日本の「知育菓子」外国人になぜ人気? 「3倍の値段」でも売れるワケ

インバウンド需要が盛り上がる中、外国人の定番土産となっている日本の菓子。そうした中、SNSを中心に“知育菓子(DIY Candy For Kids)”と呼ばれるジャンルが海外でたびたび話題になっていることをご存じだろうか。 【画像】「ポッピンクッキン たのしいおすしやさん」の完成イメージ。お菓子というにはあまりにも精巧な「寿司」が完成する  工作や化学の実験感覚で遊びながら作れる知育菓子というジャンルは、「ねるねるねるね」「ポッピンクッキン たのしいおすしやさん」などで知られるクラシエ(東京都港区)の商標でもある。その独自性や完成品の精巧さが海外で注目され、訪日旅行中の土産としてはもちろん、海外現地でも売り上げが伸長しているという。  クラシエの海外事業部長・東田守氏に、同社の知育菓子が海外でも人気を博している理由、そして、グローバル展開に当たって生まれた新たな課題を聞いた。

海外で予想外の“バズ”

 クラシエのフーズカンパニー(食品事業部門)では、化学の実験感覚で手作りする知育菓子を生み出してきた。1986年に誕生した「ねるねるねるね」は同社のロングセラー商品で、昨今は理科や科学への興味を刺激する授業教材としても展開している。  東田氏によると、最初に外国人の間で話題になったのは今から15年ほど前。YouTubeなどSNSが普及するに伴い、“SNS映え”する化学変化の様子が、海外の日本文化ファンの間で自然発生的に盛り上がった。同時期から海外輸出のニーズも高まっていったという。  「2010年頃から現在まで、ねるねるねるね以外も含めて知育菓子の需要は海外から強く感じています。公式サイト上でねるねるねるねの作り方説明動画を公開しているのですが、“バズ”を意識していなかったのに海外のファンに発見され、SNSで大きく拡散する事態にもなりました」

コロナ禍が追い風に

 海外からのニーズを受け、2015年に知育菓子ブランド「ポッピンクッキン」シリーズの海外展開を開始。現在は14カ国・地域に輸出しており、国別の輸出取引額が最も大きいのは米国で、次いで中国、韓国、台湾、香港と続く。  コロナ禍前は中国が輸出取引額でトップだったが、同国の経済やビジネス環境の変化で取引が減少、現在は2位だった米国が逆転して頭一つ抜けているという。  「当社にはコロナ禍で売り上げが半減したブランドもありましたが、知育菓子はコロナ禍の『イエナカ需要』で売り上げが伸びた珍しいカテゴリーです」  インバウンド需要が復活した現在、国内販売も好調だ。外国人が多く訪れるドン・キホーテにおける、同社の知育菓子のインバウンド売上伸長率は、2022年・2023年比較で312%に達した。売り上げを国・地域別に見ると韓国、中国、台湾の順に売れているという。人気商品は「ポッピンクッキン たのしいおすしやさん」「ポッピンクッキン ハンバーガーやさん」「ポッピンクッキン つくろう!おべんとう」だ。意外にも、「ねるねるねるね」が売り上げトップということではなかった。

日本の2~3倍の値段でも売れる

 同社の知育菓子商品の中で、国内では不動の人気がある「ねるねるねるね」。知育菓子の国内売り上げ約65億円のうち、15億円を同商品1ブランドで占めている。だが、海外で同商品の知名度は高くない。「ねるねるねるね」という独特のネーミングは、商標のローカライズが難しいからだ。代わりに、同じく知育菓子の「ポッピンクッキン」シリーズが支持されている。  為替の影響もあり、同シリーズは日本の2~3倍近い店頭価格で販売されている。そのためターゲット層も日本とは異なるようだ。  「『ポッピンクッキン』シリーズの価格は中国だと40元(約800円)。アメリカでは5ドル(約750円)前後で、最も高い小売店だと10ドルほどで販売されています。結果として経済的に余裕があり、教育への関心が高い家庭向けの商品という位置付けになっています」  海外ではこうした現地の購入層を念頭にプロモーションを実施している。例えば、アジア圏では知育菓子が持つ教育的な価値を前面に押し出している。台湾の大型書店チェーン「誠品書店」では、「ねるねる教室」「DIYクラス」と銘打ったイベントを実施し、化学実験を思わせる体験を消費者に訴求しているという。

ブランド認知の非対称性、どう乗り越える?

 海外の売り上げ比率は全体の2割弱と、国内販売の割合はまだまだ大きい。だが、6月単月の訪日外客数(推計値)313万人(推計値)という政府観光局の発表などを踏まえると、海外在住者の購入が国内外で増えているのは確実といえる。  上述したように「ねるねるねるね」は国内の知育菓子のブランディングで大きなアドバンテージがあるが、海外展開ではまず「ポッピンクッキン」のブランドを大々的に打ち出している。日本と海外ではブランド認知の非対称性があるのだ。  そうした中、クラシエは今後のブランド戦略についてどのように考えているのか。  「おそらく国内の商品開発部門も海外の需要は常に意識しながら開発していくでしょうし、その重要性は増してきています。ブランドは徐々に国内外で統一させていく方向です」  実際、国内でも訪日外国人観光客に分かりやすいように、パッケージデザインの微調整を行っている。日本で販売する商品についても、「ポッピンクッキン」のロゴを少し大きくし、視認性を上げているのだ。  誕生から30年が経過した知育菓子シリーズが今、国内外のブランド戦略を見直す岐路にいる。売り上げを大きく飛躍させる“化学反応”を起こせるか。

ITmedia ビジネスオンライン

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