物価は上がるが、給与は増えず……こうした状況に不満を抱いている人も多いでしょう。ただ、野村総合研究所は2022年に「ここ数年、日本の富裕層が増加している」という予想外のデータを公表しました。これはいったいなぜなのでしょうか。「経済の千里眼」の異名を持つ投資家・ストラテジストの菅下清廣氏が解説します。 【画像】「30年間、毎月1ドルずつ」積み立て投資をすると…
日本でも広がる「貧富の格差」…“局地的な”インフレ進む
2023年4月に入って、日経平均は2万9,000円台から3万円台をうかがう強さを見せ、5月17日には、2021年9月の高値(天井)である3万794円を突破しました。 なぜ日本株は強い動きを見せはじめたのでしょうか。一言でいうなら、1991年のバブル崩壊以降、30年以上続いてきたデフレが終わり、インフレの時代がはじまろうとしているからです。いや、すでに、驚くような資産インフレが読者のみなさんの身近に起こっています。 野村総合研究所による2022年の概況調査レポートでは、「ここ数年、日本の富裕層が増加している」という予想外のデータ(2021年集計)が公表されました。これは日本の世帯ごとの純金融資産保有額(金融資産の総額から借入金などの負債を差し引いた額)と資産規模を推計したデータです。 富裕層と超富裕層を合わせた世帯数は約148万世帯(富裕層約139万世帯、超富裕層約9万世帯)で、野村総研が集計をはじめた2005年以来、最多だった2019年の132万世帯からさらに10万世帯以上も増加したことになります。 なぜ日本の富裕層は増えているのか。原因ははっきりしています。局地的な資産インフレが進んでいるからです。 大都市、とくに東京の高級マンションの価格は上昇し続けています。そのため資産価値の高い不動産、あるいは株式を保有している人が資産を殖やしている。つまり、資産インフレがすでに起こっているのです。 ただし、全国津々浦々で資産インフレが起こっているわけではありません。ポイントはここです。
日本株底上げのきっかけとなった「コロナショック」
海運株(日本郵船、商船三井、川崎汽船など)や商社株(三菱商事、三井物産など)、銀行株(三菱UFJ、みずほフィナンシャルグループなど)を長く保有していた人たちは資産が飛躍的に増加しています。海運大手3社の株価は、この数年で何倍にもなりました。 日本株の底上げがついに現実のものとなってきました。底上げ開始のインフレ相場がはじまっているのです。 ではこの“底上げ開始”相場の出発点はどこか。 それは3年前の2020年3月に起こったコロナショック。FRB(アメリカ連邦準備理事会)、ECB(欧州中央銀行)、そして日本銀行が足並み揃えて大規模な金融緩和政策を実行したため、市場に溢れた資金は投機マネーとなってあらゆる資産投資へと流れ込みました。資産インフレへのはじまりです。 中でも過去最大の経済対策を打ち出したアメリカは、その波及効果、副作用も大きく、アメリカ経済は猛烈なインフレに直面しています。 2020年からはじまったコロナによる緊急事態の経済政策の継続が、それぞれの国で資産インフレを助長させていることは否めません。その結果、資産を持てる者と持たざる者の差がさらに拡大しているのです。貧困層と富裕層との格差拡大、貧富の差がさらに鮮明になってきました。 2020~2023年の3年あまり、現金を銀行や郵便局に預けたまま、あるいはタンス預金をしたままだった人々は、ほとんど資産は増えていないでしょう。むしろ目減りしているはず。しかしアセット(有価証券などの金融資産)を持っていた人は、お金持ちになっているのです。
コロナ禍以降、「超富裕層」が増えている
野村證券の最新のレポートでは、富裕層とは、グロス(負債も含めた資産の総額)ではなく、ネット(純資産)で1億円以上5億円未満の金融資産を持つ人、と定義しています。 そして超富裕層とは、ネットの金融資産が5億円以上ある人です。実はこの超富裕層の世帯数がコロナ禍以降増えているという事実がある。 一般的には驚きの現象かもしれませんが、私はこれまでの著作や講演で、また私が管理運営している音声配信サービス「スガシタボイス」の会員さんには何度も予告して来た通りの出来事が現実になってきたのです。 しかも富裕層、超富裕層とも資産はコロナ禍で減るどころか、むしろ増えている。つまり彼らの保有していた株式などの資産価値が大きく上昇したのです。 そしてこの間投資をして資産運用していた富裕層の候補である準富裕層が、富裕層に格上げ。同様に富裕層だった人々の一部は超富裕層にステージアップした結果と推察できます。 菅下 清廣 スガシタパートナーズ株式会社 代表取締役社長