飼い主のいない猫への無責任な給餌やふん尿トラブルといった課題を解決しようと、2020年4月に施行された仙台市の「人と猫との共生に関する条例」。地域住民が共同で面倒を見る「地域猫」活動の推進などを掲げたが、2年が過ぎても理念が浸透したとは言い難い。意義の周知や不妊去勢手術資金の確保が課題となっている。
(生活文化部・安達孝太郎)
猫の保護に取り組むボランティアらが5月下旬、捕獲した16匹の譲渡会を太白区で開いた。「体重300グラムぐらいで捨てられていたり、けがをしていたり。厳しい環境にいた猫は絶対に幸せになってほしい」。夫妻で活動する太白区の高橋広さん(34)、絵理梨さん(37)が口をそろえた。
2人は「猫に餌をあげる人に手術をするよう訴えやすくはなったが、『無条件で給餌できる』などと条例をよく理解していない人が多い」と嘆く。
市内で地域猫活動の支援や譲渡会開催などを行うボランティア団体「しっぽゆらゆら杜猫会」の橋本志緒里代表も「会員の多くは条例の広がりを感じていない」と言い切る。
ボランティアの多くは「地域猫活動の主体は町内会が理想」と言うものの、市動物管理センターが20、21年度、条例や地域猫活動について町内会に講師を派遣したのは2件のみ。21年度に4回あった条例の説明会の参加者は、新型コロナウイルスの影響もあって計38人にとどまった。釜谷大輔所長は「本年度は町内会長に説明会の案内を出すなど工夫したい」と話す。
不妊手術費の確保も課題
猫を地域で見守るには繁殖を防ぐための不妊手術が欠かせない。だが、条例の理念実現に向けて活動する人々にとって、手術費の確保が課題になっている。
市獣医師会は市の補助も受けて手術代(雌9000円、雄4500円)を住民らに助成する事業を続けているが、低価格の動物病院で実施しても数千円不足するのが実情だ。
他に公的支援はなく、現在は市内の画家らでつくる任意団体「cat&dog&me」(樋口佳絵代表)が雌1万円、雄5000円を独自に支援している。21年度の助成実績は673匹分。チャリティーイベントなどで原資を確保しており、支援には限界もある。
東京都との協働で地域猫活動を推進する都内のNPO法人「ねこだすけ」の工藤久美子代表は「助成金を十分に出している自治体では手術件数が伸び、効果が出ている。少ない金額をさみだれ式に使っても無駄になりやすい」と話す。
地域で不妊手術が進めば飼い主のいない猫は寿命を迎えるなどして自然と減少する。工藤代表は「地域猫活動は、町内会などブロック単位で進めないと効果は出にくい」と指摘する。
雌猫、年3、4回出産も
雌猫は早ければ生後半年で妊娠が可能となり、餌が豊富だと年に3、4回出産する。仙台市獣医師会の小野裕之会長は「飼い主のいない猫に餌を与える人は、責任を持って不妊手術をしてほしい」と呼びかける。
2021年度、会の助成事業を使った手術は716件。予算増額を背景に5年前の約2.2倍に増えたが、予算が年度途中で枯渇するなど要望に応え切れていない現状もある。
21年度、生後間もないのに親猫がいない、負傷しているなどの理由で市動物管理センターに収容、最終的に殺処分された猫は95匹で、16年度の約30%に減った。小野会長は「手術の増加や屋内飼育の浸透などが背景にあるのでは」と話す。
住民と対話、広報を徹底 花壇大手町町内会が先進的取り組み
仙台市内には、条例の理念を先取りして地域猫活動を展開した町内会もある。青葉区の花壇大手町町内会だ。今野均会長よると、活動が軌道に乗ったポイントは「猫嫌いの人や給餌する人との対話」「広報の徹底」「行政による支援」だという。
猫の急増を受け、町内会が地域猫活動を始めたのは2017年度。20年末までに78匹を動物病院に運び、不妊手術を行った。
活動のヤマ場の一つが18年度定期総会での活動推進の決議だった。手術した猫を地域に戻すことを嫌がり、動物愛護法違反となる殺処分を求める住民もいた。今野会長らは「活動で猫が徐々に減り、ふん尿も減る」などと理解を求めた。
餌を与えている人の家も訪れた。「捕獲器を置く前には猫のご飯を抜いてくれるようになった。猫がおなかをすかせるので、餌でおびき寄せて捕獲しやすくなった」。専門家による勉強会などを続けるうちに、手術をしていない猫の情報が住民から寄せられるようにもなった。
活動開始時、近隣の市民センターの責任者が市動物管理センター元所長という幸運もあった。具体的な提案を受けられた上、センターの支援も円滑になった。協力的な動物病院などの支援もあり、21年以降は地域で手術をしていない猫はほとんど見られなくなった。
今野会長は「住民とボランティア、行政の連携が大切。行政は町内会やボランティアに任せ切りにするのではなく、しっかり伴走してほしい」と要望した。