芸術の秋なのに、仙台市、宮城県の美術関係者の表情はいまひとつさえない。せんだいメディアテーク(青葉区)が照明設備改修に伴い10月末まで休館。仙台の美術展会場はメディアテーク頼りに近く、発表の場が限られるためだ。「政令指定都市なのに文化環境の遅れが目立つ」と憤りの声も聞こえてくる杜の都の美術展会場事情を追った。(生活文化部・会田正宣)
開催前倒し、別会場でやりくりも
宮城の秋の芸術文化行事を代表する県芸術祭(県芸術協会、県、市など主催)は今年、開幕を例年の9月から7月に2カ月前倒しした。美術、書道展などの会場として利用してきたメディアテークに代わる会場が見当たらず、8~10月の休館時期を避けるしかなかった。ホールを使う音楽や舞踊のイベントは通常通り、秋冬に開催され、対比が際立つ。
県芸協の吉田利弘理事長(70)は「『芸術の夏』としてスタートし、夏の生け花など今までになかった芸術を見せることができた」と成果を口にする一方、「市内は大型展示が可能な会場が限られ、課題は大きい」と嘆いた。
メディアテークのギャラリーは5階が約970平方メートル、6階が約1100平方メートル。宮城水彩画会会長の松永弘さん(75)は「大規模な展覧会はメディアテーク依存。休館になると途端に困る」と明かす。同館で例年7月ごろ宮城水彩展を開くが、今年は約1カ月半早い5月に前倒しした。
松永さんが指導するサークル「水彩紫会」は、東北電力グリーンプラザ(青葉区)で毎年秋に発表会を開く。しかし、今年は会場の抽選に漏れ、来年2月に時期をずらした。メディアテーク休館のしわ寄せという。松永さんは「発表の場がニーズに対して不足している」と指摘する。
市内では、ともに青葉区の県美術館県民ギャラリー(約500平方メートル)、東京エレクトロンホール宮城(県民会館)展示室(約380平方メートル)でも美術展示ができる。ただ、全国的な美術団体の巡回展を開ける広さがあるとは言い難い。
9月中旬にあった産経国際書展東北展は会場を例年のメディアテークから県民ギャラリーに移した。作品を壁に2段掛けにし、一部は3段掛けにするやりくりでしのいだ。東北展事務局長の建部恭子さん(75)は「ゆったりと飾れなかったが、無事に終わってほっとした」と振り返った。
新「県民ギャラリー」関心集まる
宮城県の美術関係者が今後の展示会場事情を左右すると注目するのが、県美術館の改修と県民会館の移転で大きく変わる「県民ギャラリー」だ。
県美術館改修の基本設計によると、県民ギャラリーは約190平方メートルに縮小した上で講堂の一角に移す計画。現在のギャラリーのスペースは展示室や作品収蔵庫に模様替えするという。
一方、県民が広く利用できる新たなギャラリースペースは、仙台市宮城野区の仙台医療センター跡地に整備予定の新県民会館に確保される。計1000平方メートルと現在の県民ギャラリーの倍の規模となる。
県美術館改修を担当する県教委生涯学習課の武田健久課長は「県民の発表の場が十分かどうか疑問の声は以前から寄せられてきた」と説明。「新県民会館のギャラリーは今より広くなる。県美術館講堂に移るギャラリーは小規模団体や個人に対応するなど役割分担し、県民の創作活動を支える場を確保する」と話す。
県は、県美術館の改修工事を2023年度に始め、25年度の完成を目指す。新県民会館の完成予定はその3年後の28年度。まだしばらくは「メディアテーク頼り」が続く見込みだ。