地方活性化の新規事業が大失敗する3つの要因 栃木・塩谷町は1億円売上計画で実績7万円!

「地域を活性化するためには、なんとしても新規事業を立ち上げなければならない! それには絶対に『予算』をとってこなくては」――。今日もまた、地方自治体の関係者を中心に全国各地で激しい「予算獲得競争」が繰り広げられています。

■年1億の売上目標で、3年経っても現実はたった7万円!

しかしながら、実行段階になると、破綻している計画がいまだに後を絶ちません。例えば、山梨県の南アルプス市では、スタートしてから1年も経たないうちに完熟農園を運営する第3セクターの企業が破産したのは、地方活性化に携わる関係者の間では、いまだに記憶に新しい話です。それだけではありません。先日も、栃木県塩谷町(しおやまち)の6次産業化事業に関しての「寒い話」が報道されました。

報道によると、同町では、町の顔になるべき新しい商品を作ろうと、国の地方創生交付金を活用して農業団体に委託。その農業団体から委託を受けた民間業者が4年間の事業として豆乳ヨーグルトなどの開発に取り組んだと言います。3年間で投入された予算は合計3900万円にも上りました。

しかし、3年目の平成30年度の売上高目標1億円のところ、現実にはなんとたったの7万3800円(豆乳ヨーグルト246個分)しか売り上げていないという、極めて深刻な状況が明らかになりました。同町の議会も紛糾、結局同町は国から交付を受けた分の全額(2652万円)を返還することを決めたようです。

計画段階では「1億円を売り上げる」という華々しい内容にもかかわらず、実際のところは、3年経っても7万円台。このように「全く業績が伴わない新規事業」というものは、行政事業のみに限りません。実は、大企業などの民間組織においても、世の中にあふれかえっています。

当然のことながら、新たな事業を始めるうえで必要な資金を集めるには、それに対応した計画が求められるはずです。例えば、施設を開発するのであれば、テナントがどれだけ集まり、それらのテナントからいくらの家賃が支払われるのか。あるいは、商品開発をするのであれば、どれだけその商品が売れるのかというシンプルな話です。

こうしたことからもわかるように、「大きな予算を欲する人たち」は、多額の予算を獲得するために、求められるような「過大な計画」や、「美しい計画」を組み立てていくことになります。また、計画の審査において、理想的だと思われるような「夢のプラン」を作成することが優先されがちです。そこでは「本当に実行可能であるかどうか」、という、ごく当たり前の「現実性」は、二の次になります。

「一見美しく、実は予算獲得をするためだけに終わりやすい無茶な計画」には、大抵は、以下の「3つの要素」がきっちり含まれています。

1つ目は「地域の独自性と理解可能な範囲の新規性」です。

その地域の状況や歴史、環境などを生かした、「その地域だからこそできる」といった独自性を踏まえた筋書きが必要です。さらに、今までこの地域でやってきていない新規性も求められます。ただし、あまりに突飛な新規計画では理解されないので、「審査員が理解可能な範囲の新規性」というラインが大切になりがちです。

2つ目は「一発逆転のキッカケ、起爆剤の役割」です。

この手の計画には「大きく地域が変わるきっかけとなる」、という夢が求められ、地域活性化の起爆剤としての役割が求められます。つまり、小さな事業をやって、大した成果がないというのでは予算がつかないので、ここは大風呂敷を広げて、大きな予算を求めていくことになりがちです。

3つ目は「地域に関わる行政、さまざまな地元団体などが一丸となるという合意形成」です。

「行政、地元団体が一丸となり、地域が1つにまとまれば、まち全体が変わる」。確かに、そうなれば、理想的な話です。この種の計画には、地域のさまざまな団体が加わり協議会を形成し、さらにそこには「外部の専門家まで入っています」、といった具合に「地域が一枚岩」といった内容が書かれがちです。

■「美しいだけの計画」は自分たちの首を絞めることになる

このような3つのポイントを踏まえると、計画が採択され、それなりの予算が下りやすくなるのは、間違いありません。そうして、地域での計画がスタートするのですが、本当に困るのは、ここからなのです。

予算を獲得することが目標となってしまうと、前述のように、実際には「ありえない地域の独自性」や、「実現不可能な新規性を踏まえた内容」を計画に書いてしまい、採択後、実行の段階では自分たちの首を絞めることになります。

こうした「無理筋を入れ込んだ3つの要素」について、1つひとつ見ていきましょう。

まずは、独自性や新規性の矛盾が露呈することです。あまりに無理な絵を描いた結果、まちビジネスを手がけているわれわれのもとに「予算が採択されたけれども、この後どうやっていいかわからないから、教えてほしい」といったような、こちらが困惑する問い合わせが来たりします。

もちろん、そんな依頼はとても引き受けられないわけですが、そもそも「自分たちの計画が実現可能であるかどうか」を無視して、筋書きを書いてしまったからこそ、採択後に苦しんでしまうわけです。

次は、劣勢をひっくり返そうと「起死回生の絵」を書いてしまうことですが、これも「一発逆転、地域活性化の起爆剤になる事業」などというものは、存在しないのです。地域の変化は一気に大きく起きるのではなく、小さく始めたものがさまざまな形で連鎖し、長期に渡って継続しているうちに「気がついたら地域が変わっていた」、という波及型であり、それは「非計画的に起きる現象」なのです。

つまり、最初から筋書きなどは書けなくて、1つひとつやりながら修正をかけているうちに初めて「正しい道のり」が見えてくるのです。最初から神様のように計画を立てて、「これで地域が変わる」などというのは、事業計画そのものがうそなのです。

さらに、3つめの「地域が一丸となってまとまれば、まち全体が変わる」という話も、まことしやかにする人がたくさんいますが、これも大いなる勘違いです。わたしたちはこの分野で20年近く取り組んでいますが、地域が一丸となって取り組んで成功したなどというケースは、1つも見たことはありません。一方で、多くの人を巻き込みすぎて「船頭多くして船、山に登る」の世界で破綻した計画は、あまたあります。

■最初から「失敗しそう」とわかっていても修正しないワケ

地域の取り組みというものは、地域で際立った成果を上げれば、「あいつだけ目立ちやがって」と文句を言われたり、「あそこの団体がやるなら、俺は出ない」とへそを曲げたりするのが現実です。多くの人を巻き込めば巻きこむほど、何をやるのにも反対が出て、成功しても、失敗しても、100%もめます。

何より、たくさんの人が参加する協議会などでは、ほとんどすべての人が「他の誰かがやってくれるだろう」などと思っていて、「自分がやろう」など思っていません。

大抵の計画は、スタートしてもまったく進捗せず、このままいけば失敗することは早期にわかりますが「失敗しそうです」、という報告は誰もしません。当たり前ですが、予算が採択され、事業を進めている以上は、失敗を認めたら、その時点で、その後の予算が下りないかもしれないからです。

予算というのは、事後精算であることが多くあり、最初から「失敗しそうです」なんて言っていたら、採択されたはずの計画が中止され、当初に下りた予算が支払われないかもしれないからです。これは行政だけでなく、民間受託者にとっても受け入れがたいわけです。

さらに、近年ではKPI(key performance indicator)といった、いわば成功のための市場や目標数値を設定することが多くなり、その監査なども厳しくなっています。失敗すれば、議会でも大問題だと騒ぎ立てられることになるので、行政の立場としては、担当者も上司も、市長も、誰もがなんとか取り繕うことを目指します。

この場合、当初の無理な計画を「現実的な計画へと変更する」のであれば、議会も認めるべきなのですが、「当初計画が間違っていた」と認めること自体が行政の失敗という、硬直した話になってしまったりするのです。

結果、予算事業に関わる官民双方とも、失敗が予期されても最後まで修正しないことが多くなりがちです。近年、さすがに国などは「計画変更があれば、早めに相談を」、といったりするようになりました。しかし、上記のような理由からもわかるとおり、失敗が予期されても相談せず、完全に失敗してから明らかになることのほうが、まだまだ多いのです。

駄目だとわかっている巨大施設を開発しつづけ、負債を支払い続けている自治体はいまだに全国にあまたあります。「追い銭」は高く付き、計画を修正する以上のコストを、その後に支払うことになります。

■計画するとは「営業から始める」ということ

そもそも各種の計画は予算を取る前に、営業から始めるということが大切です。「予算があるから施設開発をする」、「予算があるから商品開発をする」という発想そのものが、前時代的なのです。

もし、新たな施設を開発するならば、予算を立てる前にテナント営業を行って、解約が出ることも念頭に置いて「100%+α」でテナントとの契約をまとめた状況で、施設の開発やリノベーションに取り組むのが当たり前です。

逆に言えば、そこまで達成できていれば、金融機関からの融資を受けることも、スムーズにできるはずです。それなりの利回りがあり、地域でのしっかりした目的や理念もあれば、今ならば、個人から出資や融資を集めるソーシャルレンディングなどで資金調達を行うことも十分可能でしょう。

また、商品開発の話でも、これもやはりまずは卸会社に営業して、その先の販売先をあらかじめ確保してから行うのが当たり前です。売り先もまったく不明なのに、商品だけつくって販売しようとしてどうするのでしょうか。「いいものを作れば売れるはず」などというのは、まったくの幻想にすぎません。

今であれば、クラウドファンディングで予約を先に集めてしまうことも可能であり、私の周りでも、いくらでもそのような取り組みが実践されています。逆に言えば、そもそも売れるかどうかわからないような商品開発に、最初から国や地方自治体などから予算をもらうこと自体が、狂っているのです。

「何を言っているんだ、新規事業にはそれなりの予算が必要じゃないか」という人がいます。しかし、予算をとる前に、新規事業には、その新規事業にふさわしい「新しい客」がいるのです。

私は高校時代から関わった地域事業で「『予算がないからできない』は、知恵がないことの証拠。予算がないからこそ、知恵が出る」と教わりました。予算獲得から物事を始めている方は、まずは営業してから予算のことを考えることを、お勧めします。

木下 斉:まちビジネス事業家

タイトルとURLをコピーしました