月給だけ見て安心するな!“モンスター社員”が明かす「隠れブラック企業」の進化した「搾取の手口」

23歳のときに勤めていたブラック企業を突然解雇され、約20か月の裁判を争った末に700万円の解決金を手にする。さらに、29歳のときに勤めていた運送会社でも解雇され、裁判の結果、今度は4000万円を手にする……。

2社を訴え、総額4700万円を勝ち取った佐藤大輝氏が、求人広告の募集要項から読み取る、ブラック企業の「洗練された手口」について解説する。

労働裁判でブラック企業も学習した?

私が訴えた2つの会社は裁判後も毎年、何食わぬ顔で求人を出し続けている。

例えば私に(というより働く営業マンのほとんどに)月100時間を超えるサービス残業を強要していたA社。この会社には裁判で約300万円の未払い残業代を請求したのだが、訴訟後、採用ホームページの雇用条件にこのような変化があった。

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・筆者の入社時
月給19万8000円(入社3ヶ月経過後、別途、営業手当5000円支給)

・訴訟後から現在まで
月給23万1000円(固定残業代34時間、44000円分を含む。超過分は別途支給)※営業職採用の社員は、基本的に営業活動終了後は直帰

「お、給料が上がって良い会社になっているじゃないか」と表面上の給料に騙されてはいけない。なぜなら固定残業代が導入されているからだ。固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず給与にあらかじめ一定の残業代を組み込んでおく制度のこと。

固定残業代の導入は、企業側からするとメリットのオンパレードだ。まず、基本給の引き下げが狙える。

例えば上記の例の場合、おそらく基本給は18万7000円(月給-固定残業代)。賃上げどころの話ではない。私の採用時より基本給は約1万円減額している。また、基本給が低ければボーナスや残業代の計算は会社側に有利に働く。

さらに使用者側からすると「固定残業代を払ってるんだから、その分の残業をするのは当たり前だよね」と、法的にもモラル的にも正当な命令をすることができる。つまり、法律と空気感を盾にした長時間労働を強いる環境が整備できる。

わざわざ募集要項で直帰を主張している点も企業側のしたたかさが伺える。取引先から会社に戻るまでの移動時間を労働時間に含めたくない思惑が透けて見えるではないか。

おそらく固定残業代を含めた月給アップは、多少なり残業代を支払うことで労働者の不満を軽減させ、後になって高額な未払い残業代を請求されるのを防ぐための必要経費といった側面があるのだろう。

どうやら裁判というビッグイベントを経て、ブラック企業は合法的かつ低リスクで、従業員を搾取する方法を学んでしまったようだ。

労働環境の改善を他人に期待するな

搾取の常とう手段である固定残業代。就活生なら誰もが利用する大手就職サイトを閲覧すると、思った以上に多くの企業で採用されている残念な事実が確認できる。

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これら全ての企業がブラックだと言うつもりは毛頭ないが、例えば私が入社した当時から、前述したA社の求人は大手就職サイトに掲載され続けている。何が言いたいかと言うと、おそらく大手就職サイトには「隠れブラック企業」が多分に混じっている。

もちろん大手就職サイトを運営しているのは営利企業。求人掲載の「質」よりも「量」を重視しても何ら不思議ではない。批判すべきは劣悪な労働環境を提供している黒色の企業側だ。

しかし、誰もが似たような就職サイトを利用している(利用せざるを得ない)以上、就職サイト運営側にも改善の努力を重ねてほしいとも思ってしまう。誰しもいざという時には訴訟という「事後対策」の手段が残されているとはいえ、やはり就職活動の時点で入社を回避する「予防策」に力を入れた方が心身共に負担は少なくて済む。

このような問題意識を持っていた私は過去、就職サイト運営側に対面とメールの2つの手段を使い、本記事の内容ならびに訴えた会社の求人が掲載されていることを伝えたことがある。しかし残念ながら、就職サイトに大きな変化は起きないまま現在に至っている。

ならばブラック企業の撲滅は政治の活躍に期待しようではないか、と言いたいところだが、これも現実は厳しそうだ。

少し話は変わるが、未払い残業代の請求には3年の時効があることを御存じだろうか? 従来は時効が2年だったが、2020年4月1日より3年に伸長された。つまり最大で過去3年分の残業代を取り返すことができるようになったわけだが、見方を変えれば過去3年分の残業代しか取り返すことができない。

労働者の財布からお金を盗んでいるのと同じであるはずのサービス残業問題。悪質性は窃盗罪と何ら変わりないと私は思うが、時効の延長ですら1年追加が精一杯といったところ。お国が頑張ってくれているのは認めるが、どこか物足りなさを感じてしまう。

このような状況もあり筆者は、他人や社会など、外部環境が良い方向に変化するのを期待して待つのはリスクが高いと考えている。他力本願ではなく、自分自身が問題解決に向けて行動する方が早いし、確実だと思うのだ。

だからこそのセルフスタディ。個人で情報収集に励み、個人としての生存戦略を考案することが重要になってくる。

後編記事〈2社から計4700万円を勝ち取った男が説く、人生を搾取されない「ブラック社員」のすすめ〉では、経験値の高いブラック企業に人生を搾取されないための方法をお伝えする。

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