新型コロナウイルスの感染がまた徐々に増えつつあります。
次の「第7波」で主流になるとみられているのが、オミクロン株の1つでより感染力が高いとされる「BA.2」。さらにイギリスなどでは別の変異ウイルス「XE」も徐々に広がりをみせ、日本国内でも初めて検疫で確認されました。
新たな変異ウイルスの現状、そして必要な対策とはどんなことなのでしょうか。
- ■「BA.2」 世界で広がる
- 特徴1. “「BA.1」より感染力が強まっている”WHO
- 特徴2. 重症化率は低いか
- 特徴3. 「BA.1」感染→「BA.2」感染も
- ■ワクチンの効果
- ■今の感染者数の増加 “「BA.2」への置き換わりが強く影響”
- ■ワクチン3回目接種の進展で…
- ■新タイプ「XE」 日本でも初確認
- 1. 「XE」国内検疫で確認 成田到着の女性
- 2. 「XE」…「BA.1」+「BA.2」
- 3. 「XE」感染広がるスピード “「BA.2」より12.6%速い”
- ■複数が組み合わさったウイルスまだほかにも…
- 1. 「XD」…ほとんどデルタ株+スパイクたんぱく質が「BA.1」
- 2. 「XF」…一部がデルタ株+大部分が「BA.1」
- 3. 「BA.4」「BA.5」も確認…
- ■専門家「基本的な日常の対策は変わらない」
■「BA.2」 世界で広がる
新型コロナウイルスは世界中で広がる中で変化を繰り返しています。その中で今、世界各国で最も広がっているのがオミクロン株の1つ「BA.2」というウイルスです。「BA.1」からさらに、ウイルスの表面の突起で細胞に感染する際の足がかりとなる「スパイクたんぱく質」などの遺伝子が変異しています。
●“英93%・米72%が「BA.2」”
新たに確認された感染者のうち「BA.2」の占める割合は
▽イギリスでは保健当局が2022年3月27日までの1週間で93.9%に上ったとしていて
▽アメリカではCDC=疾病対策センターが2022年4月2日までの1週間で72.2%だと推定しています。
●“日本 5月には93%が「BA.2」に”
日本国内では国立感染症研究所が民間の検査会社のデータをもとに全国での「BA.2」の割合を推定したところ、2022年3月半ばの時点で30%程度でしたが、5月の第1週には93%、6月の第1週には100%を占めるとみられるということです。
「BA.1」では2021年12月下旬に市中感染が確認されてから数週間後の2022年1月中旬にはそれまでのデルタ株からほぼ置き換わりました。
「BA.2」は2月中旬に東京都で市中感染が確認され「BA.1」に置き換わった時に比べると急激ではありませんが、置き換わりが進んでいます。
特徴1. “「BA.1」より感染力が強まっている”WHO
WHO=世界保健機関は「BA.2」は第6波で主流だったオミクロン株の「BA.1」と比べて感染力が強まっているとしています。デンマークのデータを使った分析では「ある人が感染してからほかの人に感染させるまでの時間」=「世代時間」は「BA.1」より15%短く「1人が何人に感染を広げるか」を示す「実効再生産数」は26%高いとされています。
特徴2. 重症化率は低いか
重症化率は低いとみられ、WHOはイギリスでの分析結果として「BA.1」に感染した人と「BA.2」に感染した人の間で入院に至るリスクに差は無かったとしています。
特徴3. 「BA.1」感染→「BA.2」感染も
「BA.1」に感染した人でも「BA.2」に感染する可能性はあります。
■ワクチンの効果
ワクチンの効果はイギリスの保健当局の研究者がまとめたデータによりますと、発症予防効果は3回目の接種から
▽1週間の時点で「BA.1」は71.3%だったのに対し「BA.2」は72.2%で大きくは変わりませんでした。
一方
▽15週間以上たった時点では大幅に下がり「BA.1」で45.5%「BA.2」で48.4%でした。
■今の感染者数の増加 “「BA.2」への置き換わりが強く影響”
2022年4月6日に開かれた厚生労働省の専門家会合は、今の感染者数の増加について「接触機会の増加と『BA.2』系統への置き換わりが強く影響していると考えられる」としています。
国立感染症研究所の鈴木基 感染症疫学センター長は「(次の)第7波では『BA.2』が主体になる見込みだ。『BA.1』よりも感染力がやや強いことから、第6波よりも波が高くなる可能性を考えて医療体制を準備する必要がある」としています。
第6波でオミクロン株の「BA.1」が広がり始めた時、デルタ株と比べて重症化しにくいことが分かり警戒感が薄れたのではないかと考えられています。しかし感染者数はそれまでの感染拡大より格段に多くなったため結果的に亡くなる人も増加しました。「BA.2」でも同じことが起きないか懸念されています。
■ワクチン3回目接種の進展で…
その一方で第6波が始まった2022年1月と異なるのがワクチンの3回目の接種の進展です。政府の発表によりますと、国内で3回目の接種を終えた人は4月11日時点で65歳以上の高齢者でおよそ85%に上り、人口全体でも45%ほどとなっています。
特に高齢者で3回目の接種が進むほど亡くなる人の数を減らすことにつながると考えられ、重症化する人や亡くなる人の数を抑えられる可能性があります。実際に2回目の接種が進んだ2021年夏には、ワクチンの効果で高齢者で亡くなる人を減らせたと厚生労働省の専門家会合は分析しています。
海外の感染症の状況に詳しい、東京医科大学の濱田篤郎特任教授は「世界的にはほとんどの国で『BA.2』系統に置き換わっていて、ヨーロッパでは9割を超えている国もある。日本でも今後は接触機会を減らしながら予防対策をもう少し強めに行うことや、ワクチンの追加接種を進めることなどが大事だ。特に20代の感染者が多くなっているので、この世代への対策が再増加を軽くできるかどうかのカギになるのではないか」と話しています。
■新タイプ「XE」 日本でも初確認
さらに新たな変異ウイルスで複数のウイルスが組み合わさった「XE」と呼ばれるタイプがイギリスなどで報告されています。日本国内でも検疫で初めて確認されました。
1. 「XE」国内検疫で確認 成田到着の女性
厚生労働省は4月11日「XE」が国内の検疫で初めて確認されたと発表しました。感染が確認されたのはアメリカから入国した30代の女性で、3月26日に成田空港に到着したあと検疫所での検査で陽性となり、国立感染症研究所で検体の遺伝子を解析した結果「XE」と確認されたということです。
2. 「XE」…「BA.1」+「BA.2」
ウイルスは小さな変異を繰り返し新たな性質を獲得しますが、それとは別に1人の人が複数のタイプに感染することで遺伝子の組み換えが起きて複数のウイルスが組み合わさった新たなウイルスができることがあります。
「XE」は複数のウイルスが組み合わさってできたタイプで、オミクロン株の「BA.1」と「BA.2」が組み合わさっています。ウイルスの表面にあり、人の細胞に感染する際の足がかりとなるスパイクたんぱく質を含むほとんどの部分が「BA.2」ほかの部分が「BA.1」となっています。
3. 「XE」感染広がるスピード “「BA.2」より12.6%速い”
WHOは「XE」をオミクロン株の一種としていて、イギリスの保健当局の資料によりますと、イギリスで2022年1月19日に最初に報告されて以降、4月5日までに1179件報告されています。小規模のクラスターも報告されていますが、解析が行われたウイルス全体に占める割合は1%未満となっています。
3月30日までのデータに基づいて数理モデルを使った解析を行った結果「XE」の感染が広がるスピードは「BA.2」よりも12.6%速いと試算されたとしています。
■複数が組み合わさったウイルスまだほかにも…
複数のウイルスが組み合わさったタイプのウイルスはほかにもあり、このうち「XD」と「XF」は去年夏の「第5波」で広がったデルタ株と、オミクロン株の「BA.1」というタイプが組み合わさったタイプです。
1. 「XD」…ほとんどデルタ株+スパイクたんぱく質が「BA.1」
「XD」はスパイクたんぱく質の部分が「BA.1」それ以外のほとんどがデルタ株となっていて、イギリスの保健当局の資料によりますと、最初に検出されたのは2021年12月13日で、2022年4月1日の時点でフランスで66件、デンマークで8件、ベルギーで1件報告されているということです。
WHOは「XD」を感染力や感染した際の重症度、ワクチンの効果などに対する影響の度合いがはっきり分からない「VUM」=監視下の変異株に位置づけていますが、感染の広がりは限定的だとしています。
2. 「XF」…一部がデルタ株+大部分が「BA.1」
また「XF」はスパイクたんぱく質を含めた大部分が「BA.1」で一部がデルタ株となっています。イギリスの保健当局は2022年1月7日以降、イギリスで39件見つかっているものの2月14日以降報告はなく感染の広がりは見られていないとしています。
3. 「BA.4」「BA.5」も確認…
さらにこのほかのタイプでもスパイクたんぱく質の遺伝子が変異している「BA.4」や「BA.5」と呼ばれる変異ウイルスも南アフリカなどで確認されています。まだ感染力や感染した場合の重症度はよくわかっていません。
WHOは複数のウイルスが組み合わさるなどして新たな変異ウイルスが生まれるリスクは今も高く、ウイルスの遺伝子を解析してデータを共有することは引き続き欠かせないとしています。
東京医科大学の濱田特任教授は「『BA.4』や『BA.5』は『BA.2』と同じくオミクロン株の亜型の1つで、一つのオミクロン株が感染して増殖する過程で変異して出現してきた。感染が拡大して脅威となるのか、それほど感染は広がらないかはまだ分からないが監視をしていくことが非常に重要だ。2つの変異ウイルスが合わさったタイプのうち『XE』は感染力が高いとされているが、大きな流行を引き起こすかどうかというと今の段階では判断が難しい。むしろオミクロン株とは全く別の新たな変異ウイルスが出現する可能性も警戒すべきで、ゲノム解析などの監視体制を続けることが重要だ」と話しています。
■専門家「基本的な日常の対策は変わらない」
現在の新規感染者数は去年夏の第5波のピークより高い状況が続いています。厚生労働省の専門家会合は、さらにリバウンドの可能性も懸念されるとしていて
▽ワクチンの追加接種をさらに進めること
▽外出の際には混雑した場所や換気が悪い感染リスクの高い場所を避けること
▽不織布マスクの正しい着用、消毒や換気、密を避ける
といった対策を徹底するよう改めて呼びかけています。
厚生労働省の専門家会合のメンバーで、国際医療福祉大学の和田耕治教授は「全く予想もしなかった変異のあるウイルスではない。注目して見ていくことにはなるが対策の大きな方針が変わるといったことはなさそうだ。今は『BA.2』が主流になってきているが、XE株であっても基本的な日常の対策は変わらないし、3回目のワクチン接種を引き続き進めてほしいという方針も変わらない」と話しています。