■人間をシアワセにする「お金の使い方」とは?
例えば、「休暇」です。
古今東西の人が、無上の価値を見出しているもののひとつに「休暇」があります。ある大学教授の研究では、人は「年収額や学歴」を自由に選べるとすると、「他人より高い」ほうを選ぶ傾向があるそうです(相対的な評価を優先)。しかし、「休暇」などに関しては自分が納得できれば他人より短い期間でもいい(http://president.jp/articles/-/20185)。
別の教授は、他人との比較優位によって価値が生まれるものを「地位財」と呼びました。「所得」や「社会的地位」「車」などがこれに含まれます。一方、他人が持っていることとは無関係に、その自体に価値があり喜びを得られるものを「非地位財」と呼びました。前出の「休暇」や、「愛情」や「健康」などがこれに含まれます。
ただ、金銭に換算することが難しい非地位財が地位財よりも大切だというのは、実は直感では理解しにくく、地位財の追求をやめることはなかなか困難です。
そこで今回は、地位財なのか非地位財なのか、それとも他の選択肢があるのか、何にお金を使えばいいのかについて改めて考えてみます。多くの人の究極の目的は幸せになること。そのために何にお金を使えばいいのかを「人間を幸せにする行動」という観点から見ていきます。
人間を幸せにする行動を探し出して、その行動にお金を投資することができれば、これこそが真に正しいお金の使い方といえるのではないでしょう。
逆に、人間の幸せを損なうような行動を減少させるためにお金を使えば、これも真に正しいお金の使い方だとも言えるかもしれません。
■人に幸福をもたらすもの、2位会話、3位夕食、1位は?
ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン教授らはテキサスで働く909人の女性を調査しました。
調査手法は前日に起きたエピソード(夕食や仕事、ショッピングなど)について関する感情について説明してもらう方法をとっています。このエピソード別に正味の幸福度(ポジティブ感情からネガティブ感情を引いたもの)を集計して上位から並べたものが表です(http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.320.928&rep=rep1&type=pdf●432ページ)。
上位の幸福度ランキングからみていくと、ベスト5は
●幸福度ランキング ベスト5
1. セックス
2. 仕事帰りの友人とのおしゃべり
3. 夕食
4. リラックス
5. 昼食
です。
逆に、ワースト5は、
●幸福度ランキング ワースト5
1. 朝の通勤(電車など)
2. 仕事
3. 夕方の帰宅(電車など)
4. 子供の世話
5. 家事
です。
ベスト5を見てお分かりのとおり、いずれも古代、中世、近世、近代、現代いずれの時代にも、人々に幸福をもたらしてきたものです。また、どのような社会体制の国であっても、日々営まれてきた事柄です。
つまり、人間の幸福というのは案外、財産の多寡なんかではなく、ほんのささやかな日常の少数の行動に集約されるということではないでしょうか。ベスト5の中で、仮にお金を使うとすれば、夕食と昼食くらいでしょうか。幸福になるのにはそれほどたくさんのお金はかからないということです。
■夜の営みが充実している人は、年間600万の“得”
ベスト5の中で、飛びぬけて正味の幸福度が高いのはセックスですが、そもそも遺伝子の船である人間本来の使命が生殖であり、遺伝子を残すことを最優先事項に掲げた者の子孫が我々であること、そうでなかった者の子孫は自然淘汰のプロセスによってすでにこの世には存在しないことを考えれば、当然といえば当然の結果かもしれません。
人によっては、良きパートナーを獲得する活動に多額の投資をするケースもあるかと思います。相手を惹き付けるためのデートの費用とかプレゼントの費用、美容に掛ける費用とかもこれに含めてもいいでしょう。だから、セックスに関しては、それなりのコストがかかりそうです。
経済学者でダートマス大学のデヴィッド・ブランチフラワーとウォーウィック大学のアンドリュー・オズワルド教授は面白いことを言っています。
「性生活が活発でない人が、活発な人と同じ幸福感を味わうためには、年5万ドル(現在のレートで565万円)余分に稼ぐ必要がある」
たとえ年収が人より600万円少なくても、夜の生活を含むプライベートが充実していたら、幸福感は同等、ということです(所得の低さには限度はあるでしょうが)。逆に、人より600万円稼いでいても、性生活が貧しければ幸福度は低いということでしょう。
■通勤地獄が人の幸福度を確実に奪っている!
続いてワースト5を見ていきましょう。
ワースト1位は、朝の通勤です。家と職場とを往復する長距離の通勤は、人間の幸福を著しく害するということです。つまり、郊外の大きな家を買っても、長時間通勤することは幸福に繋がらないということですね。
仮に、以前より大きい家に住んだとしても、人はその環境にすぐに順応してしまいます。しかし、通勤による不快感に人間は順応することができません。これは、通勤し続ける限り、ずっとついてまわる不幸な行動です。
であれば、お金を投じてでも高い都心の賃貸物件にするか、余裕があれば都心の高額物件を購入するほうがいいということかもしれません。
チューリッヒ大学のブルーノ・フレイと、バーゼル大学のアロイス・シュトゥッアーがドイツの長期的データから算定した数字によると、通勤に23分かかる人は給料を19%余分にもらわないと、通勤ラッシュによる不快感やストレスを埋め合わせができません。これが東京のような人口過密地帯の痛勤であれば、19%どころの話ではなくなるのは間違いありません。
にもかかわらず、人は住居を選ぶときに通勤時間の与える苦痛について過小評価しがちで、この不快感を与える通勤にますます多くの時間を使うような傾向があると言います(「通勤パラドックス」)。
自分の生涯獲得所得と19%の差を考えれば、都心に住むことが大きな金銭的投資になるとしても、十分意味のあるケースもあると思います。
■なぜ、仕事をすることが幸福度を損ねるのか?
ワースト2位は仕事です。収入を得る手段であるにもかかわらず、幸福度を損ねるというちょっと皮肉な結果です。
ランスタッドアワード2016によれば、「給与が下がっても勤務時間を短くしたい」という回答が調査対象の24カ国(全世界での回答対象者は19万6000人)の平均6.0%に比べて、日本はダントツに高い最上位の14.1%でした。
そして、勤務時間を短くしたい理由としては、「自分自身の時間を増やすため」が最も多いものでした(https://www.randstad.co.jp/wt360/archives/20160728.html)。
お金を使うというのとは違うかもしれませんが、お金と時間のトレードオフという意味では、給与を減らしてでも勤務時間を短くするという選択肢はありかと思います。
また、勤務時間を短くしたいという理由の「自分自身の時間を増やすため」については、幸福度ランキングベスト2「仕事帰りの友人とのおしゃべり」や同ベスト4「リラックス」とも関係しているように感じられます。
家事は家事代行会社もありますので、お金を使う先として検討の余地がありますね。
子供の世話については、外部委託の問題だけではなく、親による教育の重要性の問題もありますので僕には判断がつきません。ただ、ベビーシッターなど一部の子供の世話について外部委託してお金を使うというのはありかもしれません。
それによって、夫婦で外食に出かけることはベスト5に入る夕食や昼食への間接的な投資といえるかもしれません。
今回は幸せになるために、何にお金を使えばいいのかを「人間を幸せにする行動」という観点から考えてきました。
結局のところ、人間は遠い昔から、セックス、おしゃべり、食事、リラックスという素朴なごく少数の行動があれば十分に幸せなのですね。そして、大事なのは幸せを阻害する行動をなるべく避ける形でお金を配分していくこと。それこそが最も有効なお金の使途でしょう。
お金の使い道を吟味し無駄金を使わないことは、富裕層になるための種銭づくりに大いに貢献するだけでなく、人を幸せにしてくれるということです。
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(行政書士・不動産投資顧問 金森重樹=文)