■名古屋市立の小学校で部活動が「廃止」に
今月の5日、「市立小学校の部活廃止 名古屋」という見出しが、ヤフーニュースのトップページにあがった。名古屋市が教員の多忙化解消を目的として、小学校の部活動を2020年度限りで廃止するという内容で、各紙・メディアも続々とこの話題をとりあげた。
これまで部活動改革にたずさわってきた立場としては、名古屋市の小学校で長くおこなわれてきた部活動が「廃止」になるというのは、かなり衝撃的な知らせであった。
他方で、ネット上や私の周りでは、それとはまったく別の驚きの声が聞こえてきた。「そもそも小学校に部活なんてあるの?」といった声だ。「廃止」かどうかという以前に、小学校で部活動がおこなわれていること自体が初耳だというのだ。
小学校の部活動の全国的な実態は、いまだほとんど明らかになっていない。本記事では、その実態の一端に迫りつつ、小学校部活動のこれからを考えてみたい。
■学習指導要領には記載なし
「そもそも小学校に部活なんてあるの?」という疑問に対しては、小学校時代の部活動経験者からは、「他の地域には部活ないの?」と、逆に驚く声も多く聞かれた。
中学校や高校に関していうと、部活動は国の学習指導要領に「学校教育の一環」と明記されており、実際に全国のほとんどすべての学校に部活動が設置されている。だが、小学校の学習指導要領には、部活動に関する記載はない。つまり、完全に学校任せ、地域任せなのである。
全国的には、小学校で部活動があるのは限られた地域・学校のみである。とは言っても、きわめて限られているというわけではなく、小学校の部活動経験者も少なくない。冒頭に紹介した記事にも書かれているように、政令指定都市についていうと、名古屋市以外にも京都市や熊本市でも、部活動が広範におこなわれている。
名古屋市の場合、市立の全261校で部活動が設置されていて、4~6年生の7割が参加しているという。また、名古屋市を除く愛知県でも、全公立小学校のうち8割で部活動が実施されている(2018年3月5日 中日新聞)。
その他にも、京都市立の小学校では166校のうち97.6%にあたる162校で部活動が運営されており、5・6年生の加入率は69.3%にのぼるという(「平成26年度 教育委員会行政視察について」)。
■全国の実態は?
全国の小学校における部活動の活動実態は、ほとんど明らかになっていない。これまでの部活動に関する調査や施策は、基本的に中学校・高校を対象とするものであり、小学校はそもそも対象外であった。
幸いにして2016年度以降、スポーツ庁の全国体力・運動能力、運動習慣等調査において、部活動の参加状況が児童に質問されるようになったため、実態の一端が見えてくるようになった。データは「運動部」に限られるため「実態の一端」にすぎないものの、全国の状況がおぼろげながら見えてくる。
同調査では、全国すべての小学5年生が質問に答えている。2017年度の調査において、「学校の運動部や地域のスポーツクラブに入っていますか(スポーツ少年団をふくみます)」という質問に対して「運動部」と回答したのは、公立校小学校で見てみると、男子児童が29.4%、女子児童が19.9%である。男女平均すると24.7%で、全国のおおよそ4人に1人の小学5年生が、運動部に所属していることになる。
■都道府県と政令指定都市の実態
公立小学校について、都道府県と政令指定都市別の運動部加入率を調べてみよう。なお、都道府県の数値には、政令都市の数値は含まれていない(政令指定都市は、いわゆる「別掲」扱い)ので注意されたい。また、スポーツ庁公表の数値は男女別であるが、ここでは男女の平均値を算出し、利用する。
図を見てみると、自治体によって加入率にずいぶんと大きなちがいがあることがわかる。加入率がもっとも高いのは浜松市で、63.4%に達する。次に京都市が54.3%、熊本市が48.7%、熊本県が48.2%、名古屋市が47.2%とつづく。
他方でもっとも低いのは茨城県で、11.3%にとどまっている。次に静岡市が11.9%、宮城県が12.1%、岡山市が12.9%、千葉市が13.0%とつづく。小学校時代に部活動に入っていた/入っていないという経験が、地域によってはっきりと分かれるのも、うなずける。
なお参考までに、「地域のスポーツクラブ」についても、地域別の加入率を示しておきたい。これも地域差があるものの、「運動部」と比べると差がかなり小さいことがわかる。「地域のスポーツクラブ」は、全国的にある程度整備されている一方で、「運動部」は自治体間の差が大きいということが言える。
■活動は週3日
報道によると、名古屋市では戦後まもなく小学校で部活動が運営されるようになり、現在は4~6年生を対象に週3日ほど運営されているという(2018年3月5日 中日新聞)。
名古屋市と同じく政令指定都市として部活動を積極的に実施してきた京都市は、約1年前の2017年4月に「京都市立小学校運動部活動等ガイドライン」を定めた。ガイドラインには、「週3日まで」、一日あたり「1時間半程度」、「常態化した休日の部活動は行わないこと」等の指針が示されている。
熊本市が2017年3月に作成した「熊本市立小・中学校『運動部活動の指針』」も同様で、「1週間の練習日は3日以内」、一日あたり「1時間30分以内」、休日は「原則として休養日」とあるように、具体的な規制が示されている。
いずれの市でも小学校の部活動は、中学校や高校に比べるとそれなりに抑制の効いた方針のもとで運営されているようである。
■部活動を学校から切り離す
小学校の部活動とは言え、基本的に大会やコンクールがある。それに向けた激励会を定期的に開催している学校もある。各部活動の選手団入場の際には、「吹奏楽部」が入場曲を演奏する。中学校や高校の部活動と変わらない日常が、そこにある。
だが、名古屋市は「廃止」の方向へと舵を切った。また熊本県(熊本市を除く)も2018年度末までに、地域スポーツに移行することを計画している(2016年3月17日 西日本新聞)。
名古屋市については「廃止」とは言うものの、熊本県と同じように、別の受け皿を想定している点には留意したい。名古屋市では、具体的には元教員や地域住民、競技団体、大学などにはたらきかけて、指導者の人材バンクを設置し、新たなかたちでの指導を実現させるとのことである(2018年3月6日 朝日新聞)。
■小中高部活動のこれから
今回の名古屋市の決断は、運動部に限らず文化部を含めて、小学校の部活動を丸ごと学校から切り離そうという試みである。教員の多忙が懸念されるなかで、小中高を問わず、部活動をできるだけ学校外へと移譲していくという選択は、もはや避けられない(拙稿「学校から部活がなくなる? 完全外部化の是非」)。
他方で学校外での活動は、全国的にもまだまだ整備が進んでいない。今月7日にも、地域のスポーツクラブにおける指導者による中学生への暴行事案について、その責任体制の未整備が話題になったばかりである(2018年3月7日 中日新聞)。
名古屋市における小学校部活動は、2020年度いっぱいの廃止に向けて、一気に外部化への動きを加速させていくだろう。小学校の部活動は地域任せだったからこそ、こうした大胆な方針を打ち出すことができたと考えることもできる。名古屋市のこれから数年の動きは、今後数十年かけて改革が進むであろう中高の部活動の行方を占う試金石になると言える。