメがウサギに勝ちましたが、ビジネスはスピードが重要です。いくらていねいにやっても、期限通りに終わらなくては元も子もありません。
同じく20ページ任されたBさんは、仕事をする時は、全体像をしっかり把握してから始めるようにしています。
そのため、カタログの作成を任された時点で、納品日、最終データ引き渡し日などのスケジュールを確認し、計画を立てました。
鳥のように俯瞰してみる
「営業のメンバーがお客様にカタログを配るのは2月15日である。
Photo by iStock
ならば、1月20日までに印刷会社さんに完全データを入稿しなければならない。
そうなると、デザインのレイアウトを完成させる部署には1月10日までに原稿を渡さなければならない。
ただ12月20日から1月10日は年末年始でその部署も立て込んでいるはずだ。
だから12月15日には確実に完成原稿を渡すようにしなければ――」
ゴールから考えることで、こんなふうに先読みで計画できるのです。
Bさんは日々の過ごし方もゴールから考えます。
「たとえば18時が定時だとします。
17時までに来週の会議の資料の作成は終わらせて、上司に提出しよう。
ならば、15時までに資料づくりに着手しなければならない。
その前にE社への見積もり作成の時間を取る必要がある、ただ、午後はよく部長から急な仕事が入って時間が取られる。いつも、その仕事をすませるにはだいたい1時間くらいかかるから、E社への見積もりは13時から手をつけるようにしよう」など。
結果、残業もありません。
Bさんは自分のあり方を、鳥のように高い位置から俯瞰的に見るようにしています。
いわゆる木だけでなく森もきちんと見ているのです。
私はこのようなBさんの思考を「コンドル思考」と名付けています。
コンドルは空高くから見ているからこそ、カメよりも視野が広くなります。
また、この視点を持てば、他の人へも気配りもきちんとできるようになります。
日常的に気配りを欠かさないため、仕事が同時に入り込んでしまい、自分の手に負えないというような時も、周りに助けてもらえ、結局スムーズに進むのです。
仕事がなかなか終わらない人ほど、仕事の仕方、働き方に対して、「こうあるべき」との概念を強く持っています。いわゆる「マスト思考」が強いのです。
集中力を落とす「マスト思考」
「マスト思考」の例を挙げてみましょう。
・集合場所には必ず上司や先輩より前に着いているべき
・部下や後輩から先に挨拶するべき
・上司に呼び出されたら30秒以内にかけつけるべき
・メールは2時間以内に返信すべき
・先輩が重いものを運んでいたら率先して手伝うべき
・提案資料はA43枚にまとめるべき
・電話は1コールでとるべき
・提出物は期限の2時間前に提出すべき
・相談がある時はいきなり声をかけるのではなく、先にメールでアポをとるべき
・夏でも長袖のシャツを着るべき
・冷房は26度に設定すべき
・お客様に出すのは緑茶にすべき
このようなあなたが思う「べき」は誰にでも適用できる普遍的なルールでしょうか。
人はそれぞれ違います。働き方も、考え方も、大事なことも。
あなたは「べき」と思っていても、相手にとっては「べき」ではないこともあるでしょう。
「マスト思考」は個人的な思い込みにすぎません。
「マスト思考」が強いと、他の人に対して「なぜそうしないのか?」とイライラしがちです。さらにそのことが気になって、集中力が落ちてしまいます。
仕事が早い人は「オーウェル思考」
一方で、仕事が早い人は「オーウェル思考」を持っています。
「オーウェル」を日本語で訳すと「まあいいか」になります。
たとえば、「集合場所には上司や先輩より前に来ていなければ」ではなく、「集合の5分前に来ていれば問題ないな」と許容範囲を広げます。
日頃から「まあいいか」と思うようにすると、イライラが減り、自分の仕事に集中できます。
Photo by iStock
イライラして相手にその感情を露わにしたりすると、相手も気分が悪くなります。気分を害した相手は、あなたの仕事の依頼を後回しにするかもしれません。
逆にイライラした感情を出さない穏やかな人に対しては、周囲も協力的になります。
いつもイライラしている「べき思考」の人と、イライラしない「まあいいか思考」の人、2人同時に何かを頼まれたら、後者の人の頼みを優先するでしょう。
もちろん、すべてのことに「まあいいか」と許容する必要はありません。
明らかなルール違反やマナー失格があれば、はっきりと、しかし穏やかに伝えるようにしましょう。
大切なのは、自分と相手との「価値観・考え方・やり方」は違うのだということを知っておくことです。