日本人に「認知症がぶっちぎりで多い」のはナゼなのか? 最新脳科学でわかった、黒幕とされる「ある脳内物質」の名前

人が認知症になるかどうかは、体質や遺伝といった「運命」で決まると思われてきた。だが最新医学の知見によれば、決してそれだけではない。日々の積み重ねが健やかな脳を作るのだ。

認知症は「不機嫌」から始まる

なんだかイライラすることが多くなった。スーパーやコンビニのレジで、少し焦ってしまうことがある。睡眠時間が短くなり、眠りが浅くなった—。最近そんなふうに感じているなら、あなたの脳で、認知症のリスクが急速に高まっているサインかもしれない。

「日本人はほかの国の人と比べて、悲観的になりやすくストレスを溜めやすい傾向があります。じつは近年、ストレスを感じやすい人ほど、認知症を引き起こす脳内の老廃物『アミロイドβ』が増えやすいことがわかってきているのです」

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こう語るのは、オーストラリア・シドニー大学の脳・精神センターで認知症を研究しているファン・ユンテ氏だ。

日本人のうち認知症患者が占める割合は、1000人あたり23・3人と、じつは世界で最も多い。先進国(OECD加盟国)の平均は1000人あたり14・8人。いくら日本が高齢化大国とはいえ、あまりに多すぎると思わないだろうか。

その隠れた理由として、研究者たちが注目しているのが「ストレスと認知症の関係」なのだ。なかでも、ストレスと密接なかかわりをもつ「ある脳内物質」が、黒幕と目されている。

「脳のほぼ中心にある、視床下部というところから分泌されるオレキシンです。オレキシンは別名『ストレスホルモン』とも呼ばれ、ストレスを感じたり、夜にしっかり眠れなかったりすると増えることが知られています。

このオレキシンは不眠症の患者などで特に多いことが分かっていましたが、私たちの研究によると、アルツハイマー型認知症の患者の脳内でも増えていると判明したのです」(ファン氏)

全ての原因は「脳内物質」にあり

日本人は韓国人と並んで、世界でも最も「ストレスを感じている」という人が多いとの調査がある。加えて、睡眠時間を見ると、OECD平均が8時間25分なのに対し、日本人は7時間22分で加盟国最短となっている。

つまりは、こういうことだ。日本人は世界一ストレスを感じやすく、世界一寝不足で、そして世界一ボケやすい国民である——そして、これらの原因はすべて、オレキシンのせいかもしれない。

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オレキシンは当初、脳内の「食欲中枢」で見つかったため、食欲を制御する物質と考えられていた。ところが、のちに食欲だけでなく、ストレスや睡眠をコントロールする働きも持ちあわせていることが分かった。おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩氏が言う。

「オレキシンは、ひとことで言うと『脳を覚醒させる物質』です。かつて私たち人間は、クマやヘビといった外敵と遭遇したとき、脳を目覚めさせ、筋肉や内臓を活性化させて戦闘モードに入っていました。そのスイッチこそオレキシンなのです。

この働きは今も生きていて、仕事や作業をして集中力を働かせると、脳内でオレキシンが分泌される。そのときに、副産物としてアミロイドβも増えてしまうのです」

「週刊現代」2024年7月20・27日合併号より

さらに、日本人にはこのメカニズムが働きやすくなる「やむにやまれぬ事情」もある。その詳細を後編【日本で認知症が「ぶっちぎりで多い」のは「遺伝のせい」なのか…?日本人が「ストレス中毒でボケる」悲しすぎる理由】で解説しよう

本誌より

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