小池百合子が壊滅させた歌舞伎町にいま、中国資本が大量流入している…「小さな店は限界だ」

■移転、廃業、解体…苦しみの歌舞伎町

人の少ない歌舞伎町というのは何度も見たことがある、だが寂しい歌舞伎町なんて見たことがない。8月上旬、本来なら真夏の歓楽街を楽しむ大勢の人たちでごった返しているはずの歌舞伎町は、昼も夜も明らかに人が減っていた。そして寂しかった。

「家賃の安いところに引っ越すんですよ、ここじゃもう無理です」

長雨明け、作業員が看板を下ろす光景を眺める居酒屋スタッフは苦笑い。旧コマの近くでも日焼けサロンだったという店の看板を剝がす若者たち。居酒屋はともかく、このコロナ禍の歌舞伎町、日サロは厳しいだろう。かつては不夜城の象徴でもあった旧コマ前の松屋も5月に閉店してからずっと空き店舗のまま。ナイタイビル火災の中、ここで定食を食べた思い出がある。隣の店舗も、あちこちの店舗で移転や廃業のための解体、あるいは引っ越し業者のトラックが横づけしている。「テナント募集」のまま風化した店舗も増えた。

「もう辞めんの」

解体に立ち会う店主から睨まれた。自分の店に対する思いを考えれば当たり前のことだ。引っ越しならまだいい。廃業だと私もいたたまれなくなる。多くは一世一代の決意で店を出したはずなのに。

引っ越し、解体、廃業が多い – 写真=筆者撮影

■歌舞伎町の優良店舗を買い漁る中国人

「中国人だってさ、最近多いんだ」

訳知り顔の老人が教えてくれる。あちこちが撤退する中、真新しい厨房器具が運び込まれている。どうやら中国資本らしい。

「個人も企業も、中国は元気ですよ。新品設備でポンと入ってくれる」

あとで不動産屋に聞くと、企業だけではなく居抜きで入る個人の中国人もいるそうだ。コロナ禍以前、歌舞伎町はインバウンドの恩恵もあってどんなに家賃が高くても空きを探すほうが大変だった。日本人の撤退をここぞとばかり、中国人はアフターコロナのはるか先を見据えて歌舞伎町の優良店舗をあさっている。コロナをばらまいた張本人である国が先に立ち直り、いまなおコロナにあえぐ国の弱みを突いてくる。大家も金になるなら日本人だの中国人だの選んでいられない。

無料案内所の前にハッピ姿の女の子が立っている。とても可愛らしいお嬢さんだが、客の来ないままずっと立ちっぱなし。真っ昼間なのに人通りはほとんどない。花道通りがこれでは絶望的だろう。

日中の花道通り、ここでも店舗工事 – 写真=筆者撮影

■立ち飲み屋では小池の悪口ばかり

「DVDあるよ」

道端で裏DVDを売っているおじさんに声をかけられる。もう令和だというのに。おじさんに話を聞こうとしたが、買う気がないとみるやそそくさと行ってしまった。みなコロナなんかより生きるのに必死。

「そんな命令誰が聞くかよ、でっかいとこはともかく、小さい店は限界だよ」

立ち飲み屋では東京都と小池都知事の悪口、8月3日から営業時間を午後10時までに短縮するように求める時短営業要請が7月30日に発表された。応じた事業者には協力金20万円が支給される。

「そんなのこの街じゃ一瞬で消える、バイト1人の人件費や保険代にもなりゃしない」

とくに鼻息の荒い客のおっさんが一人で怒ってる。

「あんなのに入れたヤツ誰だよ、ここにいねえだろうな、おまえどうだ」

串カツを頬張る私に絡んで来た。面白いので「俺は入れてないけど、366万票入ったってね」とあおってみる。

「みんなバカばっかりだ」

じゃあおっさんは誰に入れたのか聞いてみると、「さくらい」だという。桜井誠氏のことかと聞きただすと、「そうそれ」と答える。理由は都民税がタダになるからということで別に在日がどうだとかは興味がないという。というか入れる人がいなかったからとも。

「あんな連中しかいないんじゃ選べないよ」

おっさんの怒りはもっともだと適当に話を合わせて失礼する。次は小道を入ったところの小さな飲み屋、私の行きつけの副業マスターは緊急事態宣言中に店じまいを決意、いまはもう引き払っている。別の飲み屋に顔を出す。

■お粗末すぎる「感染防止徹底宣言ステッカー」

「誰が言うこときくもんか、潰せるもんなら潰してみろ」

ガハハと笑って吐き捨てる威勢のいいおばちゃん、小池都知事のことは大嫌いだ。言うこときかない、は合言葉のようなものか。

「あの女は悪い女だよ、あの本だって読んだろ、あんなのに入れた人の気が知れないね」

ここでも366万票の話、さすがにおばちゃんは怖いのであおらないでうなずくだけにする。感染防止徹底宣言ステッカーは貼られていない。

「20万円ぽっちもらってもねえ、それにあれ(感染防止徹底宣言ステッカー)って意味ないよ」

別に都庁職員や感染症対策の担当者が申請したら1件1件チェックするわけではない(場合によっては訪問、確認すると東京都防災ホームページには小さく書かれてはある)。あくまで自己申告で、自分でプリントアウトして貼るなんともお粗末な代物だ。そもそもそんなステッカーを貼っても、歌舞伎町そのものが閑古鳥、20万円もらうくらいならあくまで「お願い」なのだから協力しないで常連に飲み食いしたもらったほうがいいと考える店主がいるのは無理もない。

「あの女のパフォーマンスが気に入らないし、意地でも使ってやらないの」

おばちゃんはとにかく小池憎し。ちなみに彼女、親しみを込めておばちゃん呼ばわりしているが、その正体は古いオタクが聞いたらびっくりするような御仁である。歌舞伎町の飲み屋は彼女のように一筋縄ではいかない過去を持つ人ばかり、コロナ程度でへこまないが、こうも東京都から締め上げられては文句の一つも言いたい気持ちもよくわかる。ましてや7月24日に風営法を盾に見せしめの立ち入り検査を歌舞伎町のあちこちで強行したばかりなので反発も強い。

感染防止宣言ステッカー – 写真=筆者撮影

■ホテルは3割も埋まっていない

午後11時を過ぎた。そろそろ終電を急ぐ人でごった返しているはずなのに、歌舞伎町の人通りは少ないまま、一度ホテルに戻り出直すこととする。

「今日は3割も埋まってません、週末でも半分埋まるかどうか」

定宿にしているホテルのスタッフがこぼす。コロナ以前ならカプセルホテルすら泊まれないような信じられない価格で泊まれる。うれしさより心配のほうが先に立つ。

深夜2時の歌舞伎町、花道通りに戻ってみるも、かつてのにぎやかな歌舞伎町の姿はなかった。5月、スカウト狩りのころはコロナ前ほどではないにしろ元気で活気があったのに今は静かなもの。ホストやキャバ嬢の集団もわずか、とにかく人そのものが少ない。歌舞伎町交番の警察官も一人、ぼんやり外を眺めてる。いつもなら声をかけられるのを待っている女の子ややんちゃな若者がたむろしているハイジア(東京都健康プラザ)前も青年が一人スマホを眺めているだけ。昼間も夜も、これだけ人がいないのでは歌舞伎町という街がもたないのではないか。

深夜の花道通り、明らかに人は減った – 写真=筆者撮影

■歌舞伎町の惨状は日本の未来

「生きるのに必死だよ!」

台湾人だという立ちんぼのマッサージ嬢、本当に台湾人なのか、大陸の中国人なのかはともかく(イメージが良いので台湾や香港を名乗る場合もある)、生きるのに必死なのは事実だろう。彼女の立ち続ける午前3時の歌舞伎町一番街、引っかかってくれそうな酔っぱらいどころか人間がほとんどいない。まるまる太ったドブネズミの影だけがネットカフェのネオンに照らされている。この歌舞伎町を這いつくばる私たちから都庁は見えない。しかし都庁の「おんな城主」から歌舞伎町は見下ろせるだろう。彼女が望む歌舞伎町になったということか。いったい誰のための都政なのか。

こんな悲惨な街になるまで追い詰めるほどに、本当に歌舞伎町はコロナを東京中にまき散らしていたのか、ならばいま、この原稿を書いている8月の都内感染者の増加は何なのか、もう歌舞伎町は死にかけている。それでも感染者は収まらない。思えばパチンコの時もそうだった。すでに「夜の街」そのものの罹患者は少なく、家庭内感染や感染経路不明が大半を占めている。

責任逃れの悪者を仕立て上げ、「魔女狩り」を煽動するやり口ではコロナなど抑え込めるはずもなく、「Go Toトラベルキャンペーン」で東京を除外したにもかかわらず大阪や愛知といった同様の大都市は野放しにして感染者記録を更新し続けている日本。いったい何がしたいのか、大げさでも意図的でもなく、この世界有数の歓楽街の疲弊は決してひとごとではない。実際、大阪のミナミや名古屋の栄も同様に苦しんでいる。歌舞伎町のこの惨状は日本の都市経済の未来そのものである。

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日野 百草(ひの・ひゃくそう)
ノンフィクション作家/ルポライター
本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。ゲーム誌やアニメ誌のライター、編集人を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。2019年『ドキュメント しくじり世代』(第三書館)でノンフィクション作家としてデビュー。近刊『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。
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(ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草)

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