安易の極み?防潮堤をキャンバスに「海岸線の美術館」計画 石巻・雄勝

 東日本大震災で被災した宮城県石巻市雄勝町に建設された防潮堤に壁画を描き、野外に「海岸線の美術館」をつくる計画が進んでいる。芸術家と住民のアイデアで作品を生み出し、関係人口の拡大拠点を目指す。11月にオープン予定で、制作費や運営資金を募るクラウドファンディングを今月31日まで実施している。

防潮堤を使った壁画の完成イメージ図

11月オープン

 計画したのは石巻市の一般社団法人「SEAWALL CLUB(シーウオールクラブ)」。雄勝湾を囲む高さ最大9・7メートル、全長3500メートルの防潮堤の壁面に絵画などを描き、来訪者に自由に鑑賞してもらう。

 第1弾として東京都の芸術家安井鷹之介さんが雄勝港の縦7・5メートル、横54・6メートルの範囲に海と人々の生活風景を描き、11月に完成させる予定。9月17~19日には住民らを集めて壁画の下地をつくるイベントを開く。オープン後も作品を増やしていく。

 クラブは2019年7月に雄勝町での企業研修で出会ったメンバーらで構成する。防潮堤が海の景色を遮る姿に衝撃を受け、19年10月に「人が集まる拠点にできないか」と壁画を描くアイデアを行政と住民に提案した。

雄勝湾を取り囲む防潮堤

「より良いものに」

 地域での活動に携わる中、防潮堤建設を巡り住民間で賛否が割れていたことを知った。住民総会で美術館構想を説明し、雄勝小中学校の児童生徒と安井さんによる壁画制作などを通して地元との信頼構築に努めた。昨年10月には計画に協力する石巻市が、防潮堤を管理する宮城県から一部の使用許可を得た。

 防潮堤建設に後ろ向きだった住民の無職阿部千鶴子さん(69)は「できてしまったものは変えられないので有効活用してほしい。雄勝に合った絵を描いてもらえるのが楽しみ」と話す。

 美術館長を務める高橋窓太郎さん(33)=東京都=は館の運営に専念するため7月末に都内の広告代理店を退職した。「命を守る防潮堤を地元にとってより良いものにしたい。住民のアイデアも取り入れ、何を描くか一緒に考えたい」と語る。

タイトルとURLをコピーしました