横浜市が「住みたい街」3年連続1位のウラで直面する「ヤバい未来」 エリアの「勝ち組・負け組」も鮮明に

そもそも本当に「住みたい街」か?

先日、SUUMO(リクルート住まいカンパニー)が毎年発表している「住みたい街ランキング」で、横浜が3年連続の首位になったと報じられた。

不動産情報サイトがこの手のランキングを発表する目的は、もともとは不動産業界の話題づくりや、引っ越し検討中の人の参考程度のものだったはずである。しかし近年では、街の魅力向上によって人口の維持・増加をもくろむ地方自治体や行政関係者も大きく関心を寄せ、結果に一喜一憂するようになっている。

写真はイメージです(Photo by iStock)

昨年10月の台風19号でタワーマンションの「水没」が衝撃的に報じられた、武蔵小杉を抱える川崎市の関係者は、予想されたとはいえ同地区(駅)が昨年の9位から20位へと大きく順位を落としたことに、さぞ落胆していることだろう。

しかし、このランキングの話題性が高まり結果が一人歩きする場面を見るたび、かねてその調査方法に疑問を感じてきた筆者としては、複雑な気持ちになる。

なぜならSUUMOの調査は、「鉄道沿線別に一覧表示される駅から住みたい街(駅)を選ばせる」という単純なものであり、各々の街・駅の特性など詳細なスペックを理解したうえで選ぶような、複雑な調査ではないからだ。

当然、そこから導き出される結果は、人々が普段から持っている街・駅のイメージに基づいた、単なる「あこがれの街」の人気投票になってしまう。それは本当に「住みたい街」ランキングといえるだろうか。

考えてみてほしい。ただでさえ「横浜」駅は、少なく数えても7沿線に属するから、この方法だと選択肢に出現しやすい上、もともと知名度も高く、選ばれやすい条件が整っている。

地図を見ながら答えているわけではないとすると、本来なら同駅を「最寄り」とは呼べないエリア(山下公園、元町、中華街、レンガ倉庫、みなとみらい、ランドマークタワーなどの観光名所)にあこがれる回答者からも、イメージだけで広く票を集めても全く不思議ではない。

山下公園(Photo by iStock)

別のランキングでは上位ではない

念のために申し添えるが、別に筆者は横浜に嫉妬しているわけではなく、このアンケート結果は少し割り引いて受け留めるべきであるといいたいだけだ。実際、SUUMOのライバルにあたる不動産情報サイトHOME’Sのランキングでは、全く対照的な結果が出ている。少し紹介してみたい。

HOME’SのランキングはSUUMOと異なり、インターネット調査の集計値ではない。同社のサイトに掲載された物件に対して利用者が検索・問合せした数をもとに、「借りて住みたい街」「買って住みたい街」の2部門に分けて算出されている。

2019年1年間のデータを集計し、今年2月に発表された2020年のランキングによると、横浜は「買って住みたい」でこそ13位だが、「借りて住みたい」ではなんと48位。とても上位とはいえないのである。

イメージ重視の「憧れの街」を抽出するSUUMOに比べ、HOME’Sのほうが「実際に住みたいと思う街」を抽出した、より実践的なランキングであるように感じられるのは筆者だけだろうか。

同じ「住みたい街ランキング」であっても、作成する会社によってこれだけ結果が違えば、1つのランキングを鵜呑みにして街のイメージを決めつけてしまうことが、いかに危ういかがおわかりいただけるだろう。

山積みの課題と、カジノという難題

ここからは、今の横浜が本当に「住みたい街」にふさわしい実像を持っているのかについて考えてみたい。すでにご存知の方も多いかもしれないが、横浜はさわやかなイメージの裏で、大きな課題と転機に直面している。

それは、IR(統合型リゾート)誘致をめぐる混乱である。カジノ施設を含むIRの誘致を進めたい市役所や一部の経済団体と、カジノの設置に反対する市民や一部経済人などが激しく対立しているのだ。

カジノといえば、最近は外国企業に絡んだ国会議員の逮捕案件が大きく取りざたされたため、個別地域の誘致をめぐる問題はやや隠れがちになっているが、実際に横浜市内を歩くと、反対のポスターがけっこう目に入る。

市役所がIR誘致に名乗りを上げた最大の理由は、もちろんカネだ。横浜市は巨大な自治体だが、東京に比べて大企業の本社が段違いに少ないゆえ法人税収に乏しく、今のところ比較的豊かな個人住民からの税収も、将来の人口減少や高齢化を考えると右肩下がりが予想される。その反面、社会保障費やインフラ維持費は増大していくという課題に直面している。

非横浜市民からすると、なぜ横浜市民は、すでにこれだけ世の中にギャンブル産業があふれている中、カジノ新設にそこまで目くじらを立てるのか、と思えなくもない。横浜市の面積は広く、多くの行政区は誘致予定地区のベイエリアから遠く離れている。市民の多くは、ギャンブル依存症はおろか観光公害の影響を受ける可能性も低いように思われる。

ところが、横浜市民の考えは少し違うようだ。そういう実害の問題ではなく、どうやら「カジノを作ることで横浜の品格が破壊される」ことを問題視している人が少なくないのだ。

明確になる「勝ち組・負け組」エリア

人口約375万人、2位の大阪市を約100万人引き離し、京都府や37の県の人口をも上回る国内最大の市。港町だけでなく、下町風情あり、ニュータウンあり、そして山や緑もある。

こうした多様な地域性を持ちながら、横浜市民が他地域よりも強い一体感を持っている背景には、小学校で横浜市歌を教わるというエピソードが示すように、横浜ブランドへの強い愛と誇りがある。カジノはそこに大きなくさびを打ち込みかねないのである。

ちなみに「カジノ抜きのIRにする」といった都合のいい妥協案は、施設の採算面から実現が難しいといわれており、賛成派と反対派の溝が埋まる見込みは少ない。

万一、住民投票を実施せずに市が誘致を強行するようなことがあれば、米国大統領選挙や英国のEU離脱問題で言われた「社会の分断」に陥りかねない。日本の都市のリーダー的存在である横浜で、そんなことがあってはならないだろう。

先ほども触れたが、林市長率いる市役所や一部の経済界がIRにこだわる理由のうち、特に切実な危機意識を持って語られるのが、都市の力の衰えに直結する「人口減少」と、その結果としての地域経済衰退への不安である。

これまで長年、立地条件と良好な都市イメージに支えられて順調に人口が増加してきた横浜市だが、市全体での人口ピークアウトは目前に迫っている。ベイエリアはともかく、実はかなり前から市内地域間の勝ち組・負け組もはっきりしていて、この10年で人口が減少した区は全18区の半分近い8区に及んでいる。

特に人口減少が進む「横浜駅以西・以南」

特に、金沢区・港南区・瀬谷区・旭区・栄区・泉区の6区は、ここ9年以上連続で人口減少が続いている。共通点は、東京都心への通勤に時間がかかる横浜駅以西・以南のエリアであることだ。

この中には、2019年秋に相鉄(相模鉄道)がJRと接続し東京都心と直通し始めたことで恩恵を受けるエリアがあり、人口減少に歯止めがかかるという意見もあるが、筆者は懐疑的だ。

現在進行中の郊外エリアの人口減少は、かつて開発された戸建て住宅や団地から子どもが巣立ち、さらには残った親もより便利な都心側へ転居するという流れの中で起きている。人口減を食い止める方策を、駅前再開発や企業用地の放出による大規模マンション開発に頼っているようでは、いずれ限界が来るだろう。

筆者は以前、上記の人口減少エリアに所在する、ある社宅に住む知人の家を訪ねたことがある。知人曰く、このエリアは緑が多く暮らしやすいとのことだった。通勤先が横浜ベイエリアならば言うことなしなのだが、東京都心まで通うには遠い、とぼやいていたことが記憶に残る。

本当にカジノで生き残れるのか?

こうした声を聞いていると、結局、横浜市内の人口減少を食い止める決め手は、東京都心へのアクセス向上よりも、横浜市内で職住接近できるよう、市中心部の経済力を強化すること(雇用の確保・増大)であるような気がしてならない。

そのためにIRがどのようなメリットとデメリットを持っているのか、市役所と市民は、これから本当に難しい決断を迫られることになるだろう。

横浜が誘致を断念したとしても、今後IRは日本のどこかに建設されるはずだ。誘致した他地域が成功した場合、後年の横浜市民たちは、「あの時やっぱり作っておけばよかった」と悔しがるのか、それとも泰然自若として全く後悔なしと言い切れるのか。

いまや「住みたい街No.1」の称号が不動のものとなりつつある、横浜市民の眼力が試されることになりそうである。

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