久しぶりにスーパーマーケットに行ったら驚いた。卵Mサイズが1パック240円から300円超えの商品構成となっている。2023年は鳥インフルエンザによる殺処分などで供給が大幅に減少し、卸値が急騰した。それが2024年初から7月にかけていったん落ち着いたのだが、足元で再び急騰している。
「物価の優等生」と言われた卵は以前、1パック100円台が当たり前だった。卵の世界にいったい何が起きているのか。
今年は猛暑が影響
1年前の2023年10月からの卵の卸値の推移を見てみよう。JA全農たまごが公表している東京でのM基準値は、以下の通りだ。
8月以降の急騰の最大の理由はこの夏の猛暑だ。35度を超える高温に耐えられず、死んでしまう鶏も出た。鶏には汗腺がないため、汗をかくことができず、体内に熱がたまりやすい。そこで夏バテになってしまう鶏が大量に発生したということのようだ。
夏バテになった鶏はカルシウム不足になったりして、卵の殻が薄くなったり、普段よりも小さな卵しか産まないなどといった現象が出てくるという。1日当たりに産む数も減ってしまう。その結果、鶏舎全体の生産量が落ち込んで供給が低下してしまった。
飲食業界の需要急増による影響も指摘されている。「月見〇〇」といった秋の商戦が激化し、外食向けの需要が高まったことが価格高騰を招いたという指摘も出ている。大手が一斉に同じようなキャンペーンをやったら、あっという間に需要が高まるということだ。
では、価格は今後どう推移するのだろうか。
日本養鶏協会の「鶏卵の需給見通し」によると、2024年下半期は「秋の月見商戦等や、例年通り冬のクリスマスや鍋物により需要が高まり価格は高値で推移するとの見方もある」
とする一方で
「鳥インフルエンザによる供給リスクの懸念から、食品加工産業・外食産業における需要が減少し、鶏卵価格の上昇傾向が止まる可能性もある」との見方も示した。
いずれにしても、上昇か高止まりの予想となり、価格の急低下は見込みづらい状況だ。
高くても国産の卵は香港で人気
国内はこうした状況ではあるが、国産鶏卵の輸出が近年急増していることをご存じだろうか。
鶏卵の輸出は2019年に8651トン(22億1000万円)だったのが、2022年には3万0633トン(85億4000万円)にまで膨れ上がった。2023年は鳥インフルエンザの影響で1万8672トン(69億9000万円)まで落ち込んだが、2024年は8月までの前年同期で数量20%増と巻き返している。
輸出先のシェアは香港が輸出量98.3%、輸出額95.6%を占める(2023年)。街には卵かけご飯をはじめ卵を使う店が急増し、日本料理店は1500軒近くもあるという(香港政府調べ)。
厳しい衛生管理で生食が可能な日本の卵。流通量では圧倒的に多く安い中国産(市場シェア6割超)ではなく、高価な日本産の卵を支持する店が多いという。
日本産の卵の需要は高まっているため、価格が落ち着くには供給量の安定確保が必要だろう。
著者:山田 稔