音味わう「リスニングバー」
日本発祥のジャズ喫茶に影響を受けた、音楽を楽しむための「リスニングバー」が、海外で続々とオープンしている。欧米でジャズバーやジャズカフェといえば生演奏が一般的。高級オーディオでレコードやCDを静かに鑑賞する日本独自のスタイルが、新鮮と受け止められているようだ。客の会話が少ないため、コロナ禍での新たな音楽の楽しみ方としても注目されている。
「音楽への敬意感じ」NYに出店
バーの奥にある高級スピーカー。ジャズやファンクのレコードが流れ、リラックスした客たちが静かに耳を傾ける。3月に米ニューヨークでオープンしたリスニングバー「イーブスドロップ」。オーナーの一人、ダン・ウィッシンジャーさん(31)は5年ほど前、「ユーチューブ」でジャズ喫茶の存在を知り、出店を決めた。「客を踊らせるのではなく、聴かせようとするのが新鮮で、音楽とレコードへの敬意を感じた」と話す。
ジャズ喫茶は1929年(昭和4年)頃に東京で生まれたとされ、60~70年代に最盛期を迎えた。本場・米国のミュージシャンを遠く離れた日本へ頻繁に呼ぶのは難しく、代わりにレコードを鑑賞するジャズ喫茶が流行したとされる。その後、ジャンルを限定しないリスニングバーへと変遷した。
ジャズ喫茶事情に詳しい編集者の楠瀬克昌さん(63)によると、この10年で欧米やアジアなど世界各国で少なくとも50店のリスニングバーができたという。きっかけは2010年頃から、来日した海外ミュージシャンがジャズ喫茶やリスニングバーを訪れ、SNSで発信したことだ。日本のジャズ喫茶は趣味性が高く利益度外視の店が多いのに対し、海外では大規模で内装などに多額の投資が行われる傾向があるという。楠瀬さんは「レコードやビンテージオーディオは世界的な流行。ビジネスになると判断されているのだろう」とみる。
コロナ下「安全」
20年に新型コロナが流行した後も、海外では開店ペースが落ちていない。リスニングバーのプロデュースを手がける藤田祐介さん(39)は「昔はジャズ喫茶で会話すると怒られたが、(コロナ禍の)今は黙って音楽を聴く方が安全だと思われるようになった」と分析する。
昨年7月、独ビーレフェルトでジャズ喫茶「owls」を開いたローリン・ジョエル・シャーフハウゼンさん(41)は、スローフードや、瞑想(めいそう)などで心をコントロールする「マインドフルネス」の世界的な広がりと連動していると考える。「ジャズ喫茶はゆっくりと物事をすることを知る場だ」と話している。