宮城県が20日に公表した2022年度の県内基準地価(7月1日時点)は全用途平均で1・7%上昇し、10年連続でプラスを維持した。上昇率を都道府県別に見ると、商業地が福岡に次いで全国2位、住宅地が6位。東日本大震災の復興需要の収束で、人口減少が続く被災地や仙台圏以外は、住宅地、商業地とも下落した。仙台市中心部の再開発が進み、宅地需要が底堅い仙台圏の1強が色濃く出た。
[住宅地]登米、栗原など19市町下落
前年度から継続調査している263地点のうち108地点で上昇した。平均上昇率は1・3%で前年度より1・0ポイント上がった。一方の下落は137地点と半数を超えた。横ばいは18地点だった。
市町村別の上昇率は仙台市が5・9%。全61地点のうち60地点で前年度を上回った。同市周辺の9市町村の平均は4・7%。仙台市、周辺9市町村とも11年連続の上昇で、上昇幅も前年度に比べてそれぞれ2・3ポイント拡大した。
上昇率の上位5地点のうち、仙台圏北部が4地点を占めた。低金利を背景に子育て世帯らの需要が根強く、比較的割安なエリアを選ぶ傾向が続く。
仙台圏以外の25市町は平均下落率が1・2%で、8年連続のマイナス。東松島市や亘理町など5市町で上昇したものの、登米、栗原両市など19市町で下落した。柴田町は横ばい。
東日本大震災の被災市町では、災害公営住宅の供給などに伴う移転需要が一段落。下落率の上位は気仙沼市2・5%、南三陸町1・9%、石巻市1・4%だった。
[商業地]学院大新キャンパス周辺の需要増
継続調査した100地点のうち57地点で上昇した。平均上昇率は前年度比1・1ポイント増の2・7%。仙台市が5・7%、同市周辺9市町村が3・5%と、いずれも10年連続でプラスとなった。仙台市と周辺9市町村を除く25市町は平均1・0%の下落で、前年度より0・3ポイント改善した。
上昇率1位の地点は、東北学院大が来春新設する五橋キャンパスに近い仙台市青葉区五橋2丁目。賃貸マンションの用地需要が元々高い上に、学生寮や分譲マンションの建設が相次ぐ。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う行動制限が緩和され、人の流れが戻りつつある青葉区国分町2丁目は2・6%上昇。前年度を5・7ポイント上回り、マイナスから転じた。同区一番町4丁目も1・6%の下落ながら3・1ポイント回復した。
地方の観光地は客足の鈍さを反映し、地価にも厳しい現状が表れた。大崎市鳴子温泉赤湯の下落率は6・9%で、前年度より0・4ポイント悪化。3年続けて県内で最も下落率が高かった。
震災の被災地は原油高や人手不足などが重なり、水産加工など地場産業が苦境に立つ。下落率は気仙沼市(2・2%)、松島町(1・8%)などが目立った。
住宅需要、名取より富谷の流れ強く
県が20日に公表した2022年度の県内基準地価は、仙台圏の住宅地に対する旺盛な需要を改めて浮き彫りにした。地価が年々上昇する仙台市内の物件に手が届きにくく、周辺の市町村が注目される状況は不変だが、専門家は南部に比べ、北部への流れが強まる兆しを指摘する。
県内の住宅地で上昇率の上位5地点には、仙台圏北部の富谷市、大和町からそれぞれ2地点が入った。1位は富谷市富ケ丘2丁目の13・8%で、前年度を7・6ポイント上回った。
昭和40年代に造成された静かな住宅街。区画が比較的広いため、住宅メーカーが買い取った後に分割し、2戸の分譲住宅を建てるといった動きが活発になっている。
調査を担当した千葉和俊不動産鑑定士(青葉区)は「周辺に商業施設もあり、泉区で生活するのと利便性が変わらない面が、選ばれる要因ではないか」と分析する。
工業団地が集積する大和町。住宅地の上昇率は8・8%と県内35市町村でトップだ。移住・定住する子育て世帯への助成制度などが充実し、周辺自治体などから転入者が増えている。
仙台圏南部の名取市の上昇率は、前年度比2・3ポイント増の7・9%。関係者によると、JR名取駅周辺や杜せきのした地区は需要が底堅いものの、供給物件が少なくなっている。
千葉氏は「これまでは仙台から名取への流れがあったが、打ち止め感が出ている。仙台で住宅地の価格が上昇する以上、郊外を選ぶ傾向は続き、富谷や大和は今後も地価が上昇し続ける可能性はある」と話す。