1958年に大阪で「廻る元禄寿司 1号店」が誕生してはや65年。いまや「寿司を食べるなら回転寿司店で」という人が7割強といわれるほど、私たちの生活に根付いている。
「そんな中、回転寿司の既成概念を取っ払い、常に新しいものを生み出し続けているのがくら寿司さんです。顧客のニーズを掴むのがものすごくうまい。だから、その挑戦の数々は業界の“当たり前”になっている。まさに、回転寿司界の革命児といえます」
そう語るのは、『TVチャンピオン2』(テレビ東京系)の「回転寿司通選手権」で優勝し、現在は回転寿司店のコンサルティングなども手掛ける、回転寿司評論家の米川伸生さん。
コロナ禍などの影響で、レーンを回さない店が増える中、くら寿司がレーンを回し続けているのも、そんなチャレンジの賜物だ。
「独自に開発した安全な設備が整っているから安心してお得なメニューを流し続けられ、レーンを使った仕掛けやエンターテインメントもできる。それはくら寿司さんの強みですね」(米川さん)
いまもレーンで寿司を流している理由を、くら寿司広報部の辻明宏さんはこう話す。
「回転寿司は一般的なレストランと違い、食事はもちろん、それに+αの楽しみがあるところに意味がある。いわばレジャーであり、何が流れてくるかわからなくてワクワクするところが重要だと考えています」(辻さん・以下同)
その試みの1つが、地魚をその地域の店舗で食べられる「くらの逸品シリーズ」だ。
「2010年から漁業者の収入安定化を図り、共存共栄を目指す取り組みを重ね、現在は116か所の漁港や漁協と直接取引し、国産天然魚用の自社の加工施設も設けています。
また、今後の課題として海藻を食べ荒らし、くさみがあって食用には不向きな『ニザダイ』のような低利用魚【※】を食用にする実験などにも取り組んでいます」
【※漁獲量が極端に増減したり食べるまでの手間がかかるなどの理由で、とれても市場に流通しない魚のこと】
食後の皿を流すことにしたきっかけは、乙女心への配慮だった
主な回転寿司店は食べた皿を積み重ね、食後に皿を数えて会計するシステムを導入しているが……。
「おいしい寿司をお腹いっぱい食べたいけれど、『皿を積み上げるのが恥ずかしい』と感じるお客様、特に女性からの声がきっかけで『皿カウンター水回収システム』を考案。食後の皿はカウンターに設けたポケットに入れてもらえば、水で洗い場まで運ばれるので衛生的なのに加え、お客様はテーブルを広く使え、店側は片付けの手間が省けるなど多くの利点がありました」
独自に開発した抗菌寿司カバー「鮮度くん」で安心・安全を確保
海外の回転寿司では必要不可欠な「寿司カバー」。日本ではくら寿司以外あまり見ないが、これがいまでもレーンを回せる1つの要因だ。
「2011年より導入したこの『鮮度くん』の中に寿司を入れて流すことで寿司の乾燥を防ぎ、鮮度もキープできます。空中を浮遊するウイルスやほこり、飛沫がつくのを防ぐことも可能です。検査の結果、カバーがある場合は細菌の繁殖を7分の1に抑えることが証明されました」
他店に先駆けて回転寿司にコーヒーやラーメンを導入
常識を覆すサイドメニューは2012年に導入。最初の商品は「7種の魚介醤油らーめん」。7種の魚介を使ったスープと、二段熟成の多加水麺を使うなどラーメン屋顔負けのこだわりで、現在までに累計3000万食を売り上げるヒット商品となった。
「導入当時は『寿司屋をやめたのか?』といった声も多くありましたが、『生の魚が苦手』『さまざまな味を家族で楽しみたい』などのお客様のニーズに応えようと、専門店を超える味を追求し、積極的に開発しました」
回転寿司の当たり前。E型レーンを初めて導入
回転寿司のレーンには職人が中央に立つO型と、座席の間をレーンが流れていくE型があるが、いまの主流はE型だ。
「1987年に当社が初めてE型レーンを導入した理由は、客席と調理場を分ける設計を考えたこと。さらに、O型よりもボックス席を多く確保するためです。これにより多くの家族連れのお客様が、お寿司を気軽に楽しめるようになり、一気に日本全国に広がりました」
“さび抜き寿司”もくら寿司が初
寿司は寿司ロボットが握っている。
「注文を受けて、ロボットが寿司にわさびをのせる際、構造上水で溶いたわさびしか使用できませんでした。お子様の利用も多く、さび抜きのニーズも高まる中、水で溶いたわさびはレーンに流している間に風味が飛びやすいことがわかり、全皿さび抜きを導入しました。当初はお客様の手間を増やすことになるため心配でしたが、実際はわさびへの評価も高く、販売用のわさびを購入し自宅に常備しているかたも多いと聞きます」
取材・文/苗代みほ 撮影協力/くら寿司
※女性セブン2023年10月12・19日号