日本は都合がいい…ここにきて中国人が「箱根」温泉旅館の買収に殺到している本当のワケ 熱海・草津にも

前編記事「中国人富裕層による「熱海」「箱根」の旅館の買い占めが始まる…質の低下が懸念される温泉街の未来」では中国の富裕層による日本の温泉地の買収と、その問題を紹介した。この後編記事では温泉街の買収の狙いについて詳しく解説していく。

「5億円、キャッシュで」

箱根の住民が不安がるのも無理はない。中国資本の進出によって、様々なトラブルが発生し、温泉地のイメージが下がることは往々にしてあるからだ。

中国メディア作成の日本の温泉地ランキングで幾度となく1位に輝いているのが、日本三名泉にも数えられる、群馬県吾妻郡にある草津温泉だ。アクセスの良さこそ熱海や箱根に譲るが、四季折々の景観と殺菌性の高い泉質が、中国人にも魅力的に映るという。

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そんな草津も、ここ最近になって中国人による購入の問い合わせが殺到していると、同地の不動産仲介業者は語る。

「草津町長と元町議との間で起きた騒動のせいで、日本人の買い手に敬遠されているのが大きいです。そのため、人気の伊豆エリアと比べると掘り出し物の温泉旅館も多く、中国人が殺到しています」

中国人の中には、電話越しに「5億円くらいならキャッシュですぐに用意できる。小規模でもいいから、木造の和風建築で庭付きの温泉旅館を売ってほしい」と必死に話す者もいるという。だが、この投資熱は草津の住民にとっては恐怖でしかないと、旅館の日本人オーナーは嘆く。

コロナがきっかけで

「彼らが所有する旅館で好き勝手やるだけならいいんですが……。中国人観光客は無料の共同浴場でのマナーがひどいんです。以前には、湯船の脇に赤ん坊の使用済みのオムツが放置されていたり、脱衣所で酒盛りを始めたこともあったようです。これ以上、草津のイメージが下がるようでは、困ります」

なぜ、ここまで中国人富裕層や投資ファンドの間で、温泉地の物件が人気を集めるのか。そもそも、中国資本による日本の不動産買収は、’10年代半ば頃から本格化してきたが、コロナ禍の前と後で動きが変わったという。中国経済に詳しいジャーナリストの高口康太氏はこう指摘する。

「コロナ禍前は、東京五輪などによる旅行需要の増加が見込まれ、ビジネスホテルや民泊用物件が買われていました。しかし、今になって割高だと認識され、代わりに温泉地の物件が投資先として注目されたのです。

買収を検討する富裕層からすると、旅館のオーナーになって中国全土から客を呼べば利回りが期待でき、かつ自分や家族の別荘代わりにも使える。また、日本の温泉旅館の多くは家族経営で事業継承の課題を抱えているため、買収交渉もしやすく、想定より安く買える可能性も高い。彼らにとっては費用対効果が高いわけです」

真の狙いは別にある

さらに、温泉地の物件は、周囲の施設と組み合わせることで、さらなる相乗効果が見込めると、中国人も気付き始めている。その最たる例が隣接するゴルフ場だ。

栃木県那須郡那須町にある那須温泉郷といえば、飛鳥時代の630年に開湯した名湯で知られる。同町にはかつて、日本資本の「那須温泉アイランドホテル&リゾート那須」というホテルがあったが、’18年に中国人オーナー・揚長海氏が代表を務める日源が買収、「那須陽光ホテル」と名を改めた。この時、揚氏は隣接のゴルフ場も買収し、「那須陽光ゴルフクラブ」としている。

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「揚氏は実業家ながら、自らもアマチュアの国際競技に参加する腕前のゴルファーとしても有名です。中国資本による温泉とゴルフの組み合わせは貴重なようで、コロナ禍の今も華僑団体によるコンペなどで賑わっているようです」(栃木県内のゴルフ会員権業者)

東京近郊の温泉地はまだまだ稼げる宝の山。中国人富裕層にはそう映っているだろう。だが実は、収益以上に大きな「魅力」がある。彼らが本当に喉から手が出るほど欲しいモノ、「経営・管理ビザ」と「日本の法人口座」だ。前出の辻氏が語る。

「経営・管理ビザとは、海外の経営者などが中長期にわたって日本に滞在する時に必要な在留資格です。取得にはいくつかハードルがありますが、旅館やホテルを経営する際に取得する旅館業営業許可があれば、事業の安定性や継続性を証明するものとして、審査で有利な材料になるのです」

都合がいい日本

マンションなどへの投資は、事業とはみなされず、ビザの審査外となる。しかし旅館やホテルならばその問題はない。

さらに運営する法人ごと買い取れば、日本の法人口座のおまけ付きとなる。昨今、外国人投資家が日本の金融機関で法人口座を開設することは容易ではないから、中国人にとっては極めて都合が良い。辻氏が続ける。

「ゼロコロナ政策によって、本土に見切りをつける中国人富裕層は増えています。経営・管理ビザを携え、日本の法人口座に資産を移せば、当局に没収される恐れはなくなります。また、永住権の獲得にも有利に働きます。そういう点で、温泉地の買収は今後ますます増えることでしょう」

日本の温泉街が再びコロナ前の賑わいを取り戻す頃には、風光明媚な場所はほとんど中国人に食い荒らされてしまっているかもしれない。

「週刊現代」2022年12月10・17日より

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