仙台市「電子図書館」サービス開始へ 全国で急拡大も「一長一短」

 仙台市は本年度、図書館まで出掛けなくてもネット上で本を借りることができる「電子図書館」のサービスを開始します。電子図書館は新型コロナウイルス禍を背景に全国で導入が進んでいます。仙台市の計画と東北の先行事例を比較しながら長所と短所を整理しました。
(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

まず2000冊から

 仙台市は図書館の資料購入費1億3000万円のうち1000万円を電子書籍に充て、約2000冊を用意する計画です。年内のサービス開始を目指しています。
 同市の場合、紙の図書は年間延べ150万人が450万冊を借りています。市民図書館の早坂江美子企画運営係長は「どのぐらい利用されるか読めません。状況を見ながら増やしていきます」と話しました。
 電子図書館は全国の自治体で急速に広がりを見せています。一般社団法人電子出版制作・流通協議会によると、今年4月1日現在で205自治体が導入しています。1年前の94自治体の2倍以上に増えました。
 このうち6月2日現在で181自治体が図書館運営最大手の図書館流通センター(東京)のサービスを利用しています。センターは和書8万7000冊というコンテンツの豊富さなどを売りに、市場を席巻している形です。
 緊急事態宣言下にほとんどの図書館が休館を余儀なくされたことを踏まえ、同社広報部は「時間や距離の制約、病気などで図書館に足を運べない人は元々少なからずいました。コロナ禍はそのことに気付く機会となりました」と話しています。コロナ対策の地方創生臨時交付金の対象となったことも追い風となったといいます。

PC・スマホですぐ読める

 どのように利用されているのでしょうか。2016年11月、東北の市町村で最も早く導入した山形県東根市を例に挙げます。
 利用できるのは市内に住むか通勤通学する人。蔵書3800冊で、貸し出しは5点、2週間まで。パソコンやスマートフォンからアクセスし、読みたい本を選べばすぐ読めます。既に借りられているときは予約するのは紙と同じです。
 登録者はコロナ下にあって伸びています。開館から3年半で計218人だったのが、昨年4月から今年5月までにさらに528人増えました。市は、図書館への来館に抵抗を感じる親向けに育児や料理の本を増やすなどの対応をしました。
 電子図書館の利用者はITに慣れた若い世代が多いとみられますが、高齢者や障害者ら社会的弱者にもメリットがあります。読みやすいよう文字を大きくしたり白黒反転させたりすることが可能で、音声で読み上げる機能も使えるからです。
 図書館側には管理しやすい利点があります。書庫がいらないし、本がなくなったり汚れたりする心配もありません。貸出期間を過ぎると自動的に返却され、催促の手間もかかりません。
 もっとも最大の利点は開館時間やアクセスを問わない便利さにあります。仙台市の図書館は7館。他の政令指定都市と比べて少ないです。市は電子図書館に対し、来館が難しい市民や各図書館から遠い地域をカバーする役割も期待しています。

書籍ジャンルに偏り

 一方、電子図書館には課題もあります。東根市の場合、登録者が増えたといっても全体の約3%に過ぎません。年2回の体験会への参加者も、思うように増えないといいます。業務責任者の西沢真里さんは「まだまだ伸ばさないといけません」と効果的な周知の方法に頭を悩ませます。
 サービス導入後、撤退した自治体もあります。秋田県立図書館は2012年10月、全国10番目、都道府県では初めて導入に踏み切りましたが、利用者が落ち込んだため18年12月にやめました。貸出冊数は最初の半年が873冊、17年度は1年間でわずか24冊にとどまりました。
 「利用者の読みたいニーズに応えられなかった」ことが利用者低迷の理由だといいます。書籍が電子化されるジャンルには偏りがあります。インプレス総合研究所の調査によると、19年度の電子書籍の市場規模は3473億円(推計)。このうち86%をコミックが占めます。

紙の定価の1・5~2倍

 残る14%が実用書や写真集を含む「文字もの」。市場規模は484億円と11年度に比べ4倍に増えましたが、今も人気作家の作品が電子化されなかったり、ベストセラーが電子化されるまでに数年かかったりしています。中小出版社の本や郷土資料も少ないのが実情です。
 維持費も重荷です。電子書籍の流通には買い切りと2年間(または52回貸し出し)の制限付きがあり、価格は紙の定価の1・5~2倍といわれます。他にクラウドサービスの利用料が毎月20万円前後かかるそうです。
 秋田県立図書館の吉田孝副館長は「2年間で消える電子書籍を維持するために限られた予算を割いて、紙の本が買えなくなってしまったら本末転倒です」と指摘します。

◇東北の電子図書館(導入年月)
山形県東根市 (2016年11月)
岩手県矢巾町 (2017年8月)
福島県郡山市 (2019年10月)
青森県おいらせ町(2020年7月)
岩手県久慈市 (2020年9月)
岩手県一関市 (2020年12月)
福島県伊達市 (2021年3月)
青森県三沢市 (2021年5月)

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