大手回転寿司チェーンで、利用客による悪質ないたずらが相次ぎ発覚している。はま寿司では、レーンで運ばれている寿司にわさびをのせる動画が会員制交流サイト(SNS)で拡散。くら寿司やスシローでも、一度取った寿司を再びレーンに戻すなどの行為が発覚した。こうした迷惑行為はなぜ起きるのか。専門家は、各社が進めてきたオペレーションの簡略化に一因があり「機械化の悪い面が露呈した」と指摘する。 【画像】スシロー“怒りの声明”(全7枚) SNSに拡散しているのは「他人握りわさび乗せ」とのテロップが入った5秒間の動画。レーンで運ばれている寿司に、利用客がスプーンのようなものでわさびをのせる行為が映し出されている。産経新聞の報道によると、はま寿司は「ルールから著しく逸脱した行為で、許されざる内容」だとして、1月25日に店舗のある所轄の警察署に被害届を出したという。 はま寿司では、他の利用客の注文品を勝手に食べる様子を映した動画も確認されている。 こうした騒動をきかっけに、くら寿司では4年前の迷惑行為を映した動画が再び拡散。一度レーンから取った商品を再びレーンに返す行為が撮影されていた。さらに、スシローでも利用客が湯呑をなめたり、商品の寿司に唾液をつけたりする行為が確認された。 運営するあきんどスシローは1月30日、公式Webサイトで声明を発表。「早急に警察と相談し刑事民事の両面から厳正に対処する」としている。
「業界自らが作り出した」不正を誘発する環境
いずれも社会常識から外れた許しがたい行為だが、回転寿司チェーンでこうした迷惑行為が相次ぐのは、一体なぜなのか。長年、業界を見つめてきた回転寿司評論家の米川伸生氏は次のように話す。 「今、業界全体が機械化で人の労力を減らす方向に向かっている。人を減らせば監視の目がなくなり、当然、不正は起きやすくなる。業界自らがそうした環境を作り出してきたと言える」 米川氏によると、回転寿司の機械化は、利用客のクレームを解決するために発展してきた側面があるという。注文用のタッチパネル(セルフオーダーシステム)が導入され始めたのは2000年代の初期。それ以前、利用客から寄せられるクレームで最も多かったのは「注文忘れ」「注文の商品が届くのが遅い」「注文と違う商品が届いた」――の3つだという。 タッチパネルの導入で注文忘れや違う商品が届くミスを解消し、さらに「特急レーン」の導入で提供時間の遅れを解消した。回転寿司は「装置産業」と呼ばれ、機器やシステムのリノベーションを繰り返すことで、利用客の不満を解消し、発展してきた。 こうした機械化は利用客の満足度を上げ、業界自体にとってもメリットが大きかった。 一方で、近年急速に進むのは、オペレーションを簡略化し、人員を減らす「省人化」だ。今や大手回転寿司チェーンの多くが「寿司ロボット」を導入し、職人ではなくロボットが寿司を握る。こうした機械化は、企業にメリットはあっても、利用客にとってのメリットは見えてこないと米川氏は指摘する。 「本来、機械化は企業と利用客、双方の不都合を解決するために導入されるべきもの。省人化は、利用客にとってメリットはなく、反対に監視の目を緩め、迷惑行為を誘発する環境を生み出してしまった」
性善説で成り立つシステムの「限界」
もう1つ、今回の迷惑行為で露わになったのは、性善説で成り立つ回転寿司システムの限界だ。米川氏によると、これまでも回転寿司を巡る個人レベルの不正行為は多々あったという。例えば、会計を安くするために「食べた皿をテーブルの下に隠す」「皿を持ち帰る」、その他には「1貫だけ食べて残りの1貫をレーンに戻す」――。こうした個人レベルの不正については、業界も注意を向けてきた。 一方で今回、はま寿司やスシローで発覚したように、他人の商品に手を出すといった迷惑行為は「業界としてノーケアだったのではないか。他人の商品に対する不正を防ぐ対策は、今まで聞いたことがない」と米川氏は振り返る。結局のところ、こうした不正を生み出した根本要因は「省人化」に行き着くという。
客数3割減「スシローのアキレス腱」とは
省人化の弊害は「迷惑行為」の誘発だけにとどまらない。米川氏は、大手回転寿司チェーンに見られる足元の業績の陰りも「省人化」に一因があると見る。 スシローを運営するFOOD&LIFE COMPANIESの発表によれば、22年12月の既存店売上高は前年同月比から22%減少した。値上げの影響もあり、既存店の客数は27%減少。客数は10月20%減、11月27%減と落ち込みが続く。 スシローだけではない。くら寿司も、同年12月の客数は前年同月比から10%減少。10月0.5%減、11月8%減と減少幅が膨らんでいる。 客数が前年同月比3割近く減ったスシローについて、米川氏は「機械化がスシローのアキレス腱」だと表現し、次のように話す。 「スシローは他社に比べ、人手がかかるオペレーションが複雑な寿司を作ることで評判が高かったが、それをどんどんやめてしまい、ファンの落胆は大きい」 「『天然本鮪7貫盛り』(980円)という商品があり、以前は陶器のような皿に7貫をのせて従業員が運んできてくれた。写真に撮ってもビジュアル映えし、一部のファンに絶大な人気があったが、それが今では3貫・4貫に分けて通常の寿司皿にのせてレーンで運ばれてくる。これでは魅力がなくなってしまう」
何を機械化するか見極めが肝要
機械化はやりよう次第で、利用客の満足度を上げることもあれば下げることもある。機械化の成功例として、先述のタッチパネルや特急レーン以外に米川氏が挙げるのが、くら寿司の食べ終わった皿を「皿カウンター水回収システム」へ投入することで景品がもらえる「ビッくらポン!」のシステムだ。 「店側にとっても皿を自動回収できてメリットが大きい一方、利用客も楽しめるよう工夫が凝らされた機械化。飲食店業界は利用客の満足度を上げることを最優先しない限り立ちゆかない」 迷惑行為の誘発と業績の陰りの根底に共通すると指摘された、人の労力を減らす機械化。それでも装置産業として発展してきた回転寿司業界。課題解決の方法も、やはり機械化にあるようだ。 「迷惑行為が起きない環境を新たに作り出すしかない。開発されるまでは業界にとって頭の痛い問題だが、新たなシステムは構築できるはず」(米川氏) 実際に、くら寿司では商品などを判別するためにレーン上部に設置されているAIカメラシステムを、不適切行為の検知に活用すると決めたと産経新聞が報じている。 適切な方向性の機械化によって、迷惑行為を防ぎ、業績回復に結び付けられるのか。大手回転寿司チェーン各社は、正念場を迎えている。