青森県八戸市の蕪島から福島県相馬市の松川浦までをつなぐ徒歩旅行のための道「みちのく潮風トレイル(MCT)」が全線開通して4年。美しい景色や沿線住民との触れ合いを求め、春秋を中心に大勢のハイカーが訪れる。記者もその一人だ。外国人旅行者にも好評というコースの魅力について関係者に話を聞いた。
MCTは「Michinoku Coastal Trail」の略。総延長1000キロ超と、自然遊歩道としては国内最長となる。記者は昨年から唐桑半島(宮城県気仙沼市)、北山崎(岩手県田野畑村)など陸中海岸の景勝地周辺を部分的に訪れている。波打ち際のトンネルや、はしごを使って越える岩場もあり、場所によってはスリルが味わえる。各地で海産物も堪能した。
種差海岸(八戸市)、浄土ケ浜(岩手県宮古市)など6カ所には道路状況やイベントなどの情報を提供するセンターがあり、ハイカーの利便を図っている。
その一つ、名取トレイルセンター(宮城県名取市)はNPO法人「みちのくトレイルクラブ」が運営する。事務局の晴山功さん(54)は4、5月の2カ月間で桜前線を追うように全線を踏破した。「福島、宮城のコースは開放感があり、人々の暮らしが間近にあった。陸中海岸に入ると野性味あふれる道になり、人情のありがたさが身に染みた」
集落間の距離が長い重茂半島(宮古市)の山中では季節外れの降雪に遭い、栄養補給に窮して座り込んだ。地元の人が軽トラックで飲料水を運び、パンとバナナまで差し入れてくれたという。晴山さんは「泣きそうになりました」と振り返る。
MCTは、東日本大震災からの復興に国が知恵を絞る中、「被災4県を縦貫する自然遊歩道を官民協働で造ろう」とのアウトドア作家加藤則芳さん(1949~2013年)の提案を受けて環境省などが整備した。ハイカーと海辺の暮らし、震災の痕跡、景観を結び、持続可能な地域振興につなげる狙いがあった。
自治体、住民も協力し、13年11月に北端の八戸-久慈間が最初に整備された。14年10月に南端の新地(福島県新地町)-相馬間、15年には岩手県内の岩泉-宮古、野田-普代、釜石-大船渡の各区間が開通。19年6月に石巻-名取間などが完成して全線開通した。ロングトレイルの旅を楽しむ文化がある欧米に1000キロ超のコース整備が紹介され、外国人ハイカーの姿も目立つようになった。
全線を歩き通すのはハードルが高く、多くの人は日帰りや1泊程度の日程で訪れている。登山と違って目の色を変えて急ぐ必要もない。名取トレイルセンター副センター長の板橋真美さん(49)は「好きな区間を体力に合わせて楽しんで」とアドバイスしている。
宮城・山沿い「緑の道」歩いてみた 装備十分に、単独行避けて
MCTが海岸線を行く道なら、山沿いにも登山道とはひと味違うトレッキングコースがある。宮城県なら「ふるさと緑の道」が代表格。1972年、県政100周年を記念して延長357キロが整備された。蔵王、秋保、作並など観光地の近くで大きな看板を見かける。今年で50年目を迎えた「緑の道」を歩いてみた。
7月の猛暑日、泉ケ岳(仙台市泉区)から定義(青葉区)に至る約10キロの区間にトライした。
県道沿いに立つ看板からしばらくは涼しい林道歩き。チョウの乱舞と木漏れ日に癒やされ、順調に歩を進める。ところが5キロほど進んだ所で林道が崩壊していた。雨水が掘った深い溝の中をなおも進むと杉林に突き当たり、道が消えた。
来た道を戻り、林道脇に立つ植林地の地図看板とにらめっこ。たどるべき遊歩道は付近で林道から分岐し、左下方へ向かっているようだ。疑いつつ不明瞭な道を行くと「ふるさと緑の道」の標柱が現れた。「設置する場所が違うだろう」。心の中でつぶやいた。
分岐不明瞭、標柱にクマの痕跡?
この後も、進路に悩む場面が連続した。ある分岐点では標柱の案内表示がなくなっていた。クマがかじり取ったのだろう。金属の銘板も穴だらけ。右へ進むと道は間もなく消滅。ならばと左に行くと、あずまやが立っていたと思われる広場で行き止まりだった。
また右の道へ。道は必ずあると自分を鼓舞し、やぶに突入。夏草に隠れた穴に足を取られ、思い切り転んだ。痛い思いをした先に遊歩道は続いていた。
約3時間半で定義に到着。道中、平日のためか誰にも会わなかった。県のホームページでは「気軽にご利用ください」と呼びかけているが、とても無理。クマよけの鈴、地図とコンパスなどの装備は必須だろう。単独行も避けた方が良さそうだ。