海外投資家が一気に逃げ出す? 都心タワマンが大暴落する「遠くない未来」

7月31日、日銀の金融政策決定会合で、政策金利の引き上げが決定された。これまで金利を意識することなく住宅を購入してきた日本人にとって、久しぶりに金利という概念に向き合うきっかけを提供した。

住宅ローン金利は、これまで金融機関同士の激しい競争もあって極めて低い水準で推移してきた。

特に変動金利型ローンについては、各行の短期プライムレート(優良企業などに貸し出す最優遇金利)に連動して金利を適用してきた。

短期プライムレートは日銀の政策金利と連関しているため、今回の利上げの発表は、すわ、変動型住宅ローンの金利が上がると連想されたのである。

短プラと住宅ローン金利の関係

誤解のないように説明すると、日銀がローン金利を決定しているわけではなく、日銀の政策金利を基準に各行は独自に短期プライムレート(短プラ)を決定している。

そのレートに、住宅ローン向けに上乗せ金利(スプレッド)を足して、ローン金利を提示しているのが変動金利型住宅ローンの構造だ。

したがって金融機関は先の日銀の決定を受けて、自分たちが適用する短期プライムレートを決定し、そこに一定のスプレッドをどれだけ乗せるかを考えて、新たな住宅ローン金利を発表するという流れとなる。

だから7月の決定を受けていきなり金利が上がるのではなく、金融機関各行あるいは住宅ローン提供会社がそれぞれの事情を勘案し、適用金利を決定するまでには若干のタイムラグがある。

多くの金融機関は金利の見直しを毎年4月と10月に設定している。したがって今回の動きを経て、10月までに新たな金利を決定、債務者に通知し、実際の負担増を求めるのは来年1月分の支払いからということになりそうだ。

すでに金融機関や住宅ローン提供会社からは、新金利の発表を行うところも出てきた。引き上げ幅は0.1%から0.25%。日銀がいう0.25%にいきなり追随するところもあれば、スプレッドを削って債務者に寄り添うところなど、対応はさまざまだ。

したがって、現在変動金利を利用中の人は、各金融機関からの発表を固唾をのんで見守っているというのが現状だ。

ただ今回の引き上げ幅はそれほど大きなものではないので、その影響についてあまり報道はされていない。

また、金融機関によっては当初5年の返済額は変わらない、6年目以降も総返済額を当初の1.25倍までに抑制するなどの激変緩和措置を講じているため、すぐに返済額が変わらない場合もある。

だがこの場合でも、返済額のうち金利が多く含まれることになり総返済額が膨らむことに変わりはない。

適用金利が0.25%上がったら…?

東京を始め大都市に建設・分譲された新築マンション価格が、この2~3年で大幅に上昇したことから、これにフックを掛けた購入者が抱えるローン金額は巨額に膨らんでいる。

都心湾岸部などにそびえ立つタワマンなどは、富裕層や国内外の投資家、相続税対策をする高齢富裕層などが主な買い手だ。またそれらに交じって、パワーカップルと呼ばれる共働き夫婦、世帯年収が1500万円程度以上の世帯が、1億円程度の資金を夫婦ペアローンなどで調達して果敢に買っている。

ちなみにペアローンとは、夫婦が互いに相手に対してローン返済について連帯保証を行うもの。低い変動金利と、夫婦ともに享受できる税額控除などの優遇策を目いっぱいに活用できる。

この夫婦が、1億円の変動金利型住宅ローンを利用しているケースを考えてみよう。

現在の金利を仮に1%とし、35年ローンを組んでいる場合、毎月の返済額は、ボーナス返済なし、元利均等返済で毎月28万2285円である。かなりの金額だが、世帯年収1500万円であれば、年間返済額338万7420円は年収の22.6%程度。なんとか凌げる金額といえる。

さて新しい適用金利が日銀がいう0.25%に上がった場合、返済額はどうなるだろう。

月々の額は29万4086円。1万1801円の負担増だ。年間にすれば353万円なので、14万円ほどの返済額増ということになる。

ただ、住宅ローンは超長期のローンである。仮にこの金利のままで推移したとしても、返済総額は500万円近く膨らむことになる。

35年間という長い期間において、子供の新入学などとにかくお金がかかる。加えて夫婦の健康や勤務している会社の経営状況に大過なく、夫婦ともに順調に給与を増やしていくことがあくまで大前提の話となる。

日本銀行は年内12月にもさらなる引き上げを目論んでいるという。

7月の利上げでは株式市場が大暴落するなどしたため、影響の大きさに怖気づいて利上げを行わない可能性もあるかもしれない。

ただ、今年いっぱいでローンを完済するわけではないし、今後の金融情勢、日本経済の行方、世界の金融マーケットの動向によって金利は縦横無尽、変貌自在の動きをする。このリスクが実際に生じるケースも当然想定しておかなければならないだろう。

「金利」と「管積金」の上昇、二重苦が家計を襲う

そもそも住宅ローンの変動金利が、なぜ金融機関の短期プライムレートという期間1年未満の最優遇金利を適用しているのだろうか?

スプレッドで調整しているとはいえ、1年の金融状況と35年や最長40年といった超長期間のファイナンスの基準金利が同じという発想はどうにも解せないものがある。

通常は短期金利のほうが長期金利よりもボラティリティ(変動幅)が高い、つまり激しく変動する。この恩恵やリスクにどこかで必ず遭遇するのが、変動型住宅ローンの宿命だ。

先ほどのシミュレーションに戻ろう。現在1%の金利が、2%に上昇したらどうなるだろうか。

毎月返済額は33万1262円。当初設定時の4万9000円ほどの増額、年間58万7700円の負担増だ。総返済額では2000万円超の負担増となる。これでは描いていた人生計画の多くについて、変更を考えざるを得なくなるだろう。

これに追い打ちをかけることがほぼ確実なのが、管理費及び修繕積立金の値上げラッシュだ。

建設費の値上がりについて耳にしている人もあるかと思うが近年、建設費は3割以上の値上がりが続いている。多くの建設資材を輸入に頼る日本は、アジア諸国の経済発展による建設需要の勃興による資材高騰の波と為替安の波に直面している。

こうした状況は特に築15年から30年の期間に2回ほど行う大規模修繕費用を直撃する。1回目をクリアしても2回目の修繕に備えた積立金は、多くの管理組合で不足の事態に陥ることは容易に想像がつく。

あるマンション大規模修繕現場では、エレベーターの費用が分譲時に見積もっていた費用をはるかに超える金額であることが判明。更新工事を見送ったという。また、エレベーターを調達できても、設置する人工の手配がつかないということで工事が大幅に遅延している現場もあるという。

今後の積立金の値上げは必須だろう。しかも、人手不足で満足な工事さえ行うことができなくなっているのが、まごうことなき現在そして将来の日本の姿だ。

管理費においても人手不足は値上げに直結する。金利だけでない、管理費や修繕積立金の負担がこの先2万円、3万円と上がってくると、金利の悲鳴との合わせ技で家計を苦しめることになるのだ。

最後に、「今回の金利のわずかな上昇は大きな影響はない。マンションマーケットは好調を維持する」との見方について考えてみよう。

都心の超高額マンションは実需というよりも一部の富裕層、国内外投資家、節税層などで成り立っているのが現状だ。特に投資家は金利の変動には極めて敏感だ。金利の上昇幅がどうのこうのというよりも、いよいよマーケットの節目に来た、つまり環境が変わったととらえる恐れがかなりある。

パワーカップルと違って投資家の逃げ足は速い。円高に転じた今、早めに物件を売って自国通貨に換え、ゲームをいったん終了しようと考えても不思議ではない。

楽しい劇もいつまでも続くものではない。ステージが暗転して全く異なる芝居が勝手に始まるのが不動産投資の現場だ。この場移りに、一般実需層が飲み込まれないよう願っている。

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